とある最弱者の貴族転生~高貴な《身分》と破格の《力》を手に入れた弱者は第二の人生で最強となり、生涯をやり直す~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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第三話 完全転生

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 ――ユーリ。貴方は今日からユーリよ。

 ――ユーリ……うむ! 中々良い名ではないか。俺も賛成だ。

 
 薄っすらと誰かの声が聞こえてくる。男の人の声と女の人の声だ。

 聞き覚えは……もちろんない。

(俺は……あれからどうなったんだ?)

 確かすっごく大きな光の渦に身体ごと飲まれてそれから……


 ――ああ、流石は私の可愛い息子。私に似て、可憐な顔立ちをしているわ。

 ――なっ、何を言うか! ユーリは俺に似て、逞しく男らしい顔立ちをしているではないか!

 ――いいえ、この子は私似ですよ。

 ――違う! 俺似だ!

 
 ……なんかうるさいな。

 さっきから私に似ているとか俺に似ているとかよく分からない論争が耳元に入って来る。
 というか、誰に対して争っているんだ? 

(それに俺は今、どういう状態になっている?)

 何も見えず、感覚という感覚が失われていた。
 ただ先ほどと違うのが意思が自由に制御できるのと別に聴覚があったということくらい。
 だがそれ以外は何もできなかった。

(クソ、またこのパターンかよ)

 そう思い、嘆いていたその時だった。

『完全転生、完了。意思操作及び聴覚以外の行動制限を解除する』

 またもさっきのように耳元で囁いてくる誰かの声。
 これは……俺がさっきまで話していた女の人の声だった。

(確かだいせいじゃ? とか最後に言っていたような……)

 しかしその声を聞いた途端、俺の身体に変化が現れ始めた。
 
(な、なんだ? 身体が……)

 突然、身体全体の感覚が瞬時に戻って来る。
 先ほどまでは薄っすらとした聞こえてこなかった何者かの声も鮮明に聞こえてくるようになり、まるで固まっているかのように動かなかった身体は自由を得た。

 もちろん、視覚も徐々に回復していき、俺はそっと目を開けた。
 すると視界に入ったのは、

「あっ、あなた! ユーリが……ユーリが目を開けたわ!」
「なにっ!? そりゃ本当か!」

 そんな会話が聞こえてくると同時に俺の視界にも何者かの顔が目に映る。
 最初に映ったのは……滅茶苦茶美人な白銀の髪を持つ女の人だった。

(だ、誰だ? この美人は……)

 視界は鮮明。まったく曇ることなく、その顔は俺の脳に焼き付いていく。
 もちろん見覚えはない。

 そしてもう一人、視界に入る者がいた。
 
 今度は漆黒の髪にもみあげから繋がっている顎鬚が印象的な男の人。
 恐らく、元冒険者か何かだろう。

 かなり身体はガッチリとしており、とにかく図体が大きかった。

 だがもちろん、この人にも見覚えはない。

(どうなってんだ? ここは一体……)

 どこなんだ……?
 まったくもって現状況が読めない。
 俺はとりあえず彼らに情報を聞き出すべく、言葉を発しようとしたその時だった。

「……あ、えう……」

 ……あれ? おかしいな。

 上手く舌が回らない。というか、言葉を喋ることができなかった。

「……う、えあ……」

 やはり何度試してみてもまともに言葉すら発することが出来ない。
 ただ口だけは動かすことができ、その意思を声に出すことだけが無理だった。

「あ、あなた今の見た? ユーリが何か話そうとしていたの!」
「あ、ああもちろんだ! まさかこんなにも早く声を聞くことができるとはな!」

 目を輝かせながら、こちらを見つめてくる大人二人。
 何をそうさせるのか全く持って意味不明であったが、今はそんなことはどうでもよかった。

 それよりも……

(なぜ喋ることができない?)

 別にふざけているわけじゃない。真剣にやった結果がこれだった。
 でも彼らの言葉は聞き取ることができる。

 俺はその摩訶不思議な現象に理解が追い付いていなかった。
 
 一応、いくつかの可能性は考えられるが、どれも非現実的な仮説ばかり。
 考えれば考えるほどバカらしくなってくるほどの仮説だが……一概に否定ができないのも事実だった。

「ね、あなた。私が先にユーリを抱っこしてもいい?」
「な、なに! お前が先にユーリを抱っこしたいと言うのか?」
「ええ、そうよ。ダメかしら?」
「……ぐぬぬ。気は進まないが、まぁよかろう。こんなにも可愛い我が息子を生んでくれたのはお前だからな」
「うん、ありがと」

 会話の後、その美人な女の人が男の人の頬にキスをし、男の方の顔はみるみる赤くなっていく。
 
(ちくしょう。恋人すらできたこともない俺の目の前で堂々とイチャつきやがって……)

 過去の暗く悲しい出来事が瞬時に俺の脳内に蘇る。
 すると俺は女の人にそっと抱えられると、彼女の腕の中に収まる。

「どう? ユーリ。初めての抱っこは」
 
 温かった。幼い頃に感じた今は亡き母の温もりに近しいものがそこにはあった。

(懐かしいな。昔はこうして母さんに抱っこしてもらってたっけ)

 ノスタルジーに浸り、次々と過去の出来事が思い返される。嫌なことも嬉しかったことも全て。
 
 だがしかしだ。俺はそれと同時に、ある一つの事実を悟った。
 
 一応、可能性の一つとして考えていたことではあったが……
 
「ほーら、ユーリ。このかっわいい天使みたいな子があなたですよ~」

 女の人は俺の身体を揺さぶりながら、身の丈以上にもなる大鏡の前へと立ち、自身の姿を見せた。
 そしてその瞬間、今まで分からないことづくしだった謎の全てが解明されることとなった。

 その鏡に映っていたのは女の人と、その人に抱きかかえられる小さな生命いのち
 特有のプクッとした小さな手に、まだ髪の毛すらも生えそろっていない丸っこい頭。
 身体は小さく、少し太り気味であった。

 そう……俺の目に映ったのは一人の赤ん坊の姿。
 そして、その赤ん坊こそが紛れもない俺自身だったのである。
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