10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました

専業プウタ

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9.結婚する気ある?(冬馬視点)

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「冬馬さん、私、もう怪我が治っているので自分で歩けますよ。食事の続きをしましょう」

 かなりいいムードだったはずなのに、未来は既に冷静になっていた。
 食事の続きじゃなくて、ラブシーンの続きがしたかったが我慢する。
 おそらく結婚まで我慢できるのは、一生分の女を抱いてきた俺くらいだと自分を慰めた。
 
 席につくと、彼女はこれからの人生計画を語り出した。

「高卒認定試験を受けようと思ってます」
「受かったら、春から大学に通うのはどうかな?」
 俺は親がなんと言おうと、彼女と結婚するつもりだ。俺の妻になるとパーティーやら奥様会に出席する必要がある。そこでは当然学歴マウントをとってくる人間がいるから、未来が嫌な思いをしない為にも大学は卒業しておいたほうが良いと思った。彼女は敏腕社長と才女の子で地頭は良いだろうから受験は問題ないだろう。

「大学ですか? お金が掛かるから考えていなかったです」
「学費なんて俺が出すよ。できれば女子大にして欲しいかな。インカレとかも入らないで欲しい」
 自分がこんな気持ちの悪い束縛男だとは思わなかった。自分で言っていて彼女に引かれないか心配になる。

「流石に大学の費用を冬馬さんにお願いするのは申し訳ないです」
「なんで? 俺たち結婚するんだよ。行きたい学部とかないの?」
「もし、大学に通うなら、法学部に行きたいです」
 迷いのない彼女の瞳から目が離せなくなる。

「法律に興味があるの?」
「私、検事になりたいと思ってます」

 一瞬、頭の中に沢山「?マーク」が浮かんだ。彼女は俺と結婚すると言ってくれたはずなのに検事になりたいと言っている。

「なんで、検事になりたいのかな?」
 検事の知り合いがいるが、2年に1回くらいの頻度で転勤している。彼女が俺との将来を実は想像してないのではないかと不安になった。

「人を騙したりする悪い人間に相応の罰を与えたいんです。子供っぽい理由ですよね」
 彼女の言葉に心臓が止まりそうになる。

「人を騙すのは良くないよね⋯⋯」
 俺が消え入りそうになりながら吐いた言葉に頷くと彼女は続けた。

「やはり、一刻も早く働きたいので大学進学ではなく予備試験を受けようかと思います。合格すれば司法試験の受験資格が得られるので」

 俺は自分の妻が働いているのを想像できなかった。実際、俺の母も祖母も曽祖母も所謂専業主婦だ。俺は彼女との間に大きな価値観の違いを感じていた。

「やっぱり、ズルいですよね⋯⋯」
 彼女が小さく呟くのを俺は聞き逃さなかった。
 ひゅっと心臓に冷たい空気が入ったような感覚に陥る。

「未来、何か思い出したんじゃ?」
「すみません、冬馬さんの事は何も思い出せてません」
 彼女が申し訳なさそうに謝ってくるのをみて、ホッとしている自分が嫌いになりそうだ。

「冬馬さん、実は私、今、脳が普通の状態じゃないんです」

 彼女は自分の脳が瞬間的に物事を記憶して理解できる状態にある事を教えてくれた。その特別な状態で受験するのをズルいと考えるのが如何にも彼女らしい。

「新しい事はどんどん記憶できるのに、冬馬さんの事を思い出せないんです。辛い思いをさせてしまい申し訳ありません」
「過去のことは、一生思い出さなくても俺は構わないよ。新しく思い出を作って行けば良いって言ったでしょ」

 罪悪感に苛まれながら、俺はテーブルに置いたままになっている指輪を彼女の左手の薬指にはめる。彼女が頬を染めながら微笑みかけてきて、価値観が違くても嘘を一生つき続けてでも一緒にいたいと思った。

「未来、来週あたりに俺の両親に会って欲しい」
 俺の突然の申し出に驚いたのか彼女は目を丸くした。俺は彼女が記憶を取り戻しても、俺から逃げられないよう外堀から埋める事にした。

「えっ、ご両親にですか? 私、なんかで大丈夫でしょうか⋯⋯気に入って貰える自信がないです」
「大丈夫だから、そんな今から緊張した顔をしないで。未来はこの俺が惚れた女の子なんだから、もっと自信を持ってよ」
 こわばっている彼女を宥めるように声をかける。
 
 うちの親はフラフラしてた俺が落ち着くとなれば、喜んで彼女を歓迎するだろう。しかしながら、結婚する前に彼女の身元を探られるのは、できれば避けたい。『小山内進の隠し子』であると分かれば、色々面倒だと難色を示すのは分かりきっている。もし、そのような事になっても、俺は彼女以外の女と結婚するつもりはない。

 考え事をしていたら、彼女が食器を片付け始めていた。
「ご馳走様。今日も、すごく美味しかった。片付けは俺がやるよ。この後、どこか行きたいところある? ドライブとかネズミーランドとか⋯⋯」
 
 カシャン。
 お皿が落ちる音がする。
「すみません。冬馬さん⋯⋯私⋯⋯」

 ゆっくりと振り向いた彼女が、割れた皿を拾おうとする。
 明らかに目が虚ろで先程の溌剌とした感じがない。

「割れた皿なんて俺が片付けるから!」
 そう言って彼女に手を伸ばそうとした瞬間、彼女は倒れて意識を手放した。
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