10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ

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2.不可解な男

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 城ヶ崎さんの手が胸に触れてきたので、流石にこの状況はおかしいと判断できた。

「やめてください。こんなのセクハラ⋯⋯カスハラです!」
 私が彼の手を引っ叩くと、彼は驚いた顔で目を丸くした。

「そんな事初めて言われたわ。俺、女に拒否されるの初めて」
「診察ではないんですね。最低です。私はここで失礼します」
 さっさと上着を着て去ろうとすると手首を掴まれた。

 私は掴まれていない方の左手でポケットに入れているスマホを操作する。
「警察ですか? 今、男性に部屋に連れ込まれ襲われ掛けています。住所は⋯⋯」

 私が110番通報しているのを、城ヶ崎さんは笑いを堪えるように見ていた。
 私は電話を切ると、彼を威嚇するように睨みつける。
「何がおかしいのですか? 貴方が何の職業をしている方か存じ上げませんが、今から貴方は全てを失うのですよ」
「何で?」
「私が今、警察を呼んだのを見てましたのよね?」
 私は彼がなぜ余裕をかましているのかが全く理解できない。


「城ヶ崎さん⋯⋯もしかして、警視総監の息子とかですか?」
「ふっ、何言って⋯⋯もう、余興は良いかな」
 彼は心底楽しそうに私を抱き寄せキスしてきた。
 身を捩って逃げようとするも、しっかりとホールドされてしまい逃げ出せない。

ピンポーン!

ピンポーン! ピンポーン!
 インターホンがなったのを彼は最初は無視していたが、何度も鳴らされ堪忍したようにインターホンに出た。


「えっ? 警察?」
 インターホンの液晶画面を見た城ヶ崎が怪訝な表情をしている。

「私、さっき警察を呼んだと言いましたよね?」

 城ヶ崎さんは信じられないというような驚愕の表情を浮かべながら扉を開けた。すると2人の若い警察官が仰々しい制服を着てそこに立っていた。

「港区警察の者です。こちらから女性が襲われているという通報を受けて駆けつけました」
「はい! 私が通報者です。こんなに早く来て頂きありがとうございます」
 
 私の上から下までを舐めるように警察官が見る。
 引越し業者の制服を着た女性が襲われているという状況がレアケースなのだろう。


「私は今日、この部屋の引っ越しのバイトに来た桜田未来と申します。業務終了後、置き去りにされ部屋の所有者である城ヶ崎冬馬に襲われました。さっきまで上半身に着ていた服を脱がされていたんです」

 警察官2人が顔を見合わせた。
 恐らく滅多にない状況なのだろう。

「痴話喧嘩に付き合わせてしまい申し訳ございません。私、こういうものです」
 城ヶ崎さんが警察官にいつの間にか名刺を差し出していた。
 その名刺を見た途端、警察官がまた顔を見合わせた。

「城ヶ崎様⋯⋯あのご事情を伺っても宜しいでしょうか?」
 婦女暴行の容疑者である城ヶ崎冬馬を「様」付けした警察官に私は驚愕した。
(何だろう⋯⋯本当に警視総監の息子とか?)

「彼女は俺の恋人です。ただ、彼女が社会勉強がしたいと言い出して、止めたのに引越しのバイトをしていたんです。その過程で彼女が危ない目に遭ったので喧嘩になってしまって⋯⋯」
 城ヶ崎さんが柔和な表情で落ち着いた声で答えている。
 ここにも澤田のように淡々と嘘を吐ける人間がいた。
 警察官が彼に向き直り頷きながら真剣に耳を傾けている。


「私、彼の恋人なんかではありません。今日、初めて会いました。ファーストキスなのに舌を入れてきたんですよ。犯罪ですよね」
 私は真剣に言ったつもりだったが、警察官2人はなぜか吹き出していた。

「すみません。彼女、本当に可愛いでしょ。でも、こんな可愛い彼女に乱暴をした男がいるんです。ソプラノ引越しセンターの澤田優斗という人物です。彼女に暴行を加えていたのを僕も目撃しました。胸と腹に内出血の跡があります」

 城ヶ崎は悲痛な表情を浮かべながら淡々と語り出した。

「あ⋯⋯はい、痛かったです」
 私は澤田に殴られて悔しかった気持ちを思い出し、思わず涙を堪えながら上着をめくった。
 そこにある内出血の跡を見て、警察官が息を呑んだのが分かる。

「こら! 未来の体を見て良いのは俺だけだから⋯⋯他の男に見せないで⋯⋯俺だけのものだから」
 まるで恋人のように城ヶ崎は私の額に口付けをして、私がめくった上着を下げさせた。

 なぜだかその後は私がソプラノ引っ越しセンターの澤田優斗に対して被害届を出す事になり、城ヶ崎さんは私に恋人のように警察署まで付き添っていた。

 無事、被害届が受理され港区警察を出る。
 思ったよりも時間が掛かって、外はもう夕暮れ時になっていた。

「あっ、あの今日はありがとうございます。照明は大丈夫ですか? 世界に1つしかないお高いものなんですよね? 私にも破損の責任がある気がするので、少しでも弁償できれば⋯⋯」
 私が城ヶ崎さんに頭を下げながらお礼を言うと、なぜか爆笑された。

「あんたバカだなー。何、御礼なんて言っちゃってるの? 照明がオーダーメイドだって本当に信じてるんだ。普通の日本の家電メーカーのものに決まってるじゃん」
 私をバカにしたように笑う彼は何がしたいんだろう。

「私は、馬鹿ですよ。中卒で定職にもついていませんし。城ヶ崎さんは偉い方なのかもしれないけど、人を小馬鹿にして楽しむ最低の方ですね」
 感情が昂ぶり涙が迫り上がって来るのが分かる。外の世界には意地悪な人ばかりだ。私は涙を見られないように彼に背を向けた。

 その時、髪がボサボサでメイクはボロボロだが、元は綺麗そうなモデル体型の女性が目の前に現れた。
「冬馬、やっと見つけた⋯⋯東京中を探したんだよ。どうして、連絡を無視するの?」
「笹倉絵馬⋯⋯接近禁止命令は出てるはずだけど? ちょうど警察署の前だから捕まっていく?」
 冷ややかな城ヶ崎さんの言葉を聞いて、笹倉さんの顔色が変わりバッグの中から光るものを出したのが見えた。

「私だけのものにならないなら、死んでー!」
「あっ! 危ない!」
 笹倉絵馬さんが城ヶ崎さんに向かい刃物を持ち突進してきたので、私は咄嗟に彼を庇った。
 背中に鈍い痛みが走る。遠のく意識の中で、私は本当は温かい家庭を持ち、お母さんみたいな優しい母親になりたかった事を思い出していた。
 
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