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65.二度目の……

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「な、なんでソフィアとイリアがここに……!」

 俺の両隣に横たわる二人の少女。
 半裸の姿でしかも布団や毛布などで隠すこともなく。

 当たり前のようにスヤスヤと寝息を立てていた。

「なんでこうなった……」

 正直、昨日は屋敷に帰ってきてからすぐに自室に戻って寝てしまったから、それ以降の記憶は全くない。
 考えられるとすれば、俺が寝た後にコッソリと部屋に入ってきてベッドに入ったと解釈できるが……

(なんで、下着姿なんだよ……!)

 寝間着姿ならぬ下着姿。
 それは言葉通り、普段なら決して拝むことのできない知る人ぞ知る絶対領域。

 特に俺みたいな異性に縁のない人生を送ってきた者にとっては下手すれば一生見ることができなかったはずの姿。
 
 まさに神秘のベールを剥いだ姿がそこにはあった。
 しかも二人も。

(ソフィアはピンク。イリアは……おおっ、歳の割に結構エロいの着てるんだな……)

 目を反らそうにも自然と目がそっちの方向に向いてしまう。

「何とも明媚……いや、けしからん光景か」

 つい本音が出てしまうオレ。
 でもこんな光景を目に出来るなんて思っていなかったのも事実。

 こんな目の前で美少女たちが下着姿で寝ているなんて、一端の富豪でも中々味わえないこと。

 しかも、当の二人はまだぐっすり。
 それもそのはずで枕元にあった置時計を見ると、長針は12、短針は5の位置を指していた。

 朝が弱い二人にとっては揺らしたりして強引に起こさない限り、目を覚ますことはないだろう。

 つまり何が言いたいのかというと……。
 
(これは、ある意味幸運だったと捉えてもいいのではないか?)

 脳裏に良からぬ思考が駆け巡る。
 というのも二人が目を覚まさない限り、俺はこの夢のような景色をずっと見ていられる。

 もちろん、頭の中ではダメだと分かっている。
 でも心身共に疲れきったこの身体を回復させるには少しくらいこういうことがあってもいいだろうと思っているのも否定はできない。

 それによくよく考えてみれば下着姿でこんなところにいるということ自体、おかしな話。
 どんな手違いがあったとしてもこの状況を作り出すのは至難の業だ。

 と、いうことはだ。

 それらの憶測を整理すると、この状況は彼女たちが故意的につくりだしたものだと考えることもできる。
 
 どんな理由なのかは不明だが、俺が就寝した後にコッソリと俺の部屋に侵入し、下着姿に。
 そしてそのままベッドに入って自分たちも寝た。

 普通に考えてみれば変な話だが、あり得ないことではない。

 で、あるならば。

 この状況は見られるという事態を分かっていながらの犯行。
 
 つまりは……このエロスな状況を俺が目の当たりにするのは別に罪ではない。
 むしろ正当化されてもいい。

 彼女たちは俺に下着姿を見せにきている。
 それを見ないのは逆に失礼なことだ。
 
 だからこそ、今の状況に不信感を持つことはない。

 堂々と、毅然とした態度で二人の下着姿を堪能すれば――

「……って! んなことが許されるか!」

 自分で自分に盛大なるツッコミを入れる。

 それと同時にさっきまでのおかしな考えを脳内から綺麗さっぱり抹消した。

(何を考えているんだ俺は……)

 冷静に考えてそんなことがあるはずないだろう。

 仮にそうだったとしてもこれは倫理的にアウトだ。
 恋人でもない女の子の下着姿を見るなんて大罪に等しい。

 こうして異性と一つ屋根の下で暮らすからには越えてはいけない一線というものがある。

 向こうがOKサインを出そうが、守らなければいけないものがあるのだ。

 それにこんな状況、誰かに見られでもしたらそれこそ――

「おはようございます、ランス様」

 ギクッ……!

 ノック音と共に部屋の外から聞こえてくるアリシアさんの声。
 同時に心臓の鼓動がこれでもかとビートを刻み、緊張で嫌な汗が額から滴り落ちる。

「お、おはようございます。アリシアさん」

 俺は二人を起こさない程度の声でアリシアさんに返事を。
 状況が状況なだけに少し震え声での返答になってしまう。

「え、えっと……こんな朝早くに何の御用で?」

「ああ、申し訳ありません。今朝はお早いご出発とのことでしたので、モーニングコールに」

「そ、そうだったんですか。わざわざすみません……」

 まさかのこのタイミングでかぁ……

 本音を言えばもう少し遅い時間に来てほしかった。

 でも毎朝、アリシアさんが起こしに来てくれるのは通例行事。
 アリシアさんを責めることなんて俺にはできない。

 というかする権利などない。

 でもこの状況を見られるのは……

(流石にマズイ!)

 もう既に一回、似たようなところを見られたという前科があるからな。
 二度目を見られたら、流石に弁解の余地が無くなってしまう。
 
「ランス様、もし起床なされるのでしたら、お部屋のお掃除の方を……」

「あ、いや……! すみません、今はちょっと取り込んでまして。もうちょっとだけ時間をずらしていただけると嬉しいのですが……」

「は、はぁ……そうですか。分かりました。ではまた後程お伺いいたしますので」

「す、すみません……」

 はぁ……なんとか最悪の事態は回避したか。

 でも問題はこれから。
 とにかく今はこの状況から脱しなければ。

 俺は二人を起こさないようにゆっくりとベッドから出ようとする。
 
 が、瞬間。

「ん~ランスぅ~まってぇ~」

 俺の手に何かが絡みつき、進行を阻害するものが。
 
 その正体は俺の右隣にいたソフィアだった。
 ソフィアは俺の腕を両腕でガシッと掴んでくると、動かないようガッチリとホールドしてくる。

「お、おいソフィア……! いきなり何を……」

「ん……むにゃむにゃ」

 目を瞑ったまま、ニッコリと笑みを浮かべるソフィア。
 その様子から察するに……

「……まさか、寝ぼけているのか?」

 何の夢を見ているのか知らないが、ソフィアの意思はそこにはなかった。
 完全にお寝ぼけ状態である。

(マズイ。これじゃあ二人を起こさないようにベッドから出ることが出来ない)

 てか、なんて力だ……。

 軽く振りほどこうとしてみてもビクともしない。

(ソフィアってこんなに力が強かったのか……?)

 見た目にそぐわない一面を垣間見ながらも、俺は何とかしてその場から脱しようとする。

 が、その時だった。

「失礼します、ランス様! そちらにイリア様とソフィア様が来ていない……」

「……あ」

 何のノックもなしに慌てて部屋に入って来るアリシアさん。
 その慌てるアリシアさんと目が合い、その直後に彼女の視線は裸同然の姿をしたソフィアたちの方へと向けられる。

 俺はその唐突に訪れてしまった最悪の事態に、思考停止を余儀なくされた。

 ……あ、今度こそ終わったわ。
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