余命1年の君と結婚したい。

専業プウタ

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6.きっと、その子は白川社長の子じゃないですよ。(陽子視点)

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 小笠原陽子は、決して望月日陰には負けてはならない。

 望月日陰に対抗意識を燃やしていたのは私ではなく母だった。

 私より美人で、頭も良く、運動神経も抜群な日陰。

 それに勝ち続けることを要求する母。

 昔は日陰と比べられることが嫌だったのに、今は自分から日陰と自分を比べている。

(日陰より私が幸せじゃなければいけないの。日陰にはずっと日の当たらない場所にいてもらわないと⋯⋯お母様も私までも狂いそうだ)

「陽子、私、白川緋色さんと入籍したの。明日の陽子の婚約パーティーには彼も連れていくね」
 昨晩、日陰から勝ち誇ったような連絡をもらってからイライラが止まらない。

 白川緋色と言えば、スカーレットホテルグループの社長だ。

 家柄もルックスも抜群で、若くして大成功した時代の寵児。
(私の婚約者の森田蓮なんかより、格上の相手じゃない。納得いかない)

「なんで、あの白川緋色が日陰なんかと! 勇、あんた二股かけられてたんじゃないの?」

 昨晩、私は自分の部屋に勇を呼んだ。
 勇と寝ることが日陰への嫌がらせになると、未だに考えていたのは私のミス。

「それはないよ。日陰はそういうことはしないタイプだから」

「あんた、何か知っているわね。教えなさい」
「何も知らないよ。婚約パーティーに来るんだから、その時に馴れ初めでも聞いてみたら?」

 勇はこの間まで付き合っていた女が、他の男と結婚したというのに落ち着いている。

(この反応は普通じゃない。勇は私側についたように見せて日陰の味方? 勇が日陰を振ったんじゃないの?)

「陽子お嬢様は、本当に日陰が気になってしょうがないんだな。日陰の病気も陽子お嬢様が何かしたんだったりして」

「私が毒でも盛ったとでも思ってるの? 私の趣味は日陰の苦しむところを見るところよ。死んでしまったら楽しみがなくなるじゃない」

「病気を発症させるような秘密の毒を天下の小笠原家なら持ってんじゃないかなとか、少し思っただけ」

 少し思っただけなんて、嘘だ。

 勇は私が日陰に何かしたのではないかと疑って、病気の話を聞いて直ぐに私に探りを入れようと思ったのだ。

 彼との付き合いは10年近いから、彼にはかなり心を許して色々なことを話してしまった気がする。

(口止めに脅しておく? 余計な刺激をしない方が良い? とりあえず、もう彼に利用価値はなさそうだし距離をとろう)

「勇、私あんたに飽きたわ。もう、帰ってくれる?」
「ご機嫌が治ったくらいの時にまた来るよ」
 私が鋭い目で言うと、勇は服をサッサと着て去っていった。

 日陰が勇と付き合いだして10年以上、裏で勇と関係を持つ事で優越感を得ていた。

 でも、勇は日陰を裏切っているふりをして私から情報を引き出そうとしていただけだ。
 それに、今の今まで気が付かなかったのは私が愚かだった。

(勇のやつ、冴えない地味男のくせに演技が上手いのね)

「勇みたいな小物に何かできるとは思えないわ。とにかく、白川緋色を私のものにしなきゃ。あんな良い男と日陰なんかが一緒になるのは許せない。日陰は豚とでも結婚して、誰からも忘れられて死ねば良いのよ」

 私は日陰を陥れる計画を立てながら、白川緋色に会うべく部屋を出た。

♢♢♢

私はスカーレットホテルグループの本社の受付まで来た。

「白川社長にお会いしたくて、小笠原陽子が来たとお伝え頂けますか?」

「アポイントメントのない方のご来訪はご遠慮頂いております」
 思慮の浅い受付嬢は派遣か何かだろうか。受付は2人もいるのに、2人揃って私が誰だか分かっていない。私が誰か分かっていれば、当然、直ぐにでも社長秘書に連絡を取るはずだ。

「私は小笠原製薬の小笠原陽子よ。今、案内しないとあなたが大変な目にあうと思うけれど」

「少々お待ちください。今、確認します」
 極上の男とも言える白川緋色と、日陰が結婚するのが納得がいかなかった。

 アポイントメントなどなくても、名前を出せば彼に会える確信があった。私は特別な人間だ。

「あの、失礼致しました。只今、社長室までご案内します」
(ほら、やっぱり会ってもらえた)

 社長室に行くと思わず見惚れてしまう程に美しい白川緋色がいた。窓から差し込む光が特別な男を照らしている。精悍な顔立ちに大人の色気がある彼はどこか影がある感じが日陰の初恋の男に似ていた。

