もし明日、死ねるなら

宵月

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世界と別れの足音

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「で、次は何をしようか。時間までは…もう5時間を切ってるよ。」

「ってことは4時ちょっと過ぎに死ぬんだ。」

時計が指すのは11時半少し前の微妙な時間。

何となく、目指す先が見えてほっとする。

「うん。そうなるね。それで、やりたいことは決まった?」

「……別に、何もない。」

「ふぅん。まぁ、それならそれでいいや。」

特に興味なさそうに答える。

「…お前って、人を殺すとき、どんな気持ちで殺すんだ?」

「えーっと、そうだね。特に感情は湧かないかな。淡々とこなす感じだよ。」

「へぇ…。」

「逆に君は唐揚げとか食べる時鳥に対して痛かっただろうなぁって思ったりするかい?」

「えぐい表現だな。」

「でも、そうだろう?殺したからといって罪悪感を感じる必要は無いと思うよ。むしろそれが普通になれば尚更。」

「…それもそうか。」

「それこそ食肉加工業者とそうそう変わらないくらいじゃないのかい?まぁ、あくまでこれは僕の意見だけれどね。」

「じゃあ、俺が死んだ後、お前はどうなるんだ?」

「僕かい?僕も特に変わらないんじゃないかな。君を殺せば次のターゲットのところへ行くだけさ。だって鳥も豚も牛も願わなくたって流れてくるだろう?」

「そっか。」

「他に聞きたい事は?」

聞かれるが、思いつかない。

「…ない。」

いくら考えてもないのだ。

「そうかい。それじゃあ…」

急に立ち上がって何処かに行こうとする少年を呼び止める。

「おい、どこ行くんだよ。」

「業務連絡?一応これでも保守義務のある書類があるからね。」

そう言ってどこからか出てきたバインダーを手に取りさっさとどこかへ言ってしまう。

本当によく分からない奴だ。

「…。」

時計を見る。

4時まであと4時間半だ。

あと4時間半の命か。案外短いものだと思った。

そして、自分が今から死ぬという実感もない。

「お待たせ。」

暫くして戻ってきた少年の手には数枚の紙があった。

「何やってたんだよ。」

「仕事さ。業務連絡と言っただろう?」

さらりと答えるが、一体この死神には何の仕事が回ってくるのだろうかと疑問を抱く。

死神といえば鎌を持っているイメージだが、こいつは違うようだし。

「さて、残り時間はあと4時間50分程になったわけだけど…君は何かやりたいこととかある?」

「ない。」

「即答だねぇ…。」

「ないもんはしょうがないだろ。」

「まぁ、そうだね。なら仕事して知らないうちに電車ホームから転落とかの方が良かったかい?」

「表現がいちいちえぐい。」

「ごめんごめん。で、どうするの?」

「…。」

正直何もやりたくないというのが本音だった。
しかし、それを言えばまたこいつに「何がしたいのか」を問い詰められるのは目に見えていた。

それは面倒くさい。

「何か思いついた?」

「…じゃあ、お前の話聞かせてくれよ。」

「僕の話?」

「ああ。興味はある。」

適当に嘘をつく。

「ふぅん…。じゃあ話すけど、つまらないかもしれないよ?」

「冥土の土産にはちょうどいい。まぁあげる人もいないが。」

「別にいいよ?それで僕に縋ってくれるなら。可哀想と思ってくれるならね?」

あどけない表情のまま、彼は首を傾げる。

「僕は死にかけて死に損なって彷徨って結局死んでこうなった。それだけ。」

つまらないかもしれない、といった物語は、あまりにも一瞬で終わった。

「…それだけ?」

「あぁ、それだけさ。だって個々の感情論はいらないだろう?」

「…。」

あっさりと会話は途切れる。

過去を話すにはあまりにもあどけない表情のまま。
首を傾げる。

似つかわしくないほどの真ん丸なおめめすら半月になって。

「死にたくないなんて、思ったことないよ。僕も同じさ。」

そう、彼はボヤいた。

それは自嘲か、それとも達観的視点か。

「だからこそ君には死にたくない、助けて、って縋って欲しいのさ。僕が出来なかったようにどこかみんな押し止めて呆気なく最後を迎える。」

「…子供かよ。」

「あぁ。子供さ。見た目のとおりね。」

可愛らしく…とは真逆でうざったらしく両手を広げる少年に呆れ半分で俺は視線を逸らした。
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