337 / 458
第二巻
★愛は冷めないうちに
しおりを挟む
深い瑠璃色の目でずいっと顔を寄せてきて、僕を見つめると……クスッと笑った。
「まあ、色々」
「なんだそりゃ……」
今度はドンと音がするぐらい体を開いて僕の横に仰向けにひっくり返った。
「時間が過ぎ去ったんだよ。そこはもう取り戻せないからさ……過ぎ去ったんよ、きっと」
「そっかあ」
「うん」
「それで踏ん切りがついたんやな」
「うん……もう迷わない」
「よかったやん……そういうの、多喜恵さんにもさせてあげようぜ」
「そうやなあ、明日うまく行ったらええねんけど……あ! そうや? あにぃ?」
「うん?」
また一瞬ガバッと来そうでおもいっきり構えてしまうが……違ったようだ。
「さっき、何もされへんだって言ったけど、それは多喜恵からは、されたとか、そういうんじゃないよね?」
「なんだその……一人の中に二人いるからどっちかが的なやつ……」
そういえば多喜恵さん、よく僕をからかうのが好きなのか一晩限りのどうのこうの、時々言ってたっけ。あと魂のイケメン日本代表だ! みたいな。これは一度っきりでもお相手したいわ、みたいなやつな。あれも冷やかしのようなもんでしょうに。
言うだけで実際にそうなりかけたことすらないし……ないよなあ……うん、ない。なんか記憶のどこかで引っかかりがあるような気もするけど、これぐらいの年頃はエッチな夢もたくさん見るしね。まあそういうことよ。
「なんもなかったよ」
「そうか……確かにどこからも臭わなかったから……じゃあ、多喜恵も堪忍してくれてたんかな……なんだかんだ言ってもやっぱあいつら良い奴らやなあ」
「だから、そうだってば」
「ああ……安心したらお腹空いてきたわ」
また体を僕から離して楽に寝返りを楽しんでいるようだ。
「下りてご飯食べるか?」
「そうしようか」
「ちなみに樹里の刺身盛り合わせはもう皆で食ったからな」
「うっ!……うん」
幸せそうな顔で寝転がっていたが、一瞬衝撃が走ったように固まったぞ。
「………………」
「………………」
「………………」
「……大丈夫か?」
「あいつ、そこは実行に移したんやな……」
ボソッと呟く。
「あとビールも全部皆で飲んだからな」
「……やっぱり結衣は甘くはないなあ」
やっぱり怖いなあ……最後の砦だけは置いといてくれるタイプの仕打ちするんやなあ……それって逆に怖いなあ……
仰向けで一点集中で呟いている樹里を横目に転がっていたスマホを取ってみると、
≪メッセージを受信しました≫
誰かから入っている。3通入ってる。
開いてみれば、すべてらんちゃんだ。
〈大丈夫ですか? ねーたま、なにかヤバいことになってますか?〉が30分前。
〈大丈夫ですか?〉が10分前。
〈そっちに行きましょか?〉が5分前だ。
〈特に問題なし。今から降りるわ〉と入力……「ガチャ」
下からドアが開けられた音がした。そして、
「にんたま? ねーたま? 大丈夫?」
あ……来てしまった。
慌てて僕らは二人離れる。樹里は布団の上で正座。
僕は階段のところまで行ってらんちゃんを迎える。
「ああ、ごめんなあ、連絡遅くなって」
下からこーちゃんと結衣さんと、階段を登ろうとしていたところだ。やはり不安そうな顔をしている。
「ううん、ねーたまは……?」
「うん、ちょっと再会と、そこでまたお別れしたらしいねん、それで気持ちの整理してて……途中、感極まったとこもあったみたいで……」
「ああ……そういうのですね……」
多喜恵さんには通用しないが、凡人にはこれでいいと思う。
一人ずつ階段を上がってきた。まずらんちゃんが見えたあたりで、樹里が正座のまま、頭を下げた。ただし布団の上だというところが樹里らしいというか、まだちょっと完全に反省しきってないというか……。
「このたびはごめんなさい! 勝手いたしました」
「おお?? そこまでしなくてよ、樹里さん」
「ねーたま、もう大丈夫だから、顔上げて」
「……気持ちは整いましたか?」
多喜恵さん……いや、結衣さんか、だけは疑問形だった。表情はそんなに怖い顔はしていない。むしろ柔和な顔だ。
「はい……」
顔を上げながら神妙な面持ちで返事を返す。しかし結衣さんとは目を合わせない。
「もうお兄さんにも、謝りましたか? お兄さんは樹里さんの代わりに、私たちの前で頭を下げました」
「ええ……? あにぃ、そんなこと……」
「たき……いや、結衣さん、別にそれは僕の役割だから」
「樹里さんが思う以上に、樹里さんのことを影で支えたり気を配ったり、たくさんの配慮をお兄さんはしています。そんな方に、不安を煽ったり、虚勢を張ったりするのはおやめなさい」
「………………」
樹里は両手を膝の上で突っ張り、また口がへの字になって、俯き、下唇が少し突き出ている……。
また来たらどうしよう……?
