聖女リオノーラの反逆〜千年の恋のためクズ夫を寝取ってください〜

専業プウタ

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8.聖女様万歳!

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振り返った先にいたのは、白髪の老婦人と藍色の髪をした小さな女の子。
私は膝をつき、口元に人差し指を当てながら小さな女の子に話し掛けた。

「ふふっ、初めまして。可愛いお姫様。私は聖女リオノーラよ。お披露目は後でだから、私の正体は秘密ね」
「リオノーラ様。お母様を治療して!」

悲痛のような叫びをあげる女の子。
治癒の力のある光の魔力を持っている人間が、アントワーヌ帝国には沢山いるはずだ。
私は女の子の隣にいる老婦人の顔を見た。

「アントワーヌ帝国で魔力があるのは主に貴族です。彼らが平民である私たちを助けてくれる事はありません」
私は老婦人の言葉に絶句した。

このアントワーヌ帝国は私の愛する男が3年前から治めている。

クレイグは元々集落の長の子。
困っている人がいたら直ぐに手を差し伸べる彼は、私と出会った幼い頃から既に王の器を感じさせた。

地位がなくても、皆がクレイグを心から頼っていた。
彼はなるべくして導かれるように初代ペルケノン王になった。
私は彼をいるべき場所に連れていき、愛し、側にいただけ。

私たちが築いたペルケノン王国は始まりは王政だったが、来年からは皆が話し合ってすべてを決めていくという共和政をとるらしい。それは、皆が豊かな社会を築きたいという私とクレイグの想いを、子孫が受け取り自分たちなりに考え辿り着いた結果。

「アントワーヌ帝国は変わります。現皇帝であるシリル・アントワーヌを信じてください」
私の言葉が綺麗事に届いたのか、老婦人は俯いてしまった。

「帝国の事なんてどうでも良いよ! お母様を治して」
子供は本当に正直だ。だから、私は子供が好き。

人は大人になる程に、心の内とは違う言葉を吐くようになる。
私はふと私を慕うような言葉を吐いては、影で陥れようと暗躍するセリアを思い出した。
(ダメだ⋯⋯心に闇がかかってきた)

目の前の天使のような可愛い子に目をむける。

「可愛らしい藍色の髪、そのピンク色の瞳はお婆様とお揃いね。お名前は?」
「シェリルよ。ねえ、お母様を治して」

「すみません、聖女様。シェリル! もうやめて! ここで死ぬのはミランダの天命なの! 医師も薬師も原因は分からない、手の施しようがないって話している。天国でミランダをお父様が呼んでるのよ。寂しくても我慢しなさい。元気なミランダには、貴方もやがて導かれる天国で会えるわ」

老婦人は頭を下げながら、シェリルの口を手で塞いだ。彼女は特別扱いができない聖女の立場も理解している。

「シェリル、私が聖女リオノーラと気づいてしまったのね。お披露目まで秘密にしていられる? 秘密にしていられたら、貴方のお母様を式典の後、真っ先に救いにいくわよ」
「できるよ! 私、絶対に秘密にする!」
シェリルは目を輝かせた。

キラキラ光る光の粒子がシェリルから溢れ出る。
その粒子が私の心に霧のように掛かっていた闇を追い払ってくれた。

「よし、じゃあ約束よ」
シェリルにの小さな手に軽く手を合わせる。
老婦人は動揺していた。

「聖女様、流石にミランダだけを特別扱いして頂くわけには⋯⋯」
消え入りそうな小さな声に、私は首を振る。

「これからは、特別を特別ではなくするわ。貴方が気に止む事はない。お住まいはどちらなの?」
「バルテッロ村です⋯⋯」
老婦人は私の言葉に涙ぐみながら何度も頭を下げていた。

木にも虫にもなったというシリル。
今、大帝国の皇帝になった彼は昔とは変わってしまったのかもしれない。
私の方に歩いてくるシリルが見える。
皆が手を胸に当て、頭を15度くらい下げる。

「時間だ」
目の前の彼は間違いなく大帝国を統べる皇帝の顔をしていた。
私は彼の手をとり、人々が集まる中央広場を抜けて皇宮のバルコニーに立った。
沢山の畏怖と尊敬の念の籠った幾つもの目玉が、こちらを見ている。

「皇帝陛下万歳! 皇帝陛下万歳!」
シリルの姿を確認するなり、大合唱を始めた民衆。
彼が右手をそっと翳したのを合図に訪れる沈黙。

「第53代皇帝、シリル・アントワーヌだ。今日は隣国より大切なお客様をお招きしている。紹介しよう、親愛なる聖女リオノーラ・ベルナールだ」

シリルの元々通る声が広場の群衆に響き渡る。
バルコニーには拡声魔法道具のようなものが置かれていた。

私はシリルにアイコンタクトをとり、一歩前に出た。

「アントワーヌ帝国の皆様、只今、皇帝陛下よりご紹介に預かりました。聖女リオノーラでございます。まずは、私流のご挨拶からさせてください」

私はそっと手を空に掲げる。
私の体内の粒子と空中に舞う光の粒子が混ざり合うような感覚。それを此処に集まった民衆に力の限り注ぎ込む。

種から芽が出て、育ち、蕾をつけ一気に花が咲く。
赤、黄色、青、白、紫、開かれた花びらが、風に舞う。
一気に華やぐ世界と、希望と驚きに満ちた表情をする人々。

「は、花が!」
「えっ? この季節にマーガレット?」
「俺のは薔薇だ! 当たりだな」
「何だか、体が軽くなった気がする」
「き、綺麗! 奇跡だ」

光の魔力は人を治癒する力がある。聖女の力は、この世の生きとし生ける植物にも生命力を与えることができる。

「マーガレットは信頼、黄色い薔薇は友情、パンジーには貴方のことを考えているといった花言葉があります。私たちが今ここに一緒にいる事にも意味があります」

私の言葉に一斉に皆が期待の目を向けてきた。
私はシリルの方を向き、アントワーヌ帝国の人々がしていたように胸に手をあて軽くお辞儀をする。

シリルは少し驚いたように目を丸くした。

「アントワーヌ帝国の皇帝陛下に、親愛を込めまして」
私は袖の下に隠していた種に生命力を与え、ブーゲンビリアの花を咲かす。
紫色はクレイグの瞳の色。
烏滸がましくも花言葉は「永遠の愛」。

私の行動が予想外なのか、シリルが無言で花を受け取っているのが楽しい。
威圧感があって怖かった彼が、私の知っている彼に戻っていくようだ。

「アントワーヌ帝国の皆様、アントワーヌ帝国とベルナール王国は友好国となりました。私は今後2週間、アントワーヌ帝国に滞在します。本日から皆様の住む街にご挨拶に伺わせてください」

シリルが口の動きで、「いつ、友好国に?」と私に伝えてくるが無視する。

「今日は早速、バルテッロ村に向かいます。そこから、基本時計回りにみなさんの街を回ります。私の力が必要な人は領主、または村長までお知らせください」

群衆が一斉に沸き立つ。

「聖女様万歳! 聖女様万歳!」
私は群衆に向かい胸に手を当て、軽くお辞儀をして皇宮の中に入った。

廊下を歩いていると、後ろから誰かが追ってくる。
二の腕を掴まれ振り向くと、焦ったようなコンラッドがいた。






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