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第四話 大貴族の息子
しおりを挟む世の中何が起こるか分からないとはよく言ったものである。
現に俺は今、とんでもない立場に身を置いている。
この世界で新たな生命を授かり、転生をしたのだと知った時も驚いたものだが、それだけではなかった。
そして当時はまだ知る由もなかった。
まさか俺の第二の人生が、大貴族の息子だったなんてね……。
♦
ユーリ・グレイシア。
これがこの世界での俺の名前である。
性別は男で顔立ちは母親譲りの白銀の髪と父親譲りのコバルトブルーの瞳。
端正で整った顔立ちの母親と屈強な男らしい顔立ちの父親の間に生まれたからか、その中間をとるかのように中性的な顔立ちに生まれ、知らない人からすれば男なのか女なのか分からないというほどであった。
実際、今まで何度も女の子と間違えられたことがある。それはもううんざりするほどに。
だが俺からすればこんなことはどうでもいいのだ。
それより先に驚いたのは俺が出生した環境だった。
これはこの世界に来て間もない頃に知ったことなのだが、どうやら俺は貴族の家系に生まれてしまったようなのだ。
しかも貴族と言ってもグレイシア家は『公爵』の爵位を持つ家系。王位を除けば貴族階級では頂点に座し、圧倒的な政治的権力と影響力を持っている。
要するに名家の中の名家ということである。
まぁざっくり言えば、大貴族と呼ばれる家系の一人息子として俺は生まれたのであった。
で、そんな事実を知り、俺がユーリとしてこの世に誕生してから早十数年。
気がつけば15の年になっていた。
俺はすくすくと順調に成長を重ね、何不自由なく育っていた。
「あっ、おはようユーリ」
「おはようございます、母上」
「昨日はよく眠れた?」
「はい、快眠でした」
いつもの如く朝の挨拶を交わし、朝食を食べるべくテーブルにつく。
この挨拶を交わした人物こそ、俺がこの世界に来て初めて目を合わせた人。
後に自らの母親であったことが判明した。
名前はルーリック・グレイシア。
最初は、かなり驚いたもんだ。
こんなに美人な人が俺の母親だったなんて……と。
そして”あの時”にいたもう一人の人物もまた――
「おう、ユーリ。おはよう」
「おはようございます、父上」
「昨晩はぐっすりと眠れたか?」
「はい、ぐっすりでした」
俺の父親だった。
名前はクロース・グレイシア。
にしても流石は夫婦。双方とも朝から同じ質問をしてくるとは……
今日の朝食はバケットと高級羊肉を数日間かけて煮込んだクリームシチューだった。
朝からシチュー? と思うかもしれないが、我が家では結構当たり前。
それも朝からモリモリと食べられるようにあっさりめに仕上げられており、濃厚なシチューとはまた別物だった。
でもこれが最高に美味しい。
生前の頃にお金がなくて畑に捨てられていた食材で作った泥のような味のシチューを食っていた時が懐かしく感じる。
毎回このシチューが出てくる時には必ずおかわりをするくらいだ。
ちなみに今までの最高記録は大盛り10杯。
それほど、俺はこのシチューが好きだった。
そして今日も5杯くらいおかわりをして……
「ごちそうさまでした。今日も美味しかったです」
「ありがとうございます、ユーリ様」
俺は傍付きのシェフに一言礼を述べると、席を立ちあがる。
「父上、母上、自分は先に部屋へと戻ります。少し今日学ぶところの予習をしたいので」
「分かったわ」
「うむ。頑張るのだぞ」
「はい。では、失礼します」
丁寧にお辞儀をして、俺はダイニングルームを後にする。
そして部屋を出た後、去り際に二人の会話が俺の耳に入ってきた。
「あ~もう! なんて礼儀正しくていい子なのかしら!」
「全くその通りだ! これも俺のワイルドな教育があってのことだな。がっはっはっは!」
「いいえ! それは違います。私の知的さを活かした教育力があっての物種ですよ」
「ふっはっは! 何を言うかルーリックよ。ユーリは男の子だ。私の教育が一番に影響を受けたに決まっているだろう!」
「あの子が勉強熱心なのは私の教育があってのことなのです。あなたみたいな脳筋一徹の教育ではあんな子には育ちません」
「の、脳筋……だと?」
「ええ、だからやめてください。あの子まで貴方みたいに勉強もせずに鍛えてばかりの”筋トレ好き脳筋野郎”になってしまったらどうするのです。由緒正しきグレイシア家の後継者がおバカさんだっていう噂がたってしまったらどう責任をお取りになるおつもりですか?」
ああ……なんかヒートアップしてきたな。まぁ、いつものことだけど。
「別にそれでも良いではないか! 男は鍛えてなんぼだ。男であるのにもかかわらず貧弱であることは恥曝しもいいところなのだぞ!」
「それは貴方だけの考えです。今の時代、男の子でも知性が問われます」
「いや、筋肉だ!」
「いえ、知性です!」
と、ここまで会話を聞いたところで俺は自室へと足を動かした。
二人は今、ダイニングルームで睨み合っていることだろう。
だが残念ながらどちらも不正解。俺は別に両親の教育の影響を受けてこうしているわけではない。
むしろその逆だ。
「俺を息子として愛してくれるのは嬉しいんだけど……」
その愛が重すぎるのだ。
このたった数分間の会話だけでも十分に分かったと思うが、二人は”超”がつくほどの親バカ夫婦だった。
今まで生きてきた15年間。俺は常人の域を超えた溺愛っぷりを見せつけられ、育ってきた。
だからこのまま言いなりになってはダメだと思い、少しだけ距離を置く接し方を心掛けてきた。
だけど、感謝していることも多い。
第二の人生が与えられた身とはいえ、俺を赤ん坊の頃から育ててくれた人たちだ。
俺からすれば真に本当の親ではないが、それに近しい関係は築かれていた。
少なくとも今の俺にとっては二人は本当の親なのだ。
だから時に重すぎる愛も受け入れる時はある。もちろん、いつもじゃないけど……
「さてと、今日もしっかりと勉強しないとな」
自室へと戻り、ある人が来るまでベッドの上で休むことにする。
今日は週に三度ある家庭教師の教授が屋敷を訪問する日だ。
俺はいつもその人に勉強を教わっている。
学校にいくという選択肢ももちろんあったのだが、それを選択した際に一人は心配だから付いていく! っていう人が出てきそうなため、断念した。
まぁ、あえて誰とは言わないが。
「えーっと、今日はこのページの復習だったな。あ、その前に……」
俺はハッと思いつくようにベッドから出る。
そして俺以外には誰にいないはず無人の部屋で俺は”ある者”の名を呼んだ。
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