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第三章 【誓】
一歩後ろ
しおりを挟む──第三セット──
添津という選手は、小学校時代はそれなりに実力があると言われた選手である。
事実、彼女は最後の大会では県大会へと出場し、ベスト16にも輝いた。
それ故、添津にも意地がある。
目の前にいるのは、小学生時代、相手にもならなかった選手。
【2-1】
──なんなんだよコイツ......──
下がった所でじっくり構え、低く深いブッケンのカットボール。
右に逸れたボールをバックカットで拾い、チャンスになった返球はすかさず前に詰めて攻める事も忘れない。
愚直に反復を繰り返した、教科書を一ページずつめくるような、お手本のような卓球。
【4-2】
──強ぇじゃねぇかよ……──
添津の言うようにブッケンは大きく変わった。
小学生の時、泣き虫でどん臭くて、影の薄かったブッケン。彼女を変えてくれたのは他でもない。仲間達。その中でも特別大きな存在が親友の乃百合である。
──私の目標。いつも私の一歩先を行く乃百合ちゃん。そんな乃百合ちゃんに追いつきたくて必死に卓球を練習して来た──
【6-5】
──そしてようやく背中に触れられるくらいに追いつけた……のかな。憧れの存在を追いかけて、追いついて……その先は? 追い越したい……違う。隣に立ちたい? それもちょっと違う。さっきハッキリわかったんだ──
【8-6】
──私は乃百合ちゃんの一歩後ろが好きなんだ。よく「我慢強いね」「諦めないね」って言われるけど、本当は違う。実際何度も挫けたし、諦めかけた。
でも。それでも今日まで私が前を見て進んで来れたのは、その先にいつも乃百合ちゃんが居たからなんだ。だから私は前を見て来れた。ありがとう。
だから今度は私が、乃百合ちゃんの背中を押してあげるんだ──
【10-8】
──この人に勝って伝えるんだ。大丈夫だよって。これでチャラだよって、言ってあげるんだっ!──
ブッケンのチキータ。
速く、鋭く、芯で捕らえられた最高の打球音。
相手の伸ばした手から、逃げるように角度を変えて飛んでいく真っ白なボールは、相手コートに跳ねたあと、そのままサイドから床に向かって落ちていく──
添津も必死に手を伸ばす。
負けたくない。
負けられない──
このまま手を伸ばしても届かない。
添津は大きく前にダイブした。
しかし、ラケットにボールが触れる事はなく、うつ伏せに倒れこんだ添津の目の前を、ボールが跳ね遠ざかっていくのが見えた。
この瞬間、試合の勝者が確定した。
【11-8】
セットカウント 【3-0】
「ゲームセット。勝者、六条選手」
審判が終わりを告げると、念珠崎ベンチは大きく波打つような盛り上がりを見せた。
試合の終わりに互いの健闘を称え合い、握手を交わす為、ブッケンは添津に右手を差し出した。
「添津さん、ありがとうございます。今回はたまたま勝てたけど、やっぱり強くて……これこらも私の目標でいて下さい」
「…………っ」
添津も手を差し伸べようとしたが、赤くなったブッケンの右手に気づくと、出しかけた手を静かに引き、背中に手を回し軽く叩いた。
「また……」
そう短く言葉を残し、添津はベンチに引き下がって行った。
そんな添津を見送り、ブッケンもベンチに下がる。待っているのは大好きな仲間達。
ブッケンは乃百合に近づくと、優しく乃百合に言葉をかけた。
「これで一対一。チャラになったね。ここからだよ」
「うん……ありがとう。ブッケン…………あのさ……」
「うん?」
「また……私が負けたら、また勝ってくれる?」
「────っ。もちろんだよ!」
第二セットを終えた時点でセットカウントは【1ー1】
決勝への挑戦権をかけた戦いは、まだまだこれからだ。
■■■■
次の試合はダブルスである。
念珠崎にとっては一番の山場はここだろう。
即席コンビで地区の強豪ペア相手に、果たしてどこまで通用するものなのだろうか──
「さあさあ和子ちゃん、次は私達の番だよー!」
「あっはひ!」
「不安? だよねー。さっきちょっと合わせただけだもんねー」
「い、いえ、海香先輩が一緒だから大丈夫です!」
試合が始まるまでの少しの時間を使って、海香と和子は設けられた練習場で、コンビネーションの確認を行った。
サインの確認、約束事、意見の交換──、
それでも準備期間としてはあまりにも短すぎる。
不安な気持ちを押し殺し、念珠崎の選手達は、海香と和子を送り出した。
「これより、第三セットを始めます。原、小岩川ペアVS片倉夢、叶ペア。サービス原、小岩川ペア。0ー0」
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