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第五話 憑依するもの
しおりを挟む「おーい、デル。用があるんだ、少しだけ出て来てくれないか?」
”ある者”を呼び出すべく、俺は自らの心に語り掛ける。
だがどうしたものか、中々返事が返ってこなかった。
「あれ? おーい、デルー。デルフィニウムさーん?」
気づいていないのかと思い、再度呼びかけてみる。
すると……
『んん……? こんな時間に誰よ、私を呼ぶのは……』
その”ある者”からの返信がやっと来る。
どうやらまだお休みだったようで少々ご機嫌ななめだった。
「起きてくれ、デル。適正値の確認をしたいんだ」
『え、えぇ……いまぁ?』
あからさまに嫌そうな返答である。
ゆったりとした感じから察するに恐らく寝起きといったところだろう。
「頼むよ。ささっと済ませるからさ」
『わ、分かったわよ。仕方ないなぁ……』
「悪い」
そう言った途端、俺の身体は激しい光を帯びる。
そしてその光が一点に集まると、忽ち人型に形を変化させ、一人の美女が現れた。
『じゃ、さささっと済ませてね』
そう言って美女は前に手を伸ばし、空間上に色々と文字の書かれたデータを投影させる。
※※※※※
ステータスファイルNO.1
名前:ユーリ・グレイシア
種族:人族
性別:男?
年齢:満15歳
身分:貴族
爵位:公爵
魔力数値:900(前比±0)
魔法適正値:830(前比-50)
※※※※※
というようなステータスが映し出され、俺は覗きこむようにしてそれを見る。
すると早速、ツッコむべき場所を見つけてしまった。
「なぁ、デル姉さんよ……」
『んー? なにー?』
「一つ問いたいんだが、なぜ性別の欄に『?』が付いているんだ?」
『え、だって正直、貴方の場合はどちらとも言えないじゃない。よく女の子とも間違えられてるし』
「いや、それはそうだがそれとこれとは話は別だ。生物学上では俺は『男』なんだ!」
『んもう……別にどっちでもいいじゃない』
「よくない!」
よくないというのはあくまで俺の男としてのプライドゆえのことである。
彼女の言う通り、確かに俺はよく女性と間違えられることがある。
顔がかなり中性的だからな。初対面の人の9割は的確な性別を当てることができない。
これがまぁ、割とコンプレックスでもあるんだ。
「後で直しておいてくれよ」
『はぁ、分かったわよ。めんどくさいなぁ』
彼女は大きな溜息を吐きながら、渋々そう言う。
気を取り直して俺は再度自身のステータスを確認し始める。
ちなみにステータスの欄にある魔力数値というのはその名の通りその人物がどれだけの魔力を保有しているかというもので一般的数値(平均)は大体50~100の間ほどとのこと。冒険者とかで魔法を使う職をしているものはもう少し数値が上がる。
そして魔法適正値というのも名前の通り、どれだけ自身が魔法に適合しているのかというものを数値で表したものとなっている。
だがこの二つの数値は大体比例するのでその間を取った数値(二つの数値の平均値)が今の自分の持つ戦闘力だと言える。
この自分のステータスを数値として開示する魔法は彼女の特殊能力の一つで自分だけでなく、対象の人物を指定すれば相手のステータスも覗きこめるという優れた能力である。
俺は基本的に自身の能力値の確認程度にしか使わないが、他にも健康状態や身長や体重と言った細かな個人情報、もっと言えばその人の趣味嗜好と言ったプライベートなものまで確認できるらしい。
「うーん……やはり適正値だけが落ちているな。最近魔法を使っていなかったからか?」
『それはあるかもしれないわね。剣士も剣の鍛錬を怠ると質が落ちるでしょ? それとおんなじことよ』
「なるほどな」
確かに最近は全くと言っていいほど魔法を使っていなかった。というか使う場面がなかった。
(魔法も使わなければ色褪せていくってわけか……)
他にも気になるステータスをさらさらっと確認し、数分ほどで参照を終えた。
「よし、大体の確認は終わった。ありがとうな、デル」
『今度は起こさないでよー?』
