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清嶺地 エル(セイレイジ エル)
8:後押しと未来
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文化祭一日目を終えて係の反省会が終わっても、私は越方さんを呼び止めることができなかった。だって彼女ったら文仁くんと目が合った瞬間、顔を真っ赤にして会話になってないんだもの。見る人が見たら片思いだと勘づいてしまうわ。ただ、今回の場合両片思いだけど。そう考えたら悔しくて。でも不思議とスッキリして。
片付けと二日目の準備を済ませ解散となったとき、一年グループで帰ろうと提案する野瀬さんの意見に便乗し、文仁くんも少し強引に誘った。わがままはこれで最後だからどうか許して。
女子更衣室で着替えていると、越方さんが幸倉さんに向かって改めて謝罪した。私が見ているだけで既に三回はこの調子だから、謝罪は一回だけで大丈夫だと窘められていた。
「だけどさぁ、しおんちゃんがヘルプ行くなんてちょっと意外かも。あ、バカにしてるわけじゃなくておとなしいタイプだと思ってたからさ」
「いやいや、ただのお人好しなだけだって」
お人好し、ねぇ……こっちが善意を持って助けても、相手にお節介だと言われたら凹まない? モデルをやっているといろいろな人と出会うからね。でも純粋で人を思いやるところに憧れてしまうな。
私はブラウスのボタンを留めている途中で彼女に話しかけた。
「越方さん、今日はありがとう。ゴメンね、取り乱して」
「いえいえ、慣れないことだったんだから慌てるのは当たり前だって」
あなたは雪のように白く綺麗な心を持っているのね。でもそんなんじゃいつか足元をすくわれてしまうわよ。
彼に対する気持ちを知りたくて私は彼女と会話を続けた。
「ビックリしたでしょ? 駆けつけたとき文仁くんと抱きついていたから」
「うん……ちょっとね」
はい、嘘。ちょっとどころじゃないでしょ。目が泳いでるし挙動不審だし。これは確定ね。
私は最後の仕上げにと彼女に笑顔を向けた。
「付き合ってないよ」
「……え?」
「好きなんでしょ? 文仁くんのこと」
「……な、なななななんで!?」
私が爆弾を投下すると、後ずさるほどの驚きようでその他のふたりも笑っていた。『なんとなくわかっていた』と野瀬さんが人差し指で越方さんの頬をうりうりつついている。
「だって私も好きだから。中学のころからね。彼と話してる反応見てたらすぐわかるもん」
「……え?」
「でも振られちゃった。髪の毛金色にしたり勉強したり結構頑張ったんだけどさ」
女子三人が浮かない表情で私を見つめてくる。美人だからってみんながみんな振り向いてくれるわけじゃないのよ。
不意に越方さんと視線がぶつかった。自分が文仁くんの片思い相手だって彼女は知らないのよね。そう思うとなんだか腹立たしくなって黙っておくことにした。もう気遣う必要ないんだから自分でなんとかしてほしいわ。
壁掛けの時計を見れば着替え始めてから二十分以上経過していた。流石にこれ以上彼を待たせては悪いと、急いで身支度を整え更衣室をあとにした。
…
……
「また明日ね!」
「バイバーイ!」
文仁くんと越方さんを校庭に残し、私たち三人はそれぞれの理由をつけ来た道を引き返していた。私が彼たちをふたりきりにするべく、野瀬さんと幸倉さんにアイコンタクトを取ると、ノリノリで空気を読んでくれて助かった。
「ふたりともありがとう! 告白、上手くいくといいね!」
「それはもちろんだけど、清嶺地さんは大丈夫なの?」
「何が?」
昇降口の手前まで差し掛かったとき改めてふたりにお礼を言うと、幸倉さんがいぶかしげな表情で私に問いかけた。
「だってスポーツ推薦で入学した磯貝くんを追いかけるほど好きだったんでしょ? もしふたりが付き合ったら顔合わせづらくならない?」
彼女の言うことはもっともだ。気に入られたくて全ての時間を彼に捧げた。だけど……
「わかってる。振られた私に勝ち目がない以上、応援してあげたいじゃない? 私の出る幕なんてないでしょ」
「それはそうだけどさ……」
「まぁまぁ、仕方ないんじゃないの? 気楽に考えようよ」
まだ腑に落ちなさそうな彼女を野瀬さんが宥めた。そうよ、恋愛に正解なんてありはしないんだから悩むだけ無駄だし。
「でも、明日の学校でふたりに何も進展なかったら奪ってやるわ。流石にこれ以上優しくできないもの」
私の本音を吐き出すと、彼女たちは笑いを堪えきれなかったのか同時に吹き出した。そんなに面白かったかしら。特に野瀬さんのツボにはまったようで、笑いながら私に言った。
「清嶺地さんってただのお嬢様じゃなかったのね。安心したわ」
「色白だけど、昔から腹黒なのよね」
私がそう言うとさらに彼女は声を上げて笑った。もしかして笑い上戸とか……?