「白川社長。ご無沙汰しております。小笠原陽子と申しますが、覚えていらっしゃいますか?」

「以前、パーティーでお会いしましたよね。陽子さんは、妻の日陰と昔から付き合いのある方だと聞きました。今晩の婚約パーティーには日陰と一緒にお祝いに伺わせて頂きますよ」

 白川緋色は日陰から私の話を聞いているようだった。日陰は楽観的で間抜けだから、私の策略には気付いていないだろう。先手必勝で動いていて正解。このまま日陰を地獄に落とす。

「白川社長にまでお祝いして頂けるなんて感激です。本日は友人の日陰のことでどうしてもお耳に入れておきたいことがあって参りました」

 日陰は私のことを彼にどのように話をしたのだろう。

 私にとって日陰は表向き仲良しでも、誰より不幸になって欲しい女。
 でも、日陰が私をどう思っているかは考えたことがなかった。

 勇との関係は彼女が彼と結婚した後に明かして、ショックを与えようと思っていた。

 日陰と彼女の初恋の綾野影一との関係は私が壊したけれど、彼女は恨んでいないと言っていた。

(おめでたい日陰は、まだ私が優しい友人だと勘違いしてくれているかも⋯⋯自分を陥れている女との友情を信じているなんて馬鹿な女)

「白川社長は2年半ほど前に奥様を亡くされたばかりだとお聞きしました。日陰はそういった人の欠けた心に取り入るのが上手な子です。そうやって人に近づいて、心を弄ぶのを楽しむようなところがあるんです。あまり友人を悪くは言いたくないのですが、私はただでさえ辛い思いをした白川社長が騙されるのをみていられなくて⋯⋯」

 言い辛そうな体を保ちながら語り出す私を、無表情でみてくる彼の真意が分からない。

「それから?」

 彼が私の話を聞いてくれそうなので、私はそのまま話を続ける事にした。

「彼女には10年以上付き合っていた川瀬勇という男がいたんですが、最近、彼を一方的に振ったみたいなんです。おそらくお金持ちの白川社長の方が良いと考えたからだと思います。彼女は私たちのような上流階級の人間とは違い、お金に卑しいところがあります。ついこの間まで川瀬君とも関係がありましたよ。きっと白川社長とも交際期間が被っています」

 日陰の情報は探偵を入れて逐一入るようにしていたのに、白川社長との接点は見つからなかった。
「なる程ね⋯⋯」
 白河緋色は少し考え込むような仕草をした。何か思い当たるところがあるのかもしれない。私はそのまま話を続ける事にした。


「もしかして、日陰は妊娠していたりしますか? それで責任をとって結婚を? きっと、その子は白川社長の子じゃないですよ。彼女は男性関係も奔放だったので妊娠しても誰の子か分かりません。そのような女を妻に迎えたら苦労します。今からでも、お別れになった方が社長の為かと思います」


 おそらく彼と彼女が結婚前に会っていたとしても、片手で数えられる程だろう。

 それなのに電撃入籍したということは、日陰が妊娠をした可能性がある。
(白川緋色は、身持ちが堅い日陰のことも落とせそうなくらい良い男だわ)

「川瀬勇と昨晩まで肉体関係があったのは陽子さんの方じゃないんですか? 君が妊娠していても誰の子か分からなそうですね。君が緩いことなんてみんな知っているから、そんなことで森田蓮との婚約はダメになったりしませんよ。人を貶めることばかりに気を取られてないで、まずは自分のことを見つめ直した方が良いですよ」

 白川社長が無表情で淡々と言った言葉に思わず固まる。
(まずい、何とかしないと。こいつも日陰の味方なの? なんで、日陰ばかり)

 私は慌てて思いっきり、自分の着ていたブラウスを引き裂いてストッキングごとパンツをおろして叫んだ。

「きゃああ! 誰か助けてー! 襲われる」
私の叫びと共に警備員と秘書と思われる女性が入ってくる。

「社長、これは一体⋯⋯」
メガネをかけた真面目そうな秘書の女性が真っ青になって、私のパンツを見つめている。

「私、森田食品の森田蓮の婚約者の小笠原陽子です。突然、こんなことを白川社長がされるとは思ってなくて動揺しています。本日の件は私の名誉にも関わることなので伏せておきます。森田食品とスカーレットホテルグループは仕事上の関係もあるでしょうし、今回の件で関係が悪くなるのを私は望んでいません。今晩は私の婚約パーティーがあるんです。今から準備に行かないとなりませんので、これで失礼致します」

 私は思わずほくそ笑みそうな口元を隠しながら、その場を後にした。




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