鬼の縮命

風浦らの

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鬼の宿命

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    昔むかし。
    今からずっと昔の話。
    この辺りには沢山の鬼が住んでおった。

    「鬼?」

    そう。鬼じゃ。
    その鬼達は人間の魂を抜き取り、それを喰らっておったそうじゃ。
    鬼の力は凄まじくての。人間では到底太刀打ちする事は出来なかった。その結果、遂には村が一つ滅んでしまったのじゃ。

    「村が?    怖いね」

    そうじゃな。
    だがそれを良しとしなかったのが、当時この国を治めておった神様じゃった。
    神様は傍若無人な鬼達の、目に余る振る舞いに釘を刺すべく、鬼の長を呼びつけた。そしてその鬼の長に対しこう言ったのじゃ。

    『お前達は人間を喰いすぎた。手当り次第に喰っていると、いずれこのままでは人間が滅んでしまう。そうなって困るのは、お前達も一緒ではないのか?    もう少し節度を持って行動してくれないか』

    それに対して鬼の長は、それを了承するどころか、人間の弱さを引き合いに出し鬼がいかに優れた存在なのかを雄弁に語りだした。

    アイツらが軟弱なのが悪い。人間はまだまだ沢山居る。俺達はこれからも喰いたい時に喰いたいだけ喰うんだ。と、神様の言う事を全く聞こうとはしなかったそうな。

    その態度に怒った神様は、鬼がこれ以上人間を喰い過ぎないように、その大いなる力を使い、鬼の食事に三つの制約をかけた。

    「せいやくって何?」

    条件を課して自由にさせない、という事じゃ。

    「どんな条件だったの?」

    一つ。健康体の人間である事────
    二つ。喰らう鬼に心を開いた人間である事───
    三つ。必死に生きようとしている人間である事────

    それ以外の人間は、味もしなければ栄養も無く、空腹も満たされることはない────という過酷な条件じゃった。

    「味もしなくて栄養も無いなんて、食べる意味無いよね」
    
    喰らう意味が無くなり、その条件を満たせなかった沢山の鬼達が、その姿を消していったそうじゃ。
   逆に生き残った鬼達は、生きる為に知恵を付け、人間に恐れられない存在へと変わっていった。

    「厳しい制約だったんだね」

    その通り。
    おかげで鬼の数は激減し、当時絶滅寸前まで追い込まれた。
   しかし鬼の姿を見る事は無くなった今でも、僅かな生き残りが稀に人里に降りてきて、生きる為に人に取り入り、喰らおうとしておるそうじゃ。
    
    「ふーん。でも生きるためだから仕方がないよね」

    そうじゃな。人間も生きるために狩りをし、多くの動物の命を奪ってきた。彼等だけを責めることは出来ぬよな。

    鬼達は、人間に心を開いて貰うために近づき、時には自らその心を開いた。
    そうやって心を通わせた仲になった相手だとしても、鬼は生きるためにその人間を喰らわねばならない──────
    それが現代の"鬼の宿命"なのじゃ。

    「なんか、かわいそう」

     わしもそう思う。
     神から与えられし制約は、あまりにも重かった──────

    「────あ、もうこんな時間!    お話の途中だけど、私、今日これからお友達と遊ぶ約束してるの」

     友達じゃと?

    「そう!   昨日お友達になったの。ニーオっていう子なんだけど、すっごく可愛くて面白い子なんだよ!」

    そうかいそうかい。
    では気を付けて行っておいで。
    あんまり暗くならないうちに帰ってくるんじゃよ。

    「うん!    行ってきます。また夜お話聞かせてね、おばあちゃん」

    さて、もうお昼か。
    わしも『俺の人生鬼モード』の再放送でも観て昼寝でもしようかの。
    あれは何度観てもええ。わしの人生のバイブルじゃ。






     おしまい。
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