「清嶺地さんって面白いわぁ。なんだか仲良くなれそう」
「私も。良かったら下の名前で呼んでくれる?」
「もちろん! エルちゃん!」
私たちはお互い下の名前で呼び合った。なんだか友だちとしての距離が近づいた気がした。モデルでなく清嶺地エルとしての笑顔が自然と溢れる。
「ところでさぁ、なんでエルちゃんは『エル』って名前なの? めずらしいよね」
「あー、確かに。ずっとハーフかと思ってたけど日本人って聞いてビックリしたもん」
言い出すタイミングを見計らったかのように、疑問を投げかける志季ちゃんに合わせて繕ちゃんが続いた。
またこの話題を話さないといけないのか。でも不思議と嫌な感情が湧かない。
私のスマホに着信。京野が学校に到着したようだ。
「もうすぐ迎えがくるから車の中で話そうよ! 駅まで送るからさ」
「本当に? ありがとう!」
「専属の運転手なんてお金持ちだー。やっぱりイケメンなの?」
「女なんだよねー。でも面白い人だからきっと気に入ると思うよ!」
たくさんのお金で釣らなくても友だちはできる。なんて晴れやかな気分なんだろう。
(お金持ちなのかもしれないけどさ、もうちょっと人との付き合い方を考えた方がいいんじゃない?)
彼と初めて話した日。初めは何のことを言っているのかわからなかったけど今ならよくわかるよ。いつかあなたより素敵な彼氏を見つけて見返してやる。だから告白、頑張ってね。
…
……
翌日文仁くんとしおんちゃんから付き合ったことを聞きホッとした。そしてその帰り道、林さんが勤める美容室を訪れていた。予約時間より少し早めに到着すると、彼の姿はなく代わりに意外な人物がソファーに座っていた。
「奏介くん!」
「あ、エルちゃん」
奏介くんとはアカシくんと友だちになった縁で度々話すようになった。彼は彼女持ちということもあって、女の私にも気取らずに接してくれる。
私はその姿を認識するや否や、駆け足で彼の元へ向かっていた。
「偶然だね! 奏介くん髪の毛切りに来たの?」
「えーと……」
「お、エルちゃん。ゴメンね、ちょっと電話しててさ」
彼が何かを言いかけたとき、林さんがバックヤードから店内に戻ってきた。二十五歳という年齢ながら、副店長を任されているので忙しそうだ。
「客待たせるなよ」
「仕方ねーだろ。クレームの処理だったんだから」
林さんが奏介くんに悪態をつかれたが、なんでもないとでもいうようにさらりとかわした。私と同じ常連なのかな……?
