鬼の縮命

風浦らの

文字の大きさ
2 / 5

余命

しおりを挟む
 死ぬ。
 俺は5月3日に死ぬ。
 いや、待ってくれ────

「なんで、なんで俺が死ぬんだよ!?」
「突然死だよ」
「死因を聞いてんじゃねぇんだよ」

 いや、ニーオが本物と決まった訳じゃないし、ここから追い出したらまだなんとかなるかも……

「な、なぁニーオ。隣の家に行く気ない?    隣は人のいいオジサンが住んでて、お菓子を沢山食べれるぞ」
「隣はダメ。あの人、明日死んじゃう・・・・・・・から。私達は家主が居ないと住めないの。だからダメ。お外はまだ寒いし」

 え。何サラッととんでもない事言ってるんですか!?

 ────────。

 結局俺は、その日ニーオを家に泊める事にした。警察に引き渡そうとも考えたが、目の前でサラリーマンが死んだ事が、俺の判断を狂わせていた。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 次の日、朝のゴミ捨てをしていた俺に、ニュースが飛び込んできた。察しの通り、隣に住んでいたオジサンさんが亡くなったというものだ。

 こんな偶然があるだろうか? 
    最早ニーオが本物の『鬼』である事は疑いようが無い。という事は、俺はもうすぐ死ぬという事か──────


 自分が死ぬとわかった途端に恐怖が襲ってきた。何故自分が。死ぬってどういう事なのか、と。

 しかし幸いな事に、死因は突然死らしく、今のところ体はピンピンしているし、どこも悪くない。ならば死ぬ前に何かやろうと思うのは人間の性だろう。当然の思考。

「ニーオ。俺ちょっと出掛けてくるけど、お留守番できるか?」
「うん。大丈夫!    行ってらっしゃい」

 少し心配だったが、俺は外出することにした。どうせ死ぬのだ。ニーオはほっといてもいいだろう。変に刺激して殺されたんじゃ、やりたい事もやれずに死ぬ事になるだろうし。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 さて、街に出たはいいがこれから何をしようか。もう金なんていくらあっても意味無い訳だし、何かパァーっと…………

 ────俺は思った。今まで俺にはこれと言った趣味は無く、食にも全く興味が無かった。

 一体何をすれば…………

 更に、人生の “ 最後に ” という思いから、やるべき事が益々分からなくなっていく。

「くそッ」

 その後、何となく映画を観て、何となく水族館に行き、何となくショッピングをして、気がつけば日が沈む前に家へと足を向けていた。

 今の俺の状態は、友達無し。家族無し。恋人勿論無しで、思い出を作る相手も、死を伝えたい人も居なかった。寂しいという気持ちは無い。人と交わる事を嫌った俺なりの生き方だった。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆


「ただいまー。ニーオ、お菓子買ってきたぞ。ホラ」
「わぁぁい」

 お菓子に飛びつくその姿は、可愛い幼女そのものだ。最初は『鬼の子』と恨んだものだが、ニーオには自分が死ぬ事を “ 教えて貰っている ” のだ。寧ろ感謝するべきだ。
 それに比べ、残されたその時間を有効に使えない自分が悲しかった。今までどれ程薄っぺらい生き方をしてきたのだろうかと惨めな気持ちになった。

「それなぁに?」

 俺が買い物袋をゴソゴソしているのを興味深そうに覗き込んでくるニーオ。キラッキラのその目が俺には眩しい。

「見たいか?」
「うん!」
「じゃあちょっと待ってろ」

 俺は買ってきた服に着替えて、初めて自分の顔にメイクを施した。

「どうだ?」
「それ、女の人の服?」
「そうだ。1回女装ってもんをやってみたかったんだよな」

 俺は子供の頃から可愛い可愛いと持て囃されて生きてきた。いつかは女装してみたいと思いながらも気づけば35歳で、残りの寿命は2ヶ月ちょっと。チャンスはここしか無かった。

