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63.多忙です

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「それじゃあ、お互い頑張ろうランス殿」

「お邪魔したな」

「は、はい。わざわざありがとうございます。アルバートさん、レイムさん」

 玄関先にて。
 俺は帰城しようとする二人をソフィアと共に見送っていた。

「ソフィア様もお体にはお気をつけて」

「ありがとう。お父様にはわたしは元気にやっているとお伝えください」

「わかりました。王城にお越しになる際は、またご連絡ください」

「では、ソフィア様、ランス様。我々はこれにて。アリシア、後は頼みましたよ」

「かしこまりました、アルバート様」

 無駄のない丁寧なお辞儀をアリシアがすると、二人は軽く手をあげ、護衛の騎士たちと共に王城へと帰って行った。
 
 そしてようやく訪れる安寧の時間。
 俺はふぅと息を吐くと、大きなあくびをしながら、身体を伸ばす。

「ようやく休める……」

「お疲れ様です、ランス。ところで、アルバートたちと何を話していたのですか?」

「色々だ。ほんともう、頭がパンクしそうだよ」

 さっきまで二対一で行われていた面談で。
 俺はある要求を受け入れることになった。

 それは帝国との戦争を促そうとする輩を見つけてほしいという、一般人に頼むにはスケールが大きすぎるレベルの依頼。
 
 一言でいえばスパイ探しだった。

 もちろん、国が主導になって不審者探しをするので俺はそれに協力するという形だ。
 でもそんな国家レベルの話の中にそう易々と一般市民を入れてよいものだろうか。

 確かに今の俺は国の人間に近しい存在だが、体裁上は普通にその辺で暮らす人と変わらないんだぞ?

 それにドロイドさんに頼まれた黒ずくめの男たちの捜索もあるし。

(なんかやることだらけになっちゃったな)

 一応黒ずくめの集団の話と関係があるかどうかも聞いたが、それもまだわかっていないらしい。
 アルバートさんが言うには関わりがある可能性は高いとのことだが。

 というか今の王都、治安悪すぎじゃないか?

 なんか色々な方面から話を聞く限りだと、陰謀の匂いしかしないんだが。

(頼まれたからにはやるしかないよな……)
 
 実際、はいと言ってしまったわけだし。
 
「はぁ……」

「ランス……? どうかされました?」

「いや、何でもない」

「相当お疲れのようですね。今日はもう自室で休まれてはいかがですか? お部屋の掃除とベッドメイキングはもう済ませてありますので」

「ありがとうございます、アリシアさん。そうさせていただきます」

 アリシアさんの言う通り、今日はもう休もう。
 明日も朝早いんだし、考えるよりも寝た方が気持ち的にも楽だ。

「じゃあ、俺は先にゆっくりとさせてもらうよ」

「は、はい……」

 心配そうな眼差しを向けてくるソフィアに俺は相も変わらずの堅い笑みで返すと、俺は自室に向かって歩き出す。

「あ、あの! ランス!」

「ん? どうしたソフィア?」

 自室に向かおうとする俺を止めるソフィア。
 何か言いたげな雰囲気を醸し出すソフィアは俺の元へと駆け寄ると、

「そ、その……何か辛いことがあるのでしたら何なりと言ってくださいね。わたしなんかで力になれるかはわかりませんけど、なんでも相談に乗りますから!」

 語調は力強く、でも内面は少し弱々しさを出ていた彼女の励ましの一言。
 その眼には少し潤いがあって、俺のことを真に心配してくれているということがすぐにわかった。

「ありがとう、ソフィア。でも俺なら大丈夫。少し疲れが出ちゃっただけだから」

 これ以上、心配させないようにと出来る限りの笑顔を添えてそう返した。
 その一言で少しだけソフィアの顔に笑顔が戻ったが、まだ不安は抜けきっていない感じ。

 そんな彼女に俺は「だから心配するな」と言いながら、手を頭に乗せ、そっと撫でると。
 俺はその足を自室の方へと向けた。
 
「ランス……」

 ソフィアはそんな俺を見ながら胸に両手を当て、それを見守る。

(すまん、ソフィア。今日はちょっと休ましてくれ)
 
 俺は振り返ることもせず、その疲労でいっぱいの身体を無理に動かす。
 そして自室に入るなり、ベッドに直立ダイブすると、そのまま深い眠りについたのだった。
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