状況を把握できないでいると、ケープを取り出した林さんが私に話しかけた。
「弟」
「え!? 嘘!?」
「これが本当なんだなー」
「でも苗字違うし……」
林さんが言うには結婚後、奥さんの姓を名乗っているそうだ。奥さんのなずなさんはふたつ年上でこの店の店長だと聞いて驚いた。彼女は別の支店を往き来しているからか、一度も顔を合わせていない。今日奏介くんが店を訪れたのは、ヘアワックスを買うためとのことだった。
「なるほどねー。そう言われれば顔もどことなく似てるし納得かも」
「学校からこの店まで結構距離あるし、名前も全く共通点ないから知らないのも無理ないよね」
「でも『奏介』と『潤一』ってどっちもカッコよくて好きだなー」
「あはは、ありがと」
林さんは社交辞令だと思ったのかカラカラと笑った。本心なんだけどな。校内ナンバーツーのイケメンとイケメン美容師……ふたり並ぶと絵になる。
他の客がいないとはいえ、業務時間内なのでこれ以上雑談するわけにはいかない。私は自分のツインテールを解くと、セットチェアに腰をかける。彼は私にケープをかけ、鏡越しに目を合わせた。
「今日はどうするんだっけ?」
「あれよ、いつもの『気分転換』」
…
……
文化祭の振替休日を経て登校すると、すぐさま文仁くんを探した。誰よりも早くこの姿を見てほしかったから。
体育館に向かう途中で、朝練終わりの彼にバッタリと出くわした。しかしいつもと違ったのは……無言でいるわけにいかなかったので無難にあいさつをする。
「お、おはよう」
「うん……おはよう」
「どうしたのよ、その髪」
「そっちこそ」
文化祭まで金色に輝いてた頭髪。しかし今はお互い茶色に落ち着いていた。相変わらず文仁くんは市販の毛染め剤を使っているみたいで少しムラがあったけど。
私はロングからショートになった毛先をつまみ、彼に見せつけてみた。
「失恋したから切っちゃった。バッサリとね」
「ちょっと、やめてよ……」
「冗談よ。気分を一新したくて」
あの日林さんは深く詮索をするでもなく、淡々と美容師しての説明を始めた。黒を希望したが、髪のダメージを軽減するため茶色から染めると良いらしい。なので彼のアドバイス通りイエローアッシュを注文した。
「しおんちゃんとは順調?」
「うん、まぁ……」
何よ、デレデレちゃって。ムカつくったらありゃしないわ。
「私を振ったんだから大事にしなさいよ?」
「わかってるって」
「じゃ、教室戻るね」
「うん」
彼との会話を終えた私は軽い足取りでその場をあとにした。多くは語らない。互いを認識する程度でちょうどいい。
もう誰かに気に入られるために、自分を無理やり変えるのはやめた。私は好きなように生きていく。
校舎三階の一年の教室前。賑やかな生徒の声が廊下にいても聞こえてくる。私は逸る気持ちを落ち着かせて引き戸を開けた。
「おはよう!」
私には金髪よりも輝かしい未来が待っている。
片付けと二日目の準備を済ませ解散となったとき、一年グループで帰ろうと提案する野瀬さんの意見に便乗し、文仁くんも少し強引に誘った。わがままはこれで最後だからどうか許して。
女子更衣室で着替えていると、越方さんが幸倉さんに向かって改めて謝罪した。私が見ているだけで既に三回はこの調子だから、謝罪は一回だけで大丈夫だと窘められていた。
「だけどさぁ、しおんちゃんがヘルプ行くなんてちょっと意外かも。あ、バカにしてるわけじゃなくておとなしいタイプだと思ってたからさ」
「いやいや、ただのお人好しなだけだって」
お人好し、ねぇ……こっちが善意を持って助けても、相手にお節介だと言われたら凹まない? モデルをやっているといろいろな人と出会うからね。でも純粋で人を思いやるところに憧れてしまうな。
私はブラウスのボタンを留めている途中で彼女に話しかけた。
「越方さん、今日はありがとう。ゴメンね、取り乱して」
「いえいえ、慣れないことだったんだから慌てるのは当たり前だって」
あなたは雪のように白く綺麗な心を持っているのね。でもそんなんじゃいつか足元をすくわれてしまうわよ。
彼に対する気持ちを知りたくて私は彼女と会話を続けた。
「ビックリしたでしょ? 駆けつけたとき文仁くんと抱きついていたから」
