とある最弱者の貴族転生~高貴な《身分》と破格の《力》を手に入れた弱者は第二の人生で最強となり、生涯をやり直す~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)

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第六話 再会

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『そんなことしても魔法は発動しないわよ?』

 どこからか聞こえてくる誰かの声。
 俺はその声にすぐに反応した。

「だ、誰だ!」

 周りを見渡しても人の気配はない。
 だが声だけは確かに聞こえてくる。

『ここよ、ここ』
「ここって……どこだよ!」
『あなたのすぐ後ろよ。よく見なさい』
「う、後ろってさっき……わっっ!?」

 驚きで思わず声が裏返ってしまう。
 なんと、そこにはさっきまでいなかったはずの女の人が立っていたのだ。
 年齢は大体17~20の間くらい。

 山吹色に輝く長い髪に深紅の瞳。
 見た目は普通の年上の女の人という感じで端正な顔立ちをした美人さんだった。

 だけど何だろうか。この人からはどこか不思議な霊気オーラが溢れていた。

「い、いつの間に……」
『こんにちは。あなたとは初めまして……じゃないわね』
「初めまして、じゃない……?」

 いや、俺は今までの人生でこんな美人と会って話をしたことなんて一度もないぞ。
 少なくとも今現在俺の脳内にため込んである記憶データにはない。

『あら、もしかしてもう忘れてしまったのかしら? この世界にあなたを招きいれたのは紛れもないこの私だというのに……』
「この世界に招き入れた……?」
『ええ、そうよ。それにこの声もあなたには聞き覚えがあるはず』

 いや、こんな綺麗で澄んだ声に聞き覚えなんて……ん、待てよ。
 
 前言撤回。
 確かにさっきからこの声を聞くと、どこか懐かしく思うのはなぜだ?
 それに、この世界に俺を招き入れたって……

 ……はっっ!

 この時、俺はあることを思い出し、身体がピクリと反応する。
 
 そうだ、俺はこの声を知っている。

 もう随分と昔の話。それは俺がまだこの世界に生まれる前のこと。
 記憶はかなり曖昧だが、少なくとも初めて聞いた声ではなかった。

「お前はまさか、あの時の……確か”だいせいじゃ”って……」
『あったり~。流石にその歳になっても転生前の記憶は残っていたのね』
「ああ。おかげさまで今まで忘れていたことも全て思い出すことができたよ」
 
 少し皮肉交じりにそう話す。
 魔法に没頭しすぎていて、転生前のことなんて思い出す機会もなかったからな。
 
(そう思うと、一つのことにのめり込むのって怖いな……)

 にしてもあの時の声の主がまさかこんな美人なお姉さんだったなんて……

『なによ。さっきからジロジロ見て』
「いや別に……」

 それもなんかあの時とは雰囲気が違うような。
 もっとこう、如何にも聖人って感じだったのに……。

『何か言いたげな感じね』
「あっ、やっぱ分かります?」
『当然よ。私を誰だと思っているのかしら?』

 その豊満で柔らかそうなお胸を張らせ、ぽよよ~んとさせる。
 さすがは大聖者様、もまさに聖人級であった。

 するとそのことを勘付かれてしまったのか、

『あなた、いまどこを見ていたの?』
「えっ……いや別にどこも見ていませんよ」
『ふーん、あっそう』

(やば、つい見入ってしまった……)

 避けられない男の性が発動してしまったとはいえ、さすがに怒って――

『で、何よ。何か言いたいことがあったんでしょ?』

 なさそうだった。
 というか特に恥じらいを見せる様子すらなく、用件だけをスパッと聞いてくる。

 俺は半分安心しつつも、半分残念に思いながら気になっていたことを話した。
 
「いや、大したことはないんだけど何かあの時とは雰囲気が違うような気がして。まるで別人だなと」
『あ~なるほど。ま、そう思うのも無理はないわ。だってあれは演技だもの』
「え、演技?」
『そ。だってあんな感じの雰囲気を出したほうが聖者っぽいでしょ?』
「ま、まぁ……」

 確かにそうだけど、それはそれでどうなんだ?
 てか、あのずっしりとした威圧感溢れる雰囲気を演技で出せるものなのか……。

『ま、聖者の世界にも色々あるのよ』
「へ、へぇ……」

 そういうもんなのか。
 俺はとりあえず頷き、場を繋げる。

『で、本題に戻るけどあなた、魔法を使いたいのよね?』

 話題が切り替わり、魔法の話になると俺は必死に頷いた。

「あ、ああ。でも中々うまくいかなくて……」

 下を向きながら俺はそう言った。
 すると、

『ま、当然ね』
「……当然?」
『ええ。あれじゃあ100年経っても魔法なんて使えっこないわ』
「そ、そんな……」

 ド直球ストレートにそう言われ、一気に肩を落とす。
 なんか今までの努力を全否定された気がして悔しかった。

「無駄だったってことなのか? 俺の今までは……」

 みるみる身体の力が抜けていき、俺はその場に座り込んでしまう。
 だが彼女は俺の捨てるように放ったその一言を聞くと、すぐさま否定した。

『いえ、無駄ではないわ。むしろ、良い方向に向かってる』
「えっ? それはどういう……」
『ま、言葉で話すよりかは自分で見て調べる方が今は適切ね。ついてきなさい、場所を変えるわ』
「は、はぁ? なんで?」
『いやなんでって……こんなとこであなたが魔法なんて放ったら大変なことになるわよ? 屋敷ごと消し炭にしてもいいのなら別にここでも構わないけど」
「や、屋敷ごとって」

 正直、彼女が何を意図してそう言っているのか俺にはさっぱり分からなかった。
 でも話の筋から察するにここで魔法を放つというのは危険だということは分かる。

 俺は魔法というものを知らないし、見たこともない。
 
 だから知っている者に判断を委ねるのが今は適切だと考えた。

「分かった。連れて行ってくれ」
『りょーかい。じゃあちょっとこっちにきなさい』
「お、おう……」

 俺は彼女のもとへと少しだけ近づく。距離にして大体1mほどまで。
 しかし……

『あのさ……もう少しこっちに来れないわけ?』
「え、でも……」

 かなり近づいたつもりだ。
 しかもこれ以上近づけば肌と肌が触れるのは絶対不可避という距離だった。
 でもまだ足りないようで彼女はもっと近づくよう俺に要求してくる。

 ……が、残念なことに俺のチキンハートが負を生み、中々近づけずにいた。
 すると、

『あ~もうじれったいなぁ~! こうなったら……』
「え、え? ちょ、ちょっと!?」

 ぎゅ。

 いきなり抱きつかれ、そのまま俺の顔はその豊満な胸へと吸い込まれていく。
 何も見えず、聞こえず、ただ息苦しくも幸せだという謎の感覚だけがあった。

『さ、転移するわよ! しっかりつかまってなさい』
「※※※※※……!」

 もちろん、いま何が起ころうとしているのかは俺にはまったく分からなかった。
 喋ることもできないので、何が起きようとしているのか聞くこともできなかった。

(も、もう! 一体何なんだよこの状況はーーーー!)

 俺の心の叫びは誰にも届かず、ただ闇の中へと消えていくだけだった。
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