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67.ランスを元気にしよう計画1
しおりを挟む「アリシア、少しお時間いいかしら?」
「大丈夫ですよ。どうぞ遠慮せずにお入りください」
ランスが自室に戻ってから数時間後、ソフィアはとある理由でメイド長のアリシアの部屋を訪れていた。
それもいつもの様子とは違い、少し悲し気な表情を浮かべながら。
「どうかなされましたか、ソフィア様?」
アリシアはすぐにその異変に気付いた。
これは何かあるな……と。
「じ、実は……」
ソフィアの小さな口から出てきた言葉。
それは話題としては唐突なものだった。
「人を元気にさせるにはどうすればいいか……でございますか?」
「うん。さっきまで部屋で考えていたのだけれど、どうすればいいのか全然思いつかなくて……」
その顔はまさに真剣そのもの。
本気の悩みだった。
そして同時に、アリシアは悟る。
「ランス様のため……ですか?」
「へっ……?」
その名を聞いた瞬間、身体をビクッとさせるソフィア。
アリシアの予想は的中だった。
「やっぱり……。ランス様が気になるのですね?」
「……」
ソフィアは無言でコクリと頷く。
彼女はランスのことを本気で心配していた。
ソフィアは他の誰よりもランスの傍にいた時間が長い。
ここ最近の彼の頑張りを誰よりも認識しているのは他でもない彼女だった。
「心配なの。元々ランスが多忙な日々を過ごすことになったのも全部、わたしが彼に――」
「いえ、そんなことはないと思いますよ」
「えっ……?」
アリシアはソフィアが何を言うかをすぐに察し、言葉を遮る。
アリシアもまたそんなソフィアを影で見守ってきた人物。
ソフィアの考えなんて全てお見通しだった。
「ソフィア様は何も悪くないです。ランス様は前におっしゃっておりました。ソフィア様のおかげで、毎日が充実していて楽しいと」
「その話……ホントなの?」
「ええ、本当です」
ソフィアは自分のした行動に疑問を感じていた。
ランスにとって全ての始まりはソフィアとの出会いからだ。
そこから彼の人生は大きく変わっていった。
ソフィアも一般人だったランスを無理矢理に自分たちの世界へと引き込んでしまったことによる責任を感じていた。
自分が魔法を教えてほしいだなんて言わなければ、ランスもあんなに気苦労せずに済んだのではないかと。
「でも、わたしがランスをあそこまで追い込んだ元凶を作ってしまったことに変わりはありません。それに、わたしはまだ彼に十分なほどの恩返しができていません。それなのに、いつもいつも助けられてばかりで……」
「……ソフィア様は本当にランス様のことを大切に思っていらっしゃるのですね」
「と、当然です! だって、ランスのわたしの命の恩人なのですから。こうしてわたしが何事もなかったかのように日々を過ごせるのも、彼のおかげです。死んでいたはずのわたしに、命をくれた方なのです」
ソフィアの中では恐らく……いや、絶対に忘れはしないあの出来事。
ランスにとっても全ての始まりになったあの日のこと。
ソフィアにとってランスは命の恩人であり、特別な存在でもあった。
「ランスには少しでも元気になってほしい。元気に毎日を過ごしてほしいのです。だからお願いアリシア! わたしに彼を元気にするための知恵を貸してほしいのです!」
潤う碧眼から感じる強い意志。
本気のその眼から感じたのは、大切な人を一途に想う強い気持ちだった。
(ソフィア様がこんな目をするなんて……)
アリシアは今までにない表情を見せるソフィアに少し驚きつつも、
「分かりました。ソフィア様のお力になれるかは分かりかねますが、私も出来る限りの知恵を出しましょう」
「あ、ありがとうアリシア!」
こうして二人のランスを元気にするための計画がはじま――
「ちょっと待ったァァァァ!」
バタンと勢いよく扉が開くと同時に聞こえてくる叫び声。
背後を見ると、そこに立っていたのは異様に息を切らすイリアの姿だった。
「い、イリアさん!?」
「あんたたち、何か面白そうなこと考えているでしょ? その話、わたしも混ぜなさい」
イリアは一度ふぅ……と息を吐き、呼吸を整えると、そう二人に言い放った。
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