「うん……ちょっとね」
はい、嘘。ちょっとどころじゃないでしょ。目が泳いでるし挙動不審だし。これは確定ね。
私は最後の仕上げにと彼女に笑顔を向けた。
「付き合ってないよ」
「……え?」
「好きなんでしょ? 文仁くんのこと」
「……な、なななななんで!?」
私が爆弾を投下すると、後ずさるほどの驚きようでその他のふたりも笑っていた。『なんとなくわかっていた』と野瀬さんが人差し指で越方さんの頬をうりうりつついている。
「だって私も好きだから。中学のころからね。彼と話してる反応見てたらすぐわかるもん」
「……え?」
「でも振られちゃった。髪の毛金色にしたり勉強したり結構頑張ったんだけどさ」
女子三人が浮かない表情で私を見つめてくる。美人だからってみんながみんな振り向いてくれるわけじゃないのよ。
不意に越方さんと視線がぶつかった。自分が文仁くんの片思い相手だって彼女は知らないのよね。そう思うとなんだか腹立たしくなって黙っておくことにした。もう気遣う必要ないんだから自分でなんとかしてほしいわ。
壁掛けの時計を見れば着替え始めてから二十分以上経過していた。流石にこれ以上彼を待たせては悪いと、急いで身支度を整え更衣室をあとにした。
…
……
「また明日ね!」
「バイバーイ!」
文仁くんと越方さんを校庭に残し、私たち三人はそれぞれの理由をつけ来た道を引き返していた。私が彼たちをふたりきりにするべく、野瀬さんと幸倉さんにアイコンタクトを取ると、ノリノリで空気を読んでくれて助かった。
「ふたりともありがとう! 告白、上手くいくといいね!」
「それはもちろんだけど、清嶺地さんは大丈夫なの?」
「何が?」
昇降口の手前まで差し掛かったとき改めてふたりにお礼を言うと、幸倉さんがいぶかしげな表情で私に問いかけた。
「だってスポーツ推薦で入学した磯貝くんを追いかけるほど好きだったんでしょ? もしふたりが付き合ったら顔合わせづらくならない?」
彼女の言うことはもっともだ。気に入られたくて全ての時間を彼に捧げた。だけど……
「わかってる。振られた私に勝ち目がない以上、応援してあげたいじゃない? 私の出る幕なんてないでしょ」
「それはそうだけどさ……」
「まぁまぁ、仕方ないんじゃないの? 気楽に考えようよ」
まだ腑に落ちなさそうな彼女を野瀬さんが宥めた。そうよ、恋愛に正解なんてありはしないんだから悩むだけ無駄だし。
「でも、明日の学校でふたりに何も進展なかったら奪ってやるわ。流石にこれ以上優しくできないもの」
私の本音を吐き出すと、彼女たちは笑いを堪えきれなかったのか同時に吹き出した。そんなに面白かったかしら。特に野瀬さんのツボにはまったようで、笑いながら私に言った。
「清嶺地さんってただのお嬢様じゃなかったのね。安心したわ」
「色白だけど、昔から腹黒なのよね」
私がそう言うとさらに彼女は声を上げて笑った。もしかして笑い上戸とか……?
「清嶺地さんって面白いわぁ。なんだか仲良くなれそう」
「私も。良かったら下の名前で呼んでくれる?」
「もちろん! エルちゃん!」
私たちはお互い下の名前で呼び合った。なんだか友だちとしての距離が近づいた気がした。モデルでなく清嶺地エルとしての笑顔が自然と溢れる。
「ところでさぁ、なんでエルちゃんは『エル』って名前なの? めずらしいよね」
「あー、確かに。ずっとハーフかと思ってたけど日本人って聞いてビックリしたもん」
言い出すタイミングを見計らったかのように、疑問を投げかける志季ちゃんに合わせて繕ちゃんが続いた。
またこの話題を話さないといけないのか。でも不思議と嫌な感情が湧かない。
私のスマホに着信。京野が学校に到着したようだ。
「もうすぐ迎えがくるから車の中で話そうよ! 駅まで送るからさ」
「本当に? ありがとう!」
「専属の運転手なんてお金持ちだー。やっぱりイケメンなの?」
「女なんだよねー。でも面白い人だからきっと気に入ると思うよ!」
たくさんのお金で釣らなくても友だちはできる。なんて晴れやかな気分なんだろう。
(お金持ちなのかもしれないけどさ、もうちょっと人との付き合い方を考えた方がいいんじゃない?)
