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74.謀議

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 ランスたちが調査を開始する少し前。
 王都のある場所で、とある暗黒会議が開かれていた。

「リーダー、例の活動の件は明日決行で?」

「ああ。予定通り、明日の晩に決行する」

 漆黒のローブを身に纏う6人の集団。
 その中心にいるのが、リーダーと呼ばれる大柄の男ヴェルム。
 
 リーダー用なのか彼だけが頭部に金色のツノのようなものがついたローブを着用していた。

「じゃあ、とうとうおっぱじめるんっすね!?」

「ある程度の生贄は揃ったからな。これ以上、やると奴らに感づかれる」

「ギルドですかい?」

「ギルドもそうだが、最近では国の方も動き始めようとしているらしい。本格的にネズミ叩きに入るようだ」

「ケケケッ! 今更始めても遅いってのに、呑気な奴らじゃ」

「ま、たとえ国が動こうと我々を見つけるのは至難の業でしょう。なんたって……」

「洒落た人気カフェの屋根裏に誰かが潜んでいるなんて誰も思わない……だろ?」

「むぅ……私が言おうとしたのに」

「おいおい、そのカフェの店主がリーダーだっていう重要項目が抜けてるぞ!」

「ぷっ……!」

 突然誰かが噴き出す。
 だがすぐにヤバイと思ったのか、両手で口元を隠した――が。

「あ、リーダー! こいつ、今笑いましたよ! リーダーがカフェの店主ってところで笑いましたよ!」

 隙に付け入る形で一人の男が指摘する。
 指摘された男が少しあたふたしながらも、すぐに弁解する。

「べ、別にそこで笑ったんじゃない! た、ただの思い出し笑いだ!」

「嘘だな! さっきのはどっからどう見てもリーダーのことで笑っていた。確かに面白いのは否定しないが、時と場合ってのがあるだろうが! ねぇ、リーダー?」

 指摘した男はそう言いながら、ヴェルムの方を向く。
 周りの者たちは少し焦りながらも、じっと黙り続けていた。

 お前、本音が漏れているぞ……と心の中で思いながら。

「……おい、ジッタル」

「は、はい?」

 リーダーヴェルムの一声でジッタル以外の全ての者がビクッと身体を跳ねさせる。
 
 これはマズい、ぶっ殺される。
 
 一人を除く全員がそう思い始めた――その時だ。

「俺がカフェの店主をやっているのがそんなに変か?」

「えっ……?」

 まさかの他己評価を求める姿勢を見せる一同が驚く中、ジッタルは答える。

「い、いや変と言いますか……そう、ギャップがあるんです!」

「ギャップだと?」

「ええ。だってリーダーみたいなちょっと強面な人がカフェをやるなんて考えられないですよ。少なくとも俺は思いませんね!」

 この男は目上の人物に向かって、失礼なことを言っている。
 しかしヴェルムは無言で二回頷くと。

「そうか。思わないか……」

 少し落ち込んだトーンでそう零す。
 何か気になる節でもあったのか、ヴェルムは少し考え始めると、再び口を開く。

「……まぁいい。逆にその方が好都合だからな」

「そ、その通りです。これぞ完璧なるカモフラージュというもの。流石はリーダーっす!」

「そ、そうです! 工作活動をしながら、その次いででお金も稼げる。この潜伏方法を考えたリーダーはやっぱ天才ですよ!」

 周りの部下たちが一斉にリーダーを褒めにかかる。
 実はこの策を考案してのはリーダーであるヴェルムだったのだ。
 
「だが油断はできない。もしかすればここにも刺客が来るかもしれん。現に例のドラゴン作戦は失敗したのだろう?」

「ああ……そうらしいですね。何やらとんでもない魔法を使う冒険者にやられたとか」

「例の黒髪の魔術師か……」

「ご存じなんですか?」

「ああ、知っている。出発前に閣下が言われていたのだ。黒髪の冒険者には十分気をつけろと」

「情報が極端ですね……」

「それしかないらしいからな。後はまだ成人してないガキというくらいしか」

 謎の黒髪の魔術師。
 その名の通り、謎に包まれた存在にヴェルムは何か不穏なものを感じていた。
 
「考えすぎなんじゃないんですか? リーダーほどの実力者に立ち向かえる冒険者なんてそうそういないっすよ」

「そうですよ! リーダーに匹敵する冒険者なんてせいぜいS級と呼ばれている連中くらい。名も知られていないようなガキにやられるなんて考えられません!」

「……だと、いいがな」

 ヴェルムは小さくそう零した。

「まぁとにかくだ。今は明日の晩まで身体を休めることに専念しろ。明日はこれまで以上に大忙しになるだろうからな。分かったな?」

「「「「「はっ、仰せのままに!」」」」」

 薄暗く狭い空間で。
 企む数人の集団は与えられし目的を果たすため、じっとその時を待つのだった。
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