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58.影者

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 ランスたちが王都に帰っている最中、森林地帯に一人、そのドラゴンの死体を眺める者がいた。

「……で、どうだったのだ? その黒髪の少年は」

「はい。閣下がおっしゃった通り、破格の実力を持っているようです」

「ということは、私が君に託したドラゴンは……」

「も、申し訳ありません……」

「ふん、そうか。その黒髪の少年が一人でやったのか?」

「一応、もう一人金髪の男がいましたが、倒したのは黒髪の方で……」

「なるほどな。そりゃあイェーガーウルフも軽く捻られるわけだ。まさに”規格外”だな」

 魔法陣越しに聞こえているのは男の声。
 男はこの結果が予想できていたのか、ドラゴン討伐に関して驚くようなことはなかった。

「それで、はどうなったのだ?」

「はい。どうやら彼らとの接触は成功したようで」

「そうか。特に変わった様子はなかったか?」

「特に変わった様子はありませんでした。見た感じ、周りの人間とも上手く溶け込めているようで」

「分かった。引き続き、お前は奴と奴らの監視に当たれ。特にフラムからは目を離すなよ」

「仰せのままに……ダウト閣下」

 ここで通話は途切れる。
 影者はゆっくりと立ち上がると、去っていくランスたちをじっと眺め、

「ランス・ベルグランドか。あの少年は危険だ。ダウト閣下の理想実現のためにも早急に排除せねば……」

 影者はそう呟くと、森の暗闇の中に消えていった。


 ♦

 
 それからしばらくして、俺たちは王都へと戻った。
 そしてその後、俺はリベルと共にマスタールームへと連れていかれたことに。

「いきなりですみません。好きなところに腰をかけてください」

「し、失礼します」「失礼します」

 俺たちは隣どうしで腰を掛け、向かいにドロイドが座るという配置となった。

 マスタールームに入るには二回目だが、全面ガラス張りの空間はやはり落ち着かない。
 リベルも初めて入ったのだろう。

 流石にこの空間に慣れるまで結構苦労していた。

「あまり気を張り詰めなくても大丈夫ですよ。今日は単なる事情聴取ですので」

 笑顔でそういうけど、これは仕方ないこと。
 逆にこんなところで仕事に集中できるドロイドさんはすごいなと思う。

 俺だったら気が散って仕事どころじゃなくなるだろう。

「じゃあ、早速ですが本題に入りましょうか」

 特に何か世間話を挟むわけでもなく、本題へ。
 俺たちはあの場所で起こった思いつく限りのことを淡々と話し、ドロイドはそれをメモ帳に書き記す。

 リベルはこの異次元の空間に早速適応したようで、状況を事細かく説明し続ける。
 俺も少しは喋ったが、複雑な説明はすべてリベルに任せることにした。

 人にうまく伝えるには苦手だからな。
 そもそもあまり人と関わってこなかったのがいけないんだろうけど。

 対してリベルはコミュニケーション能力が異常に高かった。
 あの時の状況をうまい具合に言葉に起こし、身振り手振りを交えながら説明をしている。

 まさに語彙力の差が明らかになった瞬間だった。

「なるほど。それでどうなったんです?」

「はい、実は――」

 そんな感じで30分くらいで事情聴取が終了。
 驚くことにドロイドのメモ帳にはリベルが話した内容がびっしりと書かれていた。

「ありがとうございました、ランスくん、リベルさん。おかげで調査に必要な手掛かりを得ることができました」

「いえいえ。お役に立てて光栄です」

「自分も、お役に立てたのならよかったです」

 とはいってもほとんど俺は喋っていないんだけど。

「これで、例の謎にも少し近づけた気がします」

「例の謎……? 何かあったんですか?」

 ふと零されるドロイドの意味深な発言。
 リベルは真っ先に食いつき、ドロイドに問う。

 ドロイドも特に隠す必要はないと判断したのか、何の躊躇もなく、口を開いた。

「実は、少し王都内で事件が多発してまして……」

「事件……ですか?」

「はい。これはまだギルドの上層部しか知れ渡っていない話なのですが、この際なのでお二人にはお話ししておきましょう」

 何やらまだ公にはしていない特別な情報らしい。
 ドロイドはすっとソファから立ち上がると、窓際に寄り、王都の景色を眺めながら。

 その事件とやらを話し始めた。
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