彼と初めて話した日。初めは何のことを言っているのかわからなかったけど今ならよくわかるよ。いつかあなたより素敵な彼氏を見つけて見返してやる。だから告白、頑張ってね。
…
……
翌日文仁くんとしおんちゃんから付き合ったことを聞きホッとした。そしてその帰り道、林さんが勤める美容室を訪れていた。予約時間より少し早めに到着すると、彼の姿はなく代わりに意外な人物がソファーに座っていた。
「奏介くん!」
「あ、エルちゃん」
奏介くんとはアカシくんと友だちになった縁で度々話すようになった。彼は彼女持ちということもあって、女の私にも気取らずに接してくれる。
私はその姿を認識するや否や、駆け足で彼の元へ向かっていた。
「偶然だね! 奏介くん髪の毛切りに来たの?」
「えーと……」
「お、エルちゃん。ゴメンね、ちょっと電話しててさ」
彼が何かを言いかけたとき、林さんがバックヤードから店内に戻ってきた。二十五歳という年齢ながら、副店長を任されているので忙しそうだ。
「客待たせるなよ」
「仕方ねーだろ。クレームの処理だったんだから」
林さんが奏介くんに悪態をつかれたが、なんでもないとでもいうようにさらりとかわした。私と同じ常連なのかな……?
状況を把握できないでいると、ケープを取り出した林さんが私に話しかけた。
「弟」
「え!? 嘘!?」
「これが本当なんだなー」
「でも苗字違うし……」
林さんが言うには結婚後、奥さんの姓を名乗っているそうだ。奥さんのなずなさんはふたつ年上でこの店の店長だと聞いて驚いた。彼女は別の支店を往き来しているからか、一度も顔を合わせていない。今日奏介くんが店を訪れたのは、ヘアワックスを買うためとのことだった。
「なるほどねー。そう言われれば顔もどことなく似てるし納得かも」
「学校からこの店まで結構距離あるし、名前も全く共通点ないから知らないのも無理ないよね」
「でも『奏介』と『潤一』ってどっちもカッコよくて好きだなー」
「あはは、ありがと」
林さんは社交辞令だと思ったのかカラカラと笑った。本心なんだけどな。校内ナンバーツーのイケメンとイケメン美容師……ふたり並ぶと絵になる。
他の客がいないとはいえ、業務時間内なのでこれ以上雑談するわけにはいかない。私は自分のツインテールを解くと、セットチェアに腰をかける。彼は私にケープをかけ、鏡越しに目を合わせた。
「今日はどうするんだっけ?」
「あれよ、いつもの『気分転換』」
…
……
文化祭の振替休日を経て登校すると、すぐさま文仁くんを探した。誰よりも早くこの姿を見てほしかったから。
体育館に向かう途中で、朝練終わりの彼にバッタリと出くわした。しかしいつもと違ったのは……無言でいるわけにいかなかったので無難にあいさつをする。
「お、おはよう」
「うん……おはよう」
「どうしたのよ、その髪」
「そっちこそ」
文化祭まで金色に輝いてた頭髪。しかし今はお互い茶色に落ち着いていた。相変わらず文仁くんは市販の毛染め剤を使っているみたいで少しムラがあったけど。
私はロングからショートになった毛先をつまみ、彼に見せつけてみた。
「失恋したから切っちゃった。バッサリとね」
「ちょっと、やめてよ……」
「冗談よ。気分を一新したくて」
あの日林さんは深く詮索をするでもなく、淡々と美容師しての説明を始めた。黒を希望したが、髪のダメージを軽減するため茶色から染めると良いらしい。なので彼のアドバイス通りイエローアッシュを注文した。
「しおんちゃんとは順調?」
「うん、まぁ……」
何よ、デレデレちゃって。ムカつくったらありゃしないわ。
「私を振ったんだから大事にしなさいよ?」
「わかってるって」
「じゃ、教室戻るね」
「うん」
彼との会話を終えた私は軽い足取りでその場をあとにした。多くは語らない。互いを認識する程度でちょうどいい。
もう誰かに気に入られるために、自分を無理やり変えるのはやめた。私は好きなように生きていく。
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