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13.恋のライバル
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「オスカーに唯一触れられる女の子の権利が欲しい!」
意を決したように告げられたシェリルの言葉に息を呑む。
「シェリル、急にどうしたの?」
「王族の男性は夜伽の座学だけではなく、実技があるって聞いたの」
シェリルのルビー色の瞳が僕だけを縋るように見つめてくる。
「それは、大体どこの国でもある事だよ。跡継ぎを作るのは公務だから」
何気なく言った僕の言葉にシェリルは傷ついた顔をする。泣くのを我慢しているような表情に胸が締め付けられた。
「⋯⋯公務でも他の女にオスカーが触れるのは嫌。こんな我儘を言う私は王子妃に相応しくないよね」
震える唇で告げてくる彼女の言葉に、僕はこの上なく欲情をしそれを隠した。
「カリキュラムだから、座学だけだといざという時にシェリルに痛い思いをさせてしまうかもしれない」
少しドキッとさせようと行為を想像させるような物言いをする。しかし、彼女は予想外に冷めたような視線を向けてきた。
「痛い? 構わないわ。場所を間違えても私は気にしない。そんなものは愛する二人で乗り越えれば良い。愛が子供を作るのよ」
僕はシェリルの純粋さと真っ直ぐさに鳥肌がたった。
(場所を間違えても良い?)
相変わらず思ったことを脳で精査せずに口に出してしまう彼女の無邪気さが愛おしい。
「シェリル、生涯、僕が触れる女は君だけ。君も他の男に触れさせないで」
「もちろんよ」
シェリルとの甘い時間は永遠に浸ってたくなる沼だった。公爵家の後ろ盾を武器に国王である父を屈服させている母とは違う。僕は自らシェリルに屈服し、そんな自分が最高に気持ちよかった。
毎日のように彼女に薔薇をプレゼントし、ことあることに高価なジュエリーを贈る。シェリルは物をねだったりしない。それが余計にプレゼントをしたい欲を掻き立てる。それは彼女の父であるヘッドリー侯爵も同じだったようで、僕と彼はシェリルへのプレゼント合戦を繰り広げていた。
「オスカーがくれた、このピンクルビーのイヤリングに似合うドレスをお父様が買ってくれたの」
王宮に訪れた十五歳になったシェリルが僕の前でクルリと舞う。
「そのイヤリングはピンクルビーじゃなくて、ピンクサファイアだ」
シェリルは自分が見間違ったことに恥ずかしくて俯いた。宝石を間違うことは本物を知らないと言うことで恥である。彼女は常日頃から僕の妻になる王子妃として相応しいように妃教育だけでなく、あらゆる知識を身につけるのに積極的だった。頑張り屋でいじらしい彼女を僕だけが知っている。
「ピンクサファイアの石言葉は『可愛らしい』よね。オスカーは私の事、可愛いと思ってくれている?」
上目遣いで尋ねてくる彼女に堪らない気持ちになった。彼女は歳の割には豊満で色っぽく大人びてみられる。でも、僕にとって彼女は世界一可愛い存在だ。
「当然だよ。僕にとってシェリルは世界の可愛いを集めた集合体にも勝る存在だ」
僕は彼女の十五歳の誕生日と共に解禁された口付けをした。彼女の口内は甘くミルクのような味がする。ピュアな彼女を表現するような甘い赤子のような味に僕は夢中になった。
「オスカー王子殿下、嫁入り前なので少し控えて頂けると助かります」
突如、現実に引き戻してきた彼女の父親ヘッドリー侯爵の声。あまり人気のない王宮の庭だから気を抜いていたが、今日は彼の出勤日だったらしい。
「お父様、お疲れ様!」
僕とのキスの余韻を忘れたように父親に抱きつく彼女。少し勝ち誇った顔をするヘッドリー侯爵。シェリルは十五歳にして身内や王族までも惑わす魔性の女だった。
甘く夢のような日々は突如として終わる。シェリルが急に髪を切って、領地に赴くと言い出した。ふわふわしていた砂糖菓子のような彼女の表情は凛としたものに変わっていた。
