君と1日夢の旅

宵月

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君と手を繋いだのはいい思い出

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細い道を歩けば、ステージの横に出た。


いい香りのする焼き鳥屋さんや、居酒屋を何個も横目にして、たどり着く。


栄えていた近未来的な街からは一転して、自然のものが多く残る、井の頭公園に。


よく来た記憶がある。


池の水に触れたくてボートから手を伸ばしたこと。


動物と戯れたこと。


神社でお参りをして、あった小銭を洗ったこと。


子供の時にはそれが楽しくて仕方なかった。


ステージでは、軽快なアコギと、パーカッションの音。


少し先から香る香ばしい三福団子の香り。


全てが、懐かしかった。


「すごい…大きな池!あっ!あそこにボートがあるよ!」


はしゃいでいるつくねがその短い足でぽてぽてとボートの桟橋へと走り出す。


2、3センチあるかないかの歩幅では走っても遠い道のりだろう。


走るつくねを捕まえ、抱き上げる。


「橋からの景色も綺麗だから。みながら行こう。」


おばあちゃんの気持ちはこんなんだったのだろうか。


つくねみたく駆けていく僕を引き止めて手を繋いでいてくれた。


大人になってから、会えなくなってから気付くものなのだ。


こんないいところを、走り去っていてはもったいないんだと。


「ほら、鴨がいる。」


「ほんとだね!水浴びしてて気持ちよさそう!」


つくねの脇を両手でしっかりと抱えてそっと橋の手すりの外へと連れて行く。


そしたら流石に怒られて降ろしてからめちゃくちゃ足を殴られた。


ぽふぽふと音がしそうな可愛い攻撃だったが。


せっかく洗ったのに落とすわけがないじゃないか。


また分解するのなんか僕はごめんだ。


「ほら、ボート乗り場へ行こうか。」


「むぅ。次やったら怒るからね。」


拗ねてるつくねをちゃんと抱き締めておく。


流石にもうやらないが。


ちゃんと桟橋の方へ足を向けた。


「ボートどれ乗るの?」


「手漕ぎ。」


「えーーーー。」


「漕げないでしょって…」


「無理だけどさあ、ボクあっちの白鳥乗りたいー。」


「いや無理だから…乗れても帰って来れないよ。」


「いや乗れるもん!」


「いや無理だって。」


いやがるというか駄々をこねるつくねを仕方なく、という感じで付き合わせ、手漕ぎボートに乗った。


もちろん料金は2人分だ。


…つくねの判断基準とはなんなんだろうか。


1人…ではないと思っていたのだが。


だからといって一匹ではない。


ぬいぐるみとは思われてなさそうだし…


「どうしたの?早く乗ろう?」


「…そうだね。」


僕の疑問なんか知らないまま、つくねはボートに乗った。


ボートに自分から乗るぬいぐるみなんか今まで見たことない。


楽しそうにボートのふちに手をかけて水面を見ていた。


「ほら、落ちるよ。」


「大丈夫だもん。落ちないもん。」


「…さっき嫌がってたくせに。」


「落とそうとしたのは流生だもん!」
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