「変なのー」
「え!?」

 いいだろ別に。誰にも迷惑をかけていないんだし。だいたい鬼に人間の気持ちがわかるかよ。

 とは言え、自分では中々イケると思っていただけに俺は傷ついた…………

 そんなやり取りの直後、今となっては耳障りとなった音が部屋に響いた。スマホの着信音。当然の様に画面には仕事先が表示されている。
 どうせ死ぬんだ。仕事なんてもうどうでもいい。寧ろ解放されてせいせいしているくらだ。しかしながら、担当者にはお世話になったし、辞めると一言伝えるのが礼儀だろうか。
    こんな俺にだって良心位はあるつもりだ─────

「あ、もしもし」
『藤田さん、まだですか?!     上司が煩くて。出来てるなら大至急コッチに送ってください!』
「その事なんだけど……俺、もうやりませんから」
『ちょ、どういう事ですか!?    今なんて言いましたか!?』


 俺の仕事は売れない作家だ。趣味で始めた小説のネット掲載がきっかけで、運良く書籍化まで辿り着いた。しかしそれは流行りに乗せて、試しに書いたなんちゃってファンタジーがたまたまヒットしただけの作品で、書籍化後、筆の乗らなかった俺の本は、全く売上を伸ばすことが出来なかった。

「俺が書きたいのはファンタジーじゃないんです。俺はコメディが書きたいんですよ!」
『気持ちは分かるけど、今の時代ファンタジーじゃないと売れないんだよ。先ずは名前を売って、それからでも────』
「それじゃあダメなんですよ!    時間が無いんです!    俺、あと3ヶ月も生きられないんです!!」

 思わず声が震えてしまった。人に気持ちをぶつけ “ 生きられない ” と言葉にした事で、俺の感情は激しく揺さぶられた。

『そ、それ本当なんですか!?    もしかして病気なんですか……?    』
「・・・・・本当、です。病名は……言いたくありません…………」
『そ、そうなんですね……残念です……お、俺から上司に伝えておきます……これから大変でしょうけど頑張って下さい。あの……なんて言っていいか……また、電話しますね』
「すみません。今まで、ありがとうございました…………」


 俺は通話を切るとベッドにスマホを叩きつけた。

「クソッ!!」
「どうしたの?」

 俺は一体何をやっているんだ。こんな格好して余生を楽しんでる場合じゃねぇ。
 ──────そうだ、パソコン!!

 俺はパソコンを引っ張り出し電源を付けると、慣れ親しんだ小説サイトを開いた。

 俺がやりたかった事は───────

「──────あった!」

 自分の作品集の下の方に埋もれていた作品。俺がまだ夢や情熱、そして楽しいに溢れていた時に書いた作品。下手クソだが俺の全てを注ぎ込んだ自信作────、だった。しかしあまりの人気の無さに、いつしか自信を無くし検索除外にしたまま未完となっていた、そんな作品。

 これを……これに俺の人生全てをかけて世に送り出す!俺の生きた証として────


 その日から俺は来る日も来る日も、狂ったようにパソコンと向かい合い合った。プロットの練り直しから推敲作業、ブラッシュアップと、食事するのも忘れるくらい没頭していった────
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

二年間の花嫁

柴田はつみ
恋愛
名門公爵家との政略結婚――それは、彼にとっても、私にとっても期間限定の約束だった。 公爵アランにはすでに将来を誓い合った女性がいる。私はただ、その日までの“仮の妻”でしかない。 二年後、契約が終われば彼の元を去らなければならないと分かっていた。 それでも構わなかった。 たとえ短い時間でも、ずっと想い続けてきた彼のそばにいられるなら――。 けれど、私の知らないところで、アランは密かに策略を巡らせていた。 この結婚は、ただの義務でも慈悲でもない。 彼にとっても、私を手放すつもりなど初めからなかったのだ。 やがて二人の距離は少しずつ近づき、契約という鎖が、甘く熱い絆へと変わっていく。 期限が迫る中、真実の愛がすべてを覆す。 ――これは、嘘から始まった恋が、永遠へと変わる物語。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

処理中です...