君と1日夢の旅

宵月

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キミの手を、引き上げるように。

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誰かの泣く声が聞こえる。



その隣は、黒い服に身を包んだ人たち。



『うぅ…うく…ひっく…』



『大丈夫、ちゃんと離れないでいてくれるよ。』



泣いている子供は、そんなありきたりな言葉が欲しいわけではなかった。





『違う…違うもん…!!もう僕のことおばあちゃん嫌いなんだ…僕だって…きらいだもん…!』


『なんてことを言うんだ…!』


『もう…おばあちゃんなんか…!おばあちゃんなんかだいっきらいだ!!』



もう会えないという事実を、まだ飲み込めないだけなのだ。








変わらない、視線の先にある藤棚。


ほのかに香る線香の香り。


もう何年という単位で来ていないのにここは変わらない。


行く道も、ここも。


まだ、行くのを躊躇う気持ちがあった。


「行かないの?」


「…僕だって緊張するんだよ。」


「おばあちゃん待ってるかもなのに?」


「そうだけど…」


その霊園に入るのを躊躇っていると、そんな僕を出し抜くように小さな影が霊園に走っていった。


「えっ何…?」


「狐とかじゃない?」


「それ猫のぬいぐるみのつくねが言うの…」


でもその影は、なぜか目の前で止まり、くるりと振り返った。


『…お兄ちゃんこないの?』


幼い、子供だ。


さっきの坂でも誰かと会うことなんかなかったのに、少年は当たり前のようにそこにいた。 


「君は誰?もしかして迷子かい?」


すると少年は首をふるふると横に振った。


『おばあちゃん、どこ?』


そう言って少年は霊園の奥に行き、消えた。


まるで光の結晶がはらはらと崩れるように。


「…なんだったんだろう。」


「ボクにわかるわけないじゃないか。」


それのおかげか霊園へ一歩足を踏み入れる事ができた。


線香の香りが、途端に強くなった。


二歩目、三歩目と、歩いてゆく。


ただ何も無いはずの道が重くて、少し先にあるそのお墓が遠くすら感じる。


花でも買っていけばよかった。


何も考えたくない頭でそう思った。


いざ目の前に見ると…色んな感情が溢れて来た。


綺麗な石と、生けられた花があるだけの、シンプルなお墓。


いや、これが普通だ。


「おばあちゃんボクのこと覚えてる?琉生連れてきたよ?」


パタパタと僕の腕の中で楽しそうにおばあちゃんに向かって話すつくねが羨ましい。


僕も何も考えられず話せたらいいのに。


鼻の奥が締まるように痛くなって何も言えないまま目尻から涙が落ちた。


つくねはただ何も言わず僕の腕の中で大人しくしていた。


「ねぇおばあちゃん。今まで来なくてごめん。」


「手を合わせることすらしなくてごめん。」


「あの時嫌いって言って…ごめん」


もう、縋れない。


僕にとっての1人は、もう居ない。


人の話やあの時の悲しさなんかよりも信憑性のある今の目の前の石に、思わずそう思った。


疲れて、苦しくて、もがいて、動けなくなって。


思わずしゃがみこんだ。


『頑張ったねぇ琉生。ええ子や。』


思い出した細くほねぼねしい薄い手が、僕の頬を撫でた。


顔をあげても、もちろんその先に人なんか居ない。


「おばあちゃんの言ういい子になれてた…?僕さ、もう疲れて死のうとしてたんだよ?」


思わず聞いたその質問だって答えは返ってこない。


それに安堵したのか。


「忙しいとか、疲れたとか理由になんかならなくて無償で頑張らなきゃ行けない。


自分のためにがんばらなきゃいけないって。


でも結局全部なにかのためにやったって腹の足しにもならないんだよ。


どんどん疲弊していってさ…まともで居られないよ。」


気づいたら口だけが先にただひたすらに喋り続けていた。


「でも頼る人だっていない。


家族だって…気づいたら頼れる歳じゃ無くなってたしさ。


甘えろって言われたって無理に決まってんじゃん…


僕だって必死に生きてるのに周りはみんなほかの方が必死に生きているって言う…


まだ僕の方が幸せなんて決めつけないでよ…


バイトの先輩だって大っ嫌いだしインターンだって行きたくないし…!


全部を全部両立させて今まで偉かったはずだよ…


でももうなんかいい子でいるのに疲れたんだよ…!!」


最後はもう嗚咽混じりで、叫ぶように、噎せるように吐き捨てた言葉だった。


ただしゃがみこんで下を向いて。


逃げることを正当化するように僕は1人叫んだ。
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