贅沢悪女と断罪された私が、ドレスを脱いだら最強妃になりました。

専業プウタ

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14.不安と企みの足音

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「フレデリック皇太子のお相手予想ランキング一位がシェリル?」
「オスカー王子殿下、バロン帝国での新聞は我が国とは違いゴシップ的なものでして、内容の信頼性ではなく娯楽的要素が強いかと思われます」

補佐官が苦悶の表情で取り繕っているが、これ程に舐めた話があるだろうか。
公的にもシェリルは僕の婚約者だ。新聞にはシェリルとフレデリックが仲睦まじく田植えをしている絵が描かれている。

兄たちを蹴落として立太子したフレデリックは冷血皇太子と呼ばれている。貧しい隣国でのボランティア活動は彼のイメージアップに繋がるだろう。それに、シェリルが利用されているのが我慢ならない。

最悪な気分の時に、僕は最低最悪な女と引き合わされた。モヤモヤした気持ちで自室で眠れぬ夜を過ごしていた時だった。寝室をノックする音と共に見知らぬ女性が現れる。空色の髪にアクアマリンの瞳をした女には見覚えがなかった。白いシンプルな飾りのないドレスを着ているこの女が王宮の奥の僕の部屋まで案内されたのはどういう要件だろうか。

「オスカー・アベラルド王子殿下に、カロリーヌ・ダミエがお目に掛かります」

片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げカーテシーの挨拶をするが一目で洗練されてないのが分かる。シェリルは僕の前では砕ける事はあっても、誰よりも優雅な貴族令嬢だ。それは僕の隣に立つ女として彼女が妃教育に打ち込んだ結果。心配になるくらい猪突猛進なシェリルと比べると、他の女が計算高く小手先で生きている醜い生き物に感じる。

「こんな非常識な時間に何のようだ?」
「エレーヌ王妃殿下からのご命令で、オスカー王子殿下の夜伽の実技練習に参りました」

ここまで彼女が案内された理由を理解する。カリキュラムにある夜伽の実技に関して僕が拒否した事に母は顔を顰めた。シェリルに対し子ができるのか分からないのに傲慢だと非難した。実際、母は子宝になかなか恵まれなくて苦しんだ。側室を娶らないという約束を父は守ったが、僕は原因は父にあるのではないかと考えていた。

アベラルド王家はいつも跡継ぎ問題に揉めていた。祖父にい当たる先代国王は子がなかなかできなくて、貴族に言われるがままに側室を二十八人も持った。それでやっとできた子はたったの二人だ。皆、薄々王族の男側に原因があると思っていても指摘する事はできない。それ故に嫁いだ女側が責められるのは通例のようになっていた。

「夜伽の練習はしない事にすでに決まっているはずだ」
シェリルが嫌がっているのに、敢えて練習する必要はない。万が一子供ができなくても、跡継ぎなど養子を連れてくれば何とでもなる。

カロリーヌは僕を撫でるように触れてきた。瞬間、蛇が体をつたうような気持ち悪さを感じる。

「やめろ、勝手に僕に触れるなど無礼極まりない。ここで切り捨てられたいのか」
「オスカー王子殿下、こんなに女性を大切にされるなんて本当に素敵です。私、夫を亡くして寂しいです。避妊薬は飲んでいます。ここは私に身を任せてください」

彼女はサッとスカートの中から小瓶を出し中の液体を一気に飲み干すと、僕に深く口付けをしてきた。何かを喉の奥に流し込まれ意識が遠のいていった。

朝起きると、僕は何も身につけていない状態でベッドに寝ていた。昨晩のアレは何だったのだろう。嫌な記憶を消し去りたかったが、僕は母上を問い詰めに行く事にした。

国王である父とは既に冷め切った関係になっていて、離宮に籠っている母エレーヌ。彼女は僕を見ると悪びれもせず、事の顛末を語り出した。

母には僕がシェリルの言いなりになっているように見えたらしい。その状態は対外的にも好ましくなく、未亡人で縁戚であるカロリーヌに夜伽の実技を依頼したとの事だった。

「なぜ、そのような事を? あの女は僕に何か薬を盛りましたよ。まともな女ではありません」
「⋯⋯薬?」

アベラルド王国で最も力を持つ公爵家の娘だった母。世の中には野心家で自分の目的のならば手段を選ばない女が存在することを知らない。僕は母の手が震えているのに気が付いた。母は僕の為に自分なりに動いただけ。これ以上、責める気はない。何だか不安な終わりに嫌な予感はあったが、僕はそれに目を向けずに日々を過ごした。

シェリルが僕よりもフレデリックを頼りにしているのは身に染みて感じた。それでも、彼女を咎める事はできなかった。彼女を好きになり過ぎてて、避難すると離れていきそうで怖かった。

そうして僕は運命の日を迎える。八年間の思いを遂げる瞬間だ。シェリルが十八歳で成人する彼女の誕生日、11月25日に僕たちは結婚式をした。

待ち侘びた彼女との結婚式、予想外の来客が僕の心をざわつかせた。
純白のタキシードに着替え、控え室のシェリルに会いに行こうと思った時だった。

補佐官が勢いよく扉を開ける。

「カロリーヌ・ダミエ男爵令嬢が、オスカー王子殿下の子を妊娠したと城門にいらしています」

一瞬、頭の中が真っ白になった。これから、諸国から大勢の要人を招いた結婚式だというのに何が起こっているというのだろうか。

アベラルド王宮の外れにある紫陽花の館。先代国王が愛人をすまわせた場所に彼女を案内するように指示し、僕は彼女と話をする事にした。ボテッとした大きなお腹を抱えたカロリーヌは勝ち誇ったように僕を見つめる。

本当に世の中には気持ち悪い女ばかりだ。早く愛するシェリルの元に戻りたいと思いながらも僕は彼女と対峙した。

ベッドに横たわった彼女は大きなお腹を撫でながら、不敵に微笑み口を開く。

「お腹の中にオスカー王子殿下の子がいます。今、臨月です」
「何を言ってるんだ?」

僕は困惑していた。きっと僕は子供が出来辛い体質で、薬を盛られて何かされたとしてもその一回で子供が出来たとは考え辛い。

「子が生まれたら直ぐに血縁検査をする。もし、僕の子でなかったら君と子を処罰する。子が僕の子なら子だけは命を助けよう」

僕の言葉に彼女は目を見開きながらポロポロと涙を溢した。

『涙は女の武器』とは女の勘違いだ。涙を見るとそのあざとさにゾッとする。シェリルが僕の前で泣いた事はない。貴族令嬢が涙を見せるのは恥だと知っているからだ。か弱くピュアな彼女が、僕の為に強くあろうとしている姿が僕には堪らなく愛おしかった。

紫陽花の館を後にしながら僕の頭は不安でいっぱいになった。シェリルにカロリーヌの存在が知られたら全てが終わる。僕は異常過ぎるくらい丁寧にシェリルとの関係を築いてきた。彼女と触れ合う中で彼女が一番大切にしているものは知っていた。

それは信頼だ。

彼女の十四歳の時に他の女性に触れない約束をした。その約束をたがった瞬間、全てが終わる気がして身震いがした。

そして、僕は愛する人と運命の瞬間を迎える。
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