贅沢悪女と断罪された私が、ドレスを脱いだら最強妃になりました。

専業プウタ

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19.予想外の裏切り者

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馬車に戻り、弱っているユリシスを横たわらせ私とフレデリックは進行方向を向くように並んで座る。

「ユリシス、どこで魔法の使い方を学んだんだ?」

フレデリックの問いかけに、ユリシスが目を開けてこちらを睨みつける。私はそっと彼の瞼に触れて目を閉じるように促した。演技のできない彼はフレデリックへの反発心が瞳に出てしまっている。ただでさえ、魔法が使えた事で警戒されているのだから、気をつけるべきだ。

「フレデリック、そのような話は後にしましょ。それよりも、貴方は私に何か言いたいことがあったのではないですか?」
全てのストーリーを描き、駒のように人を動かしてきた眼前の男。彼ががどのような臭い台詞で私を騙そうとするのかが気になった。

「シェリル」
フレデリックは私の頬に手を添えて、目線を合わせてくる。私は少し戸惑ったように斜め下に目線を落としてみた。目には目を歯には歯を、裏切りには裏切りを。私を盗聴し騙して駒として動かそうとした彼には同程度の報復が必要だ。

「フレデリック、どうしたの? 私と貴方は友人よ」
「友人のフリなんてできない。出会った頃から私は君が好きだった」
フレデリックはまた嘘をついた。出会った頃、彼は私を全く好きではない。明らかに利用してやろうというという下心は見え隠れしていた。それに薄々気付きながらも彼の権力に縋ったのは私の失敗。

私はそっと横たわるユリシスを覗き見た。

失敗したら、自分を明け渡して時を戻す? 赤の他人の為に?

そんな事はしたくないし、私には出来ないだろう。だから、私は失敗に気が付いたら、速攻軌道修正する。
「シェリル、私に集中してくれ。君はユリシスに特別な感情を抱いていないか?」
フレデリックの視線が鋭くなる。彼は唯一の跡取りとしてのんびり過ごして来たオスカーとは全く違う。人の視線、心の機微に常に注力を払い、皇権に手を伸ばしてきた男だ。

ユリシスに抱いている未知の感情の正体は実は少し心当たりがある。「憧れ」
や「尊敬」と呼ばれるような感情だ。私より歳下で何も持たないスラム街出身の男の子。

フレデリックの筋書きがあったとはいえ、彼は民衆を熱狂させ革命を起こした。皆の希望になれる人間。そして、皆の為に自分を捨てられる人間。『幸福の王子』は作り話だけど、本当にそんな愚かで尊い人間が存在する。自分には絶対にできない事をしてしまう彼に憧れないはずがない。

私は深呼吸をし神経を研ぎ澄まさせ、フレデリックに集中することにした。私はユリシスになれないけれど、私は私の得意分野がある。私にできる事で私は自分の目的を達成する。

「まさか。ただ、後悔をしている男の人って色っぽいなと思っていただけですわ」
「後悔?」
フレデリックの心に波風を立てる。彼は少し考えるように斜め上を見た後、私をじっと見つめて口を開いた。

「後悔をしないように、今、ここで自分の気持ちを伝えようと思う。私は君をたった一人の妃として迎えたいと思っている」

私は目を瞬いて驚いたフリをする。私の目元にフレデリックが笑いながら手を翳した。
「君の瞳からレッドダイヤモンドが溢れそうだ」

思わず鼻で笑いそうになってしまった。同じネタは私なら二回は使わない。彼は私を頭の悪い子だと思っているのだろう。確かに私は馬鹿なふりをしたり愚かなところもあるけれど、舐められるのは嫌いだ。レッドダイヤモンドの石言葉は『挑戦』。この自信に溢れた歴戦を乗り越えた男に私も挑戦してみる。

───まぁ、私が彼を好きになる事はないだろうけど。

時は遡り八年前。私はある夜、仲睦まじいヘッドリー夫婦の寝室の前を通ったとき、興味深い会話を聞いた。

『アンリエット、シェリルがオスカー王太子殿下の婚約者候補になってる』
『まあ、難しいでしょうね。エレーヌ王妃は縁戚関係にあるレイラ嬢を推すでしょうし』
『国王陛下は我々貴族派ではなく、王族派の令嬢をオスカー王太子の婚約者に据えたいと考えているようだしな』

二人の期待含みの諦めムードの会話。私は二人は何も分かっていないと思った。通常なら、王族も貴族も親が婚約者を決める。でも、今のアベラルド王家は例外だ。高齢の国王にとってやっと授かった跡継ぎ、長きに渡り石女と陰口を言われた王妃にとって周囲を黙らせた存在。オスカーはあの夫婦にとって、いるだけで感謝しかない存在。婚約者の決定権がオスカーにあるのは明白。

綺麗な金髪に、伏せたまつ毛に彩られた憂いのある瞳が美しいオスカー・阿部ラルド。ルックスは好みだけれど、オスカーの傲慢な性格が嫌いだった。

(まあ、でも十二歳なら何とでもなりそうね)

性格など私好みに変えて仕舞えば、好きになれるかもしれない。私は取り敢えず両親が白旗を掲げている戦いに挑戦してみることにした。

オスカーは生まれながらに国王になる事が決まっている男の子。皆に気を遣われ傲慢になっている。令嬢たちは彼の気を引くことに必死。

まずは、周りの子とは違う大胆な言動で彼の気を引く。そして、他の男(レナルド、乳児)の影をちらつかせる。

案の定、釣れた彼は夕刻、再び侯爵邸を訪れた。手のひらに母の頬紅をつけて、彼の前に現れる。貴族令嬢として控えめな自分を演出。恥ずかしがり、顔を隠した隙に頬紅を頬に塗る。控えめで恥ずかしがり屋なのに、自分の前だけで大胆になってくれるような女の子に彼は控え始めた。私はオスカーが次期国王として誰にも砕けた姿を見せれない孤独を感じていたことに気が付いていた。

私はめでたくオスカーの婚約者になることに成功。
私の好みの性格に彼を育てるのに二年掛かった。「自分だけを溺愛するシェリルファーストな男」に彼が仕上がる頃には私は彼に恋に落ちていた。

───そして、今、目の前にいる十八歳の帝国の皇太子。彼を好きになる事は無理だろうから、私を利用した仕返しに翻弄して利用して捨てる事にする。

「たった一人の妃?」
私が不思議そうに尋ねると、フレデリックは得意げに頷いた。

その時、トントンと馬車の扉を叩かれる。窓の外には信じ難い人物がいた。
藍色の髪を振り乱し、滝汗をかきながら馬を走らせて来たその人物はアベラルド王国の近衛騎士団長のランスロットだ。フレデリックは御者に合図し馬車を止めると、「少し待ってて」と私に断り外に出て彼と会話をし始めた。

(嘘でしょ。ランスロットが裏切ってたの?)

近衛騎士団長ランスロット・オベール。アベラルド王国の建国からの忠臣オベール侯爵家の次男として生まれた男。彼はオスカーが生まれた時から近衛騎士団長を務めていて、オスカーは彼を父親のように頼りにし慕っていた。
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