「ああ、分かったよ」
そう返答すると彼女は再び、俺の身体の中へと戻って行った。
(はぁ、まったく。寝てばっかりの聖者様がどこにいるんだか……)
軽く溜息を漏らし、俺は勉強机に腰を落ち着かせる。
紹介が遅れてしまったが、さっきの美女はデルという。彼女は俺の相棒であり、異能であり、憑依者だ。
ちなみに本当の名は彼女曰くデルフィニウムというらしいが、長すぎるのでデルと呼んでいる。
そんな彼女と初めて出会ったのはほんの3年前ほど。俺が12の歳の頃であった。
俺はこの世界に新たな生命として生まれ変わった後、グレイシア夫婦によって大切に育てられた。
そして物心がつく年ごろになると俺はこの世界がどういったところなのかを調べるべく、言語を初めとした学業に勤しむようになった。
まずは母国である言語の読み書きから習い、幾何学や魔法学、国語や外国語といった学問も幼い頃より学んできた。
おかげさまで今では立派に読むことも書くこともできるし、年齢に似合わない知力も得ることができた。
前世の俺は”超”がつくほどの貧乏家系に生まれたため、学校はもちろん、まともな教育を施してくれる人すらいなかった。
勉学と言えば唯一、母親に読み書きを教わったくらいで後は延々と父親の畑作業で時を潰す日々だった。
なので俺にとっては全てが新鮮で恵まれることの素晴らしさを感じた。だから何事にも真剣に取り組んだし、勉学ですらも苦とは思ったことはない。
そんなある日のことだ。俺はひょんなことから魔法について関心を持つようになった。
もちろん、前世の世界にも魔法はあったんだがこの眼で見たことは一度もなかった。
なんせ魔法という学問は貴族のみ学ぶことを許されていた特殊な学問で俺のような平民以下の人間には微塵も縁のないものだったからである。
噂によると使いこなせばとんでもない力だとか。
しかも調べてみるとどうやらこの世界では身分や種族関係なしに魔法という学問を学べるようで、魔力を持つ者なら誰もが行使できるものとのこと。
ということで俺はすぐに魔法書を調達し、勉強を始めた。
あ、ちなみにその魔法書は俺が10歳の時の誕生日にプレゼントで両親から貰ったものである。
俺はとことん勉強に励んだ。まず生き物の体内には必ず魔力という魔法を使うための媒介的要素が存在するということから始まり、徐々に深堀していった。
最初は色々と難しいことばかりで苦悩し、読むだけでも気力を使うほど難しかった。この世界に生まれて初めて苦という壁にぶつかった瞬間であった。
もちろん、今でもすごく大変だったのを覚えている。文量もかなりあったし、書物自体もサンドイッチ二個分くらいの厚みはあったからな。
全て読み終えるまでに一か月もかかったし……。
だが何とか俺の底知れぬ好奇心と向上心が背中を押してくれて、ついにその魔法書を読破。
何とか実践までこぎつけることができた。
あの時の達成感といったらもう半端なかった。ついこの前のように記憶に残っているほどだ。
で、そんな達成感に満ちた俺は早速魔法書を片手に屋敷の庭へと繰り出したわけ。
そしてドキドキしながら、書物通りの行為をしてみた……のだが。
……あれ? 魔法が発動しないな。
そう、これが俺にとっては人生で二度目の壁だった。
何をどうしても思った通りに魔法が発動しない。
もう一度魔法書を読み返し、試行錯誤してみるがそれでも無理だった。
俺は酷く落ち込んだ。落ち込みすぎて一週間ほど大好きなクリームシチューが喉を通らなかったほどだ。
気がつけば毎日のように、朝から晩まで勉強をしながら魔法を出すことに時間を使っていた。
それも気が動転してしまうほどにだ。
だがそれでも結果はついてくることはなかった。
そんな日々を俺は数か月もの間が繰り返した。
その時には俺の心も限界にきており、半ば諦めながらも微々たる可能性を信じて魔法を学ぶことに時間を費やしていた。
だが例の如く変化は見られず、もうこんなことは止めようと思ったその時だ。
現れたんだ、彼女が。
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