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異世界デート④
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「白牡丹もだが、外出先でこういった粗食が出てもお前は文句を言ったことがないな」
「これを粗食と思うのは金持ちだけだから。それに、よくわかんない高級食材出されても味の良し悪しがわからないんだよね。食べたことないし」
周瑛がせっせと取り分けてくれたおかずを有り難くつまみ、木蓮は包子にかぶりついた。
あつあつの胡麻餡で舌を火傷しそうになったが、香ばしくもしっとりと甘い餡が絶妙で、木蓮はひりつく舌を無視して二口目をかじった。
空になった木蓮の皿に気づいた周瑛が、再び炒め物を取り分けた。
そのマメさに感心しながら、軽く頭を下げる。
「ありがとう。ねえ、さっきから取り分けてもらってばっかりだけど、私も同じようにしたほうが良いの?」
「そこそこ気心が知れた者同士で食事をする場合は、菜をよそってもらったら、お返しをするな」
そういうことならば、と木蓮は大皿を覗いたが、二つともすでに空だった。
どうやら知らないうちに食べ終わっていたらしい。
しかし包子はまだ二つある。
一つ手に取ると一口サイズにちぎり、木蓮は周瑛の口元に運んだ。
「はい、あーん」
おかずは食べ尽くしてしまったからこれで返礼となるだろう。
そう信じていた木蓮だが、周瑛は一瞬硬直した後、耳から頬までをうっすらと赤らめた。
仏頂面で差し出された包子を食べると、呆れたようなため息をつく。
「あーんってなんだ。俺はお前の愛人か」
「おかず無くなっちゃったから包子でもいいかなって……うんわかった。ダメだったのはわかったから変な生き物を見る目はやめて」
「言うより直接体験した方が早いな」
確かにあーんはやり過ぎだったかもしれないと反省した直後、周瑛が同じように包子をちぎって木蓮の口に押し込んだ。
細く長い指が一瞬唇に触れ、不覚にもドキリとする。
猫にも似た杏仁型の瞳が、モグモグと動く頬、嚥下する喉を追う。
(確かにこれは恥ずかしいかも)
目のやり場を失い、急にわき出た羞恥心をどう処理していいかわからず困っていたその時、不意に唇から少し離れた場所を撫でられた。
どうやら胡麻餡が飛んでいたようだが、それを掬いとった指を周瑛は口に含み、ペロリと舐めた。
羞恥心が臨界点を突破した木蓮は、周瑛以上に顔を赤くした。
(な、ななななな何これ待ってなんでこんなことになった!?)
木蓮が激しく動揺しているのに気を良くしたのか、顔の赤らみがとっくに無くなった周瑛が意地悪そうに笑った。
「何を緊張しているんだ?お前が先に仕掛けてきたことだろう?」
「うっ、その、ごめん。もうしないから許して」
さすがに頬についた餡を舐めるのはやり過ぎな気がするが、恥ずかしい気持ちにさせられたのは十分体感した。
「じゃあ許さない」
「えっ」
「許したら食べさせて貰う機会がなくなるからな」
心臓が異様な早さで上下運動を再開すると同時に、頭がおかしくなったのかと疑い、木蓮は椅子ごと後ろに引いた。
しかし、なんとも言えない表情のまま硬直し続ける木蓮に周瑛は吹き出した。
「冗談だよ、馬鹿。お前に食べさせてもらったところで、餌をもらってる犬の気分を味わうだけだ」
「あっそう」
なんなんだこいつ、と言葉にならない苛立ちを、木蓮は包子を食べることで紛らわせた。
意地悪なことを言う瞬間 が一番生き生きしている周瑛は、かなり性格が悪い。
「おい、それ俺の分」
「知らない」
周瑛の包子も強奪し、木蓮はひたすら食べて胸に広がるモヤモヤから目をそらした。
「これを粗食と思うのは金持ちだけだから。それに、よくわかんない高級食材出されても味の良し悪しがわからないんだよね。食べたことないし」
周瑛がせっせと取り分けてくれたおかずを有り難くつまみ、木蓮は包子にかぶりついた。
あつあつの胡麻餡で舌を火傷しそうになったが、香ばしくもしっとりと甘い餡が絶妙で、木蓮はひりつく舌を無視して二口目をかじった。
空になった木蓮の皿に気づいた周瑛が、再び炒め物を取り分けた。
そのマメさに感心しながら、軽く頭を下げる。
「ありがとう。ねえ、さっきから取り分けてもらってばっかりだけど、私も同じようにしたほうが良いの?」
「そこそこ気心が知れた者同士で食事をする場合は、菜をよそってもらったら、お返しをするな」
そういうことならば、と木蓮は大皿を覗いたが、二つともすでに空だった。
どうやら知らないうちに食べ終わっていたらしい。
しかし包子はまだ二つある。
一つ手に取ると一口サイズにちぎり、木蓮は周瑛の口元に運んだ。
「はい、あーん」
おかずは食べ尽くしてしまったからこれで返礼となるだろう。
そう信じていた木蓮だが、周瑛は一瞬硬直した後、耳から頬までをうっすらと赤らめた。
仏頂面で差し出された包子を食べると、呆れたようなため息をつく。
「あーんってなんだ。俺はお前の愛人か」
「おかず無くなっちゃったから包子でもいいかなって……うんわかった。ダメだったのはわかったから変な生き物を見る目はやめて」
「言うより直接体験した方が早いな」
確かにあーんはやり過ぎだったかもしれないと反省した直後、周瑛が同じように包子をちぎって木蓮の口に押し込んだ。
細く長い指が一瞬唇に触れ、不覚にもドキリとする。
猫にも似た杏仁型の瞳が、モグモグと動く頬、嚥下する喉を追う。
(確かにこれは恥ずかしいかも)
目のやり場を失い、急にわき出た羞恥心をどう処理していいかわからず困っていたその時、不意に唇から少し離れた場所を撫でられた。
どうやら胡麻餡が飛んでいたようだが、それを掬いとった指を周瑛は口に含み、ペロリと舐めた。
羞恥心が臨界点を突破した木蓮は、周瑛以上に顔を赤くした。
(な、ななななな何これ待ってなんでこんなことになった!?)
木蓮が激しく動揺しているのに気を良くしたのか、顔の赤らみがとっくに無くなった周瑛が意地悪そうに笑った。
「何を緊張しているんだ?お前が先に仕掛けてきたことだろう?」
「うっ、その、ごめん。もうしないから許して」
さすがに頬についた餡を舐めるのはやり過ぎな気がするが、恥ずかしい気持ちにさせられたのは十分体感した。
「じゃあ許さない」
「えっ」
「許したら食べさせて貰う機会がなくなるからな」
心臓が異様な早さで上下運動を再開すると同時に、頭がおかしくなったのかと疑い、木蓮は椅子ごと後ろに引いた。
しかし、なんとも言えない表情のまま硬直し続ける木蓮に周瑛は吹き出した。
「冗談だよ、馬鹿。お前に食べさせてもらったところで、餌をもらってる犬の気分を味わうだけだ」
「あっそう」
なんなんだこいつ、と言葉にならない苛立ちを、木蓮は包子を食べることで紛らわせた。
意地悪なことを言う瞬間 が一番生き生きしている周瑛は、かなり性格が悪い。
「おい、それ俺の分」
「知らない」
周瑛の包子も強奪し、木蓮はひたすら食べて胸に広がるモヤモヤから目をそらした。
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