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102.魔刻印
しおりを挟む「こ、これは……」
「魔刻印よ」
「魔刻印……?」
「特殊術式の一つよ。色々種類があるけど、これは魔力を奪うタイプのものね」
リリさんの首元にふわっと浮かんでくる薄紫色の紋様。
イリア曰くこれは魔力吸収の効果がある特殊術式の一つらしい。
「じゃあ、これを組み込まれてリリさんは……」
「ええ。魔力吸収による作用が働いて一時的に魔力枯渇に陥って気を失ったんだと思う。これなら跡を残すことなく完璧に無力化できるからね」
「なるほどな。証拠を隠すためか」
魔刻印か。
初めて聞いた術式だ。
必死に魔法の勉強に励んでいた時には出てこなかったワードだ。
魔法・術式辞典にも出てこなかったし。
恐らく最近できたばかりの新興術式か、あるいはオリジナルの術式と考えられる。
「でもこれで犯人がどこの勢力に属しているか分かったわ」
「なに、本当かイリア!?」
「うん」
まさかの発言が飛び出す。
イリアはこの刻印に見覚えがあるらしい。
「どこなんだ、この刻印の指すところは?」
「帝国よ。この紋様は帝直属の私営魔導士団、聖十字魔法師団ものよ。術式もオリジナルだから、間違いないわ」
「やはりか。ってことは……」
「例の件に関わっている……ということですね」
「ああ。多分聖剣を盗んだのも何か意味があるんだろうな。例えば計画のために必要だとか」
「でも、これで今回の事件と今王都で起きていることの関係性は分かりましたね」
「ええ。でもこれでは情報が不十分すぎる。もっと核心をつけるものがないと……」
敵が誰なのかはもう分かった。
あと俺たちが知るべきなのは、計画の詳細だ。
王都占領計画と言っても具体的なものが分からない。
どう占領するのか。
どんな手を使おうとしているのか。
今、唯一分かっているのは日付と大まかな時間帯だけ。
でもその情報は確実とは言えない。
奴らのアジトで聞いた時は確かにそう言っていたけど、日時の変更は大いにあり得る。
今は俺の得た情報のおかげで国もギルドも予定よりも大幅に早く動き始めている。
奴らとて不都合な時に計画を実行に移すことはないだろうし……
「なら、もっとこの刻印を調べてみればいいかも。術式を紐解いていけば、情報が分かるかもしれない」
悩んでいると、イリアがそう提案してくるが。
「それは無理じゃないか? 術式を分解していくというのはそれを作ったものにしかできないようになっているもんだ。どんなに高度な魔法を使える人間でも他人が作った術式を編集することはできないはずだが……」
「確かにその通りよ。でも、いくら完璧なものにでも必ず”穴”はあるものなのよ」
「穴……? もしかして、お前はその穴とやらに入り込むことができるのか?」
俺が質問すると、
「分からない。でもやってみる価値はあるわ。成功するかは分からないけどね」
でも可能性があるなら、是非ともやってもらいたい。
もしそれで有益な情報が手に入るのなら、俺たちとしては万々歳だ。
「やってみてくれないか、イリア。このお礼は必ずするから」
「いいよ。でもその言葉、忘れないでよね?」
「え?」
「お礼の話。結果が出なかったら別にいいけど、もし出たら……」
「わ、分かってる。その時は何でも言ってほしい」
「言ったわね? 約束だから」
俺のその何でもという一言で、イリアの表情に笑みが零れる。
つい勢いで言ってしまったが、何をお願いされるんだろうか……。
そこのところは不安要素だが、仕方ない。
今はとにかく、情報が必要だ。
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