きっと僕のことを真に思って結衣さんは言ってくれている……けど今、樹里は不安定だから……。
「あにぃ……ごめんな」
ここからはちゃんと見えはしないが、また目が赤く潤んできているように思う。
来る? 来る? 大丈夫?
「愛は冷めないうちに……ですよ。あとご飯も。さあ……紗良さんがレンチンごはん温めてくれてますから、早く食べに下に降りましょう! シラス丼が待ってます!」
おお、樹里にとったらナイスタイミングやん。シラス丼は樹里も好きやな。
「じゃあ降りるね」
らんちゃんとこーちゃんが、階段を降りてゆく。それに従って結衣さんも降りていく。
僕は樹里の肩に触れる。樹里はすぐに僕の手を握る。
「ごめんな、私が強引にやらかしたことで、詫び入れてくれて……」
「気にすんなよ。さあ、下でご飯食べよう」
「うん、きっとあいつらそんなに怒ってないのんて、それがあると思うわ……私は、浅はかだ」
「これも言うとくべき事柄やったか……?」
「……いや、これは私が気を付けて、自ら気が付かなあかんことや」
「まあ、色々」
「なんだそりゃ……」
今度はドンと音がするぐらい体を開いて僕の横に仰向けにひっくり返った。
「時間が過ぎ去ったんだよ。そこはもう取り戻せないからさ……過ぎ去ったんよ、きっと」
「そっかあ」
「うん」
「それで踏ん切りがついたんやな」
「うん……もう迷わない」
「よかったやん……そういうの、多喜恵さんにもさせてあげようぜ」
「そうやなあ、明日うまく行ったらええねんけど……あ! そうや? あにぃ?」
「うん?」
また一瞬ガバッと来そうでおもいっきり構えてしまうが……違ったようだ。
「さっき、何もされへんだって言ったけど、それは多喜恵からは、されたとか、そういうんじゃないよね?」
「なんだその……一人の中に二人いるからどっちかが的なやつ……」
そういえば多喜恵さん、よく僕をからかうのが好きなのか一晩限りのどうのこうの、時々言ってたっけ。あと魂のイケメン日本代表だ! みたいな。これは一度っきりでもお相手したいわ、みたいなやつな。あれも冷やかしのようなもんでしょうに。
言うだけで実際にそうなりかけたことすらないし……ないよなあ……うん、ない。なんか記憶のどこかで引っかかりがあるような気もするけど、これぐらいの年頃はエッチな夢もたくさん見るしね。まあそういうことよ。
「なんもなかったよ」
「そうか……確かにどこからも臭わなかったから……じゃあ、多喜恵も堪忍してくれてたんかな……なんだかんだ言ってもやっぱあいつら良い奴らやなあ」
「だから、そうだってば」
「ああ……安心したらお腹空いてきたわ」
また体を僕から離して楽に寝返りを楽しんでいるようだ。
「下りてご飯食べるか?」
「そうしようか」
「ちなみに樹里の刺身盛り合わせはもう皆で食ったからな」
「うっ!……うん」
幸せそうな顔で寝転がっていたが、一瞬衝撃が走ったように固まったぞ。
「………………」
「………………」
「………………」
「……大丈夫か?」
「あいつ、そこは実行に移したんやな……」
ボソッと呟く。
「あとビールも全部皆で飲んだからな」
「……やっぱり結衣は甘くはないなあ」
やっぱり怖いなあ……最後の砦だけは置いといてくれるタイプの仕打ちするんやなあ……それって逆に怖いなあ……
仰向けで一点集中で呟いている樹里を横目に転がっていたスマホを取ってみると、
≪メッセージを受信しました≫
