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第二話 大聖者
しおりを挟む何も見えない、聞こえない。
ここは一体どこなのだろうか?
身体も思うように動かないし、目も開くことができない。
できるとすれば何かを思ったりすることぐらい。
暇だ、腹減ったという意思や感情だけが今の俺にとっては最上限の行動範囲だった。
にしてもこれは一体どういうことなのか。
(確か俺は魔物に襲われて死んだはず……)
もちろん、忘れてはいなかった。
俺は自らが命を断つまでの出来事を全て把握し、覚えている。
あんな衝撃的な展開、忘れたくても忘れられないさ。
でも今はそんなことはどうでもいい。今はこの状況が如何なるものかを知る必要がある。
(ここは死者の世界……なのか? 死んだらみんな、こうなるのか?)
だとすれば非常に退屈な世界だ。
人は死ぬと、その魂は成仏するまで無限廻廊を彷徨うという言い伝えがあったが、まさにこれだった。
(……ってことは俺ってまだ成仏しきれてないってわけ?)
意思だけが自由に制御できる世界。考えれば考えるほど謎が深まるばかりだ。
(はぁ……なんてこった。死者の世界はもっとユニークでユーモアに溢れた世界だと思ってたのにこんなにも退屈な無の世界だったなんて……)
やっぱり現実は残酷である。
と、その時だった。
真っ暗だった視界が突然真っ白になり、一筋の閃光が目に入って来る。
気がつけば俺の両目は開眼しており、目の前には無数の光が集まっているという謎の光景があった。
(み、見える……! 声は出せないけど、目は見えるようになったぞ!)
だが耳はまだ機能していなかった。
視界も範囲制限がかけれており、左右上下を見ることはできず、目の前しか見ることができなかった。
(何が起きたんだろ……俺なんかしたか?)
変化を意図的に誘致した覚えはない。
だがその時だ。
『……お主か。全てを欲したいという強き意志の持ち主とは』
俺の耳元で誰かが囁いてくる。
何だろう、さっきまで聞こえなかったはずなのに今は聞こえる。
これは……女の人の声?
『答えろ。全てを欲したいと望むのはお主か』
全てを欲したい望む?
一体何を言って……
『早く答えろ!』
「は、はいっ! そうです、俺です! 俺が全てを欲したいと望みました!」
恐喝まがいなことをされ、ついつい反射的に答えてしまった。
(……って、あれ? 待てよ? 今さっき俺、声を出さなかったか?)
まるで縫い付けられたかのように喋ることができなかった口が自由に動かせるようになり、いつの間にか言葉も発することが出来ていた。
しかも肉体まで完全復活を遂げている。
(ど、どうなってんだ? これは……)
状況把握がまったく追いつかない。
すると先ほどの女の人の声が再度聞こえてきた。
『そうか、では質問を変えよう。お主はなぜ全てを欲する? なぜそれまでに強き者への意志が強いのだ?』
なぜって言われても……
「そ、それは俺にも分からない。でも一つだけ……一つだけなら俺にも願いがある」
『ほう、それは如何なるものか?』
願い。そう、それは俺が死ぬ間際にふと望んだ傲慢で欲張りな願望。
決して実現することのない浅はかな望み。
でも、本当にそれが叶うのなら俺はどんな運命を背負わされてもいい。
俺は……俺は……!
「最強の自由を手に入れたいんだ。誰にもバカにされず、蔑まれることもない自由気ままな生活。もうあんな思いをしなくても済むほどに強く、そして誰にも俺の自由を奪えないほどの強大な力を……!」
これは俺の心の底から湧き出てきた願望だった。
あまりにも自分勝手な言い分だが、思うことくらいは許される。
だがその声の主は間を開けることもなく、すぐに返答してきた。
『なるほど、お主の願いは分かった。ではそれらを全て叶えてやろう』
「……え?」
今なんて言った? 全て叶えてやるって言わなかったか?
だが俺が考える間もなく、声は続けて聞こえてくる。
『だが一つだけ約束をしてほしい』
「や、約束?」
『そうだ。お主には絶対なる力は与える。だがその代わりにそれを手にしたことによって決して傲慢になってはならない。その行為は自己の破滅を招くからな』
「は、破滅……?」
正直何を言っているかまったく分からない。
だが話の大まかな筋はほんの少しだけ理解することはできた。
要は力を手にしたからって偉そうにするなよってことだろ? 多分……
『誓えるか?』
「は、はい! 誓います!」
とりあえずさっきみたいに脅されるのは嫌なので即刻返事を返す。
『よろしい。ではせいぜい楽しむといい。お前が望む『最強の自由』ってやつをな』
するとこの言葉の終わりと同時に周りに先ほどの無数に光が集まって、俺を囲む。
何だか分からないが、心地よかった。
俺の身体の周りには光の膜が形成され、次第にその女の人の声は遠くなっていく。
「あ、あの……! 最後にお聞かせください。貴方は一体何者なんですか?」
俺はそう叫び、返答を待った。
すると、
『我は、大聖者。この世の全てを知る者……』
「だい……せいじゃ?」
声を聞いたのはそれが最後だった。
俺の身体は完全に光の渦へと飲み込まれ、意思を保てなくなった俺はそのまま眠るように気を失ってしまったのだった。
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