彼女は国宝になってもおかしくないようなダイヤモンドの雫を集めたような銀髪をオークションで売り飛ばした。その事実を知り慌てて購入した彼女の髪を使ったウィッグだけを残し、彼女はどんどん遠い存在になっていった。
僕の成人の誕生日。シェリルに会いたくて狂いそうだった僕は珍しく彼女の瞳の色である赤いドレスを自分の礼服とペアで作った。しかし、無惨にもそのドレスを彼女が着ることはなかった。領地から帰ってきた彼女は男を連れていた。フレデリック・バロン、精悍な顔立ちをした十六歳にして色気漂う帝国の皇太子だ。
二人は近寄るのもヤボなくらい仲睦まじく話していた。フレデリックが彼女に贈ったドレスを見て僕は固まった。僕が用意したのと同じ赤いドレス。でも、胸元にはアベラルド帝国では絶対に手の入らないグリーンダイヤモンドがついている。
僕は気がつけば、彼女にそのドレスを着るように言っていた。彼女が舞踏会の準備に消えた後、フレデリックと対峙する。
「用意なさってたドレスがあったでしょうに、シェリルの意向を通してくれてありがとうございます。彼女は遠慮してましてたが、自分に見合うドレスを着たかったはずです」
彼の言葉に顔が引き攣る。まるで帝国の富と国交の広さをひけらかすような物言い。
「せっかく頂いたものですから⋯⋯」
「ふっ、心が広いのですね。男が女にドレスを贈る意味を知らない訳ではありませんでしょうに」
フレデリックの挑戦的な言葉に頭が沸騰する。こんな軽薄な物言いをされるのはバロン帝国からアベラルド王国が舐められている証拠だ。僕はできるだけ落ち着いたトーンで彼に応戦した。
「シェリルは僕以外の男に触れられるのを極端に嫌う子ですから、フレデリック皇太子殿下の要望には応える事はありません」
「甘いミルクのような唇と同じように、体も甘い匂いがしました。オスカー王子殿下も味わった事がありますか?」
彼の言葉に頭が真っ白になる。柔らかなシェリルの唇は甘くて幼い味がする。それは僕だけが知っていると思っていた。シェリルに彼と口付けを交わしたのか問いただしたくて控え室に赴く。ドレスアップした彼女はいつもより大人びて見えて、胸元は記憶よりふくよかで艶やかに見えた。
それが僕ではない男を知ったことによるものかと不安になり、彼女に手を伸ばす。拒否されても、僕に彼女を問い正すことはできない。万が一、フレデリックに惹かれていると言われたら僕は立っていられなくなる。
その日から、シェリルは度々領地に出掛けるようになった。フレデリックが彼女の政策を助けているという。
ある朝、いつも通り各国の新聞を確認しているとバロン帝国のものが見つからなかった。
「今日のバロン帝国の新聞は?」
僕の問いかけに補佐官が固まる。もう一度強く問いかけてくると、彼はおずおずとバロン帝国の新聞を出してきた。
そのトップ記事に、僕は目を疑った。
意を決したように告げられたシェリルの言葉に息を呑む。
「シェリル、急にどうしたの?」
「王族の男性は夜伽の座学だけではなく、実技があるって聞いたの」
シェリルのルビー色の瞳が僕だけを縋るように見つめてくる。
「それは、大体どこの国でもある事だよ。跡継ぎを作るのは公務だから」
何気なく言った僕の言葉にシェリルは傷ついた顔をする。泣くのを我慢しているような表情に胸が締め付けられた。
「⋯⋯公務でも他の女にオスカーが触れるのは嫌。こんな我儘を言う私は王子妃に相応しくないよね」
震える唇で告げてくる彼女の言葉に、僕はこの上なく欲情をしそれを隠した。
「カリキュラムだから、座学だけだといざという時にシェリルに痛い思いをさせてしまうかもしれない」
少しドキッとさせようと行為を想像させるような物言いをする。しかし、彼女は予想外に冷めたような視線を向けてきた。
「痛い? 構わないわ。場所を間違えても私は気にしない。そんなものは愛する二人で乗り越えれば良い。愛が子供を作るのよ」
僕はシェリルの純粋さと真っ直ぐさに鳥肌がたった。
(場所を間違えても良い?)