誰かから入っている。3通入ってる。
開いてみれば、すべてらんちゃんだ。
〈大丈夫ですか? ねーたま、なにかヤバいことになってますか?〉が30分前。
〈大丈夫ですか?〉が10分前。
〈そっちに行きましょか?〉が5分前だ。
〈特に問題なし。今から降りるわ〉と入力……「ガチャ」
下からドアが開けられた音がした。そして、
「にんたま? ねーたま? 大丈夫?」
あ……来てしまった。
慌てて僕らは二人離れる。樹里は布団の上で正座。
僕は階段のところまで行ってらんちゃんを迎える。
「ああ、ごめんなあ、連絡遅くなって」
下からこーちゃんと結衣さんと、階段を登ろうとしていたところだ。やはり不安そうな顔をしている。
「ううん、ねーたまは……?」
「うん、ちょっと再会と、そこでまたお別れしたらしいねん、それで気持ちの整理してて……途中、感極まったとこもあったみたいで……」
「ああ……そういうのですね……」
多喜恵さんには通用しないが、凡人にはこれでいいと思う。
一人ずつ階段を上がってきた。まずらんちゃんが見えたあたりで、樹里が正座のまま、頭を下げた。ただし布団の上だというところが樹里らしいというか、まだちょっと完全に反省しきってないというか……。
「このたびはごめんなさい! 勝手いたしました」
「おお?? そこまでしなくてよ、樹里さん」
「ねーたま、もう大丈夫だから、顔上げて」
「……気持ちは整いましたか?」
多喜恵さん……いや、結衣さんか、だけは疑問形だった。表情はそんなに怖い顔はしていない。むしろ柔和な顔だ。
「はい……」
顔を上げながら神妙な面持ちで返事を返す。しかし結衣さんとは目を合わせない。
「もうお兄さんにも、謝りましたか? お兄さんは樹里さんの代わりに、私たちの前で頭を下げました」
「ええ……? あにぃ、そんなこと……」
「たき……いや、結衣さん、別にそれは僕の役割だから」
「樹里さんが思う以上に、樹里さんのことを影で支えたり気を配ったり、たくさんの配慮をお兄さんはしています。そんな方に、不安を煽ったり、虚勢を張ったりするのはおやめなさい」
「………………」
樹里は両手を膝の上で突っ張り、また口がへの字になって、俯き、下唇が少し突き出ている……。
また来たらどうしよう……?
きっと僕のことを真に思って結衣さんは言ってくれている……けど今、樹里は不安定だから……。
「あにぃ……ごめんな」
ここからはちゃんと見えはしないが、また目が赤く潤んできているように思う。
来る? 来る? 大丈夫?
「愛は冷めないうちに……ですよ。あとご飯も。さあ……紗良さんがレンチンごはん温めてくれてますから、早く食べに下に降りましょう! シラス丼が待ってます!」
おお、樹里にとったらナイスタイミングやん。シラス丼は樹里も好きやな。
「じゃあ降りるね」
らんちゃんとこーちゃんが、階段を降りてゆく。それに従って結衣さんも降りていく。
僕は樹里の肩に触れる。樹里はすぐに僕の手を握る。
「ごめんな、私が強引にやらかしたことで、詫び入れてくれて……」
「気にすんなよ。さあ、下でご飯食べよう」
「うん、きっとあいつらそんなに怒ってないのんて、それがあると思うわ……私は、浅はかだ」
「これも言うとくべき事柄やったか……?」
「……いや、これは私が気を付けて、自ら気が付かなあかんことや」
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる