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第七話 初めての魔法
しおりを挟む――もし……もしも……
誰かの声が途切れ途切れに聞こえてくる。
この声は……さっきのお姉さんの声だろうか?
何か必死に声を張り上げている。
(一体誰に……?)
分からない。だがその時だった。
『もう、起きなさい! いつまでそこでぶっ倒れているのよ!』
「……ッッ!?」
身体に電流のような刺激と鼓膜を突き破るかのような大声が俺の身体を奮い立たさる。
俺はガバッと飛び跳ねるように身体を起こすと、
「あれ、俺は一体……」
『やっと起きたわね。ホント、いつまで寝てるつもりよ』
身体を起こした途端、隣にいたのは仁王立ちしながらこちらを見てくるお姉さん。
それと同時にさっきまで不透明だった記憶が少しずつ戻って来る。
だがどうしたものか、気絶する瞬間の記憶だけどうも思い出せない。
ただ、苦しくて幸せだったという謎の感情だけが残っていた。
『とりあえず立ちなさい。いつまでそこに座っているのよ』
色々と考えている最中、お姉さんの声が頭の中に入って来る。
俺は指示通りに身体を立ち上がらせ、周りを見渡す。
と、視界に入ったのは沢山の木々が生い茂る森の中。
見覚えはない。俺の知らない場所だった。
「ここは……?」
『さぁ……?』
ボソッと出た俺の一言に彼女は首を傾げながらそう返答する。
「さ、さぁ……って、連れてきたのはあんたじゃないのか?」
『そうよ。だけど私もここがどんな場所かは知らないの。とりあえず人が全くいないような場所をランダムに指定して転移したのだから』
「は、はぁ……?」
まったく状況が掴めない。
それとさっきから時折出てくるが、”転移”ってなんだよ。俺はどうやってこんな場所まで来たんだ?
疑問が募る。
頭の中を一度整理させて考えてみればおかしな話だ。
だってさっきまで屋敷の庭にいたはずなのに目が覚めたらこんな森の中にいるのだから。
(……どうなってんだよ)
謎ばかりが膨らんでいき、困惑する。
だが彼女はそんなことなど関係なしに話を進めていく。
『じゃ、早速だけど魔法の使い方を教えるわ。簡単だから一発で覚えてちょうだいね』
「なっ、簡単だと……?」
そんなバカな話があるか。俺は魔法をただ発動させるのに3か月以上かけても無理だったんだぞ?
(それを簡単って……)
ムッとした表情で彼女を見つめる。
するとそれを察したのか、
『いいから私の言う通りにしてみなさい。魔法、使ってみたいんでしょ?』
「……」
無言。
確かに使ってみたいという気持ちはすごくある。何せそのためだけに3か月という膨大な時間を無駄に使ってきたんだ。
そんなこと言われたら否定なぞできるわけがない。
俺は素直に首を縦に振り、
「分かった。お前の言う通りにする」
こみあがってきていた怒りを鎮め、俺は彼女を信じてみることに。
「で、どうやってやるんだ」
すぐにやり方を聞いてみる。
すると彼女はすぐに答えてくれた。
『簡単よ。魔法を使いたいっていう思いを強く心の中で念じればいいのよ』
「思いを念じる……だと?」
『そう。例えを言うなら……そうね。もし突然トイレに行きたいと思った時、あなたならどうする?』
「ん、そりゃあ普通にトイレに行くだろ」
『それとおんなじことよ』
「は? どういうことだ?」
『生き物が何かをする時には何かしらの理由があるということよ。魔法もそれと同じで自身の中で描いた術式に思念を飛ばすことで発動させることが出来るの。例えば炎属性の魔法を使いたいのなら燃え盛る炎を頭に強く浮かべてみる……とかね』
「本当にそれだけでできるのか?」
「ええ、できるわ」
自信満々にそう言うが俺にとってはにわかには信じがたい話だった。
だが今は猫の手ならぬお姉さんの手も借りたい所存。
文句等を言っている余裕はない。
俺は素直に彼女の言うことを聞き、魔法と使いたいという想いを強く心の中で念じ始める。
『そう。目を瞑って……何も考えずに魔法を使いたいということだけを考えるの』
(魔法を使いたい……魔法を使いたい……)
他のことは一切考えず、ただ純粋に魔法を使いたいという想いだけを心の中に閉じ込める。
すると少しずつだが身体がほんわかと暖まっていくような感覚が。
そしてその感覚はより強くなっていき、次第に身体全体が燃えるように熱くなってくる。
『よし、魔力が十分に溜まってきたわね。もうそろそろ魔法を発動させることができるはずよ』
「ほ、本当か?」
『ええ。最後にその念じた想いを身体全体を使って思いっきり外に出すようにやってみて』
「念じた想いを身体の外に出せ……だと? そんなことが可能なのか?」
『今のあなたならできるわ。自分を信じて』
自分を信じる……か。
久しぶりに聞いた言葉だ。最後に聞いたのはいつだったか、もう覚えてすらいない。
誰も信じず、自分すら信じていなかった俺にとっては無縁だと思っていた言葉だけど……
(今の俺なら……!)
身体は先ほどよりも熱くなっており、今にも蒸発してしまいそうなくらいだった。
俺は自分を信じ、今度はこの想いを身体の外に出すことに思考をシフトさせる。
そして――
「穿て……殲滅の魔炎!」
不意に出たその言葉と共に一つの火球が俺の目の前で生成され、地を抉るようにして飛んでいく。
木々は次々と強くなぎ倒され、燃え盛る火球はその爆風で周りをも火の海とする。
そして火球は次第に俺の視界からは消え、我に返った時にはもう火球の存在は何もなかった。
ただ目の前には焼け焦げた地面がずらーっと広がり、木々で生い茂っていたはずの場所が更地と化していただけだった。
「な、なんだよ……今のは……」
俺は一瞬、言葉を失った。
だがそれと同時に魔法という物は噂通りのとんでもないものなのだという認識が俺の中で生まれた。
俺はすぐに彼女の方を向き、
「お、おい! 今のって――」
だがここにもう一人、ただ一点だけを見つめてぶつぶつと何かを話す美女の姿があった。
『う、うそ……今のって……』
彼女もまた、俺と同じように何かに驚いているようで、話しかけてもしばらくの間返答がなかった。
だが数分後、彼女は険しい顔をしながら俺の元に歩み寄って来ると、一変たりとも表情を変えずにこう言ってきた。
『ねぇ、さっきの魔法のことだけど……あなた、どうやって発動させたの?』
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