相変わらず思ったことを脳で精査せずに口に出してしまう彼女の無邪気さが愛おしい。
「シェリル、生涯、僕が触れる女は君だけ。君も他の男に触れさせないで」
「もちろんよ」
シェリルとの甘い時間は永遠に浸ってたくなる沼だった。公爵家の後ろ盾を武器に国王である父を屈服させている母とは違う。僕は自らシェリルに屈服し、そんな自分が最高に気持ちよかった。
毎日のように彼女に薔薇をプレゼントし、ことあることに高価なジュエリーを贈る。シェリルは物をねだったりしない。それが余計にプレゼントをしたい欲を掻き立てる。それは彼女の父であるヘッドリー侯爵も同じだったようで、僕と彼はシェリルへのプレゼント合戦を繰り広げていた。
「オスカーがくれた、このピンクルビーのイヤリングに似合うドレスをお父様が買ってくれたの」
王宮に訪れた十五歳になったシェリルが僕の前でクルリと舞う。
「そのイヤリングはピンクルビーじゃなくて、ピンクサファイアだ」
シェリルは自分が見間違ったことに恥ずかしくて俯いた。宝石を間違うことは本物を知らないと言うことで恥である。彼女は常日頃から僕の妻になる王子妃として相応しいように妃教育だけでなく、あらゆる知識を身につけるのに積極的だった。頑張り屋でいじらしい彼女を僕だけが知っている。
「ピンクサファイアの石言葉は『可愛らしい』よね。オスカーは私の事、可愛いと思ってくれている?」
上目遣いで尋ねてくる彼女に堪らない気持ちになった。彼女は歳の割には豊満で色っぽく大人びてみられる。でも、僕にとって彼女は世界一可愛い存在だ。
「当然だよ。僕にとってシェリルは世界の可愛いを集めた集合体にも勝る存在だ」
僕は彼女の十五歳の誕生日と共に解禁された口付けをした。彼女の口内は甘くミルクのような味がする。ピュアな彼女を表現するような甘い赤子のような味に僕は夢中になった。
「オスカー王子殿下、嫁入り前なので少し控えて頂けると助かります」
突如、現実に引き戻してきた彼女の父親ヘッドリー侯爵の声。あまり人気のない王宮の庭だから気を抜いていたが、今日は彼の出勤日だったらしい。
「お父様、お疲れ様!」
僕とのキスの余韻を忘れたように父親に抱きつく彼女。少し勝ち誇った顔をするヘッドリー侯爵。シェリルは十五歳にして身内や王族までも惑わす魔性の女だった。
甘く夢のような日々は突如として終わる。シェリルが急に髪を切って、領地に赴くと言い出した。ふわふわしていた砂糖菓子のような彼女の表情は凛としたものに変わっていた。
彼女は国宝になってもおかしくないようなダイヤモンドの雫を集めたような銀髪をオークションで売り飛ばした。その事実を知り慌てて購入した彼女の髪を使ったウィッグだけを残し、彼女はどんどん遠い存在になっていった。
僕の成人の誕生日。シェリルに会いたくて狂いそうだった僕は珍しく彼女の瞳の色である赤いドレスを自分の礼服とペアで作った。しかし、無惨にもそのドレスを彼女が着ることはなかった。領地から帰ってきた彼女は男を連れていた。フレデリック・バロン、精悍な顔立ちをした十六歳にして色気漂う帝国の皇太子だ。
二人は近寄るのもヤボなくらい仲睦まじく話していた。フレデリックが彼女に贈ったドレスを見て僕は固まった。僕が用意したのと同じ赤いドレス。でも、胸元にはアベラルド帝国では絶対に手の入らないグリーンダイヤモンドがついている。
僕は気がつけば、彼女にそのドレスを着るように言っていた。彼女が舞踏会の準備に消えた後、フレデリックと対峙する。
「用意なさってたドレスがあったでしょうに、シェリルの意向を通してくれてありがとうございます。彼女は遠慮してましてたが、自分に見合うドレスを着たかったはずです」
彼の言葉に顔が引き攣る。まるで帝国の富と国交の広さをひけらかすような物言い。
「せっかく頂いたものですから⋯⋯」
「ふっ、心が広いのですね。男が女にドレスを贈る意味を知らない訳ではありませんでしょうに」
フレデリックの挑戦的な言葉に頭が沸騰する。こんな軽薄な物言いをされるのはバロン帝国からアベラルド王国が舐められている証拠だ。僕はできるだけ落ち着いたトーンで彼に応戦した。
「シェリルは僕以外の男に触れられるのを極端に嫌う子ですから、フレデリック皇太子殿下の要望には応える事はありません」
「甘いミルクのような唇と同じように、体も甘い匂いがしました。オスカー王子殿下も味わった事がありますか?」
彼の言葉に頭が真っ白になる。柔らかなシェリルの唇は甘くて幼い味がする。それは僕だけが知っていると思っていた。シェリルに彼と口付けを交わしたのか問いただしたくて控え室に赴く。ドレスアップした彼女はいつもより大人びて見えて、胸元は記憶よりふくよかで艶やかに見えた。
それが僕ではない男を知ったことによるものかと不安になり、彼女に手を伸ばす。拒否されても、僕に彼女を問い正すことはできない。万が一、フレデリックに惹かれていると言われたら僕は立っていられなくなる。
その日から、シェリルは度々領地に出掛けるようになった。フレデリックが彼女の政策を助けているという。
ある朝、いつも通り各国の新聞を確認しているとバロン帝国のものが見つからなかった。
「今日のバロン帝国の新聞は?」
僕の問いかけに補佐官が固まる。もう一度強く問いかけてくると、彼はおずおずとバロン帝国の新聞を出してきた。
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