聖女リオノーラの反逆〜千年の恋のためクズ夫を寝取ってください〜

専業プウタ

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15.妹の夢。

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気を失ったセリアに聖女の力を流し、体を拭きドレスアップさせる。

彼女が気に入って着ていたラベンダーのドレスのオリジナルである私のドレス。

うっすらと目を開いた彼女は、いつもの太々しい姿とは裏腹に弱々しく見えた。
「セリア、そこの鏡台の椅子に座って」
虚な目で私に言われた通りにするセリア。

私は彼女の短くなった髪を編み込み、ブルーダイヤモンドの髪飾りを付けた。
(セリア、貴方は価値のある子。他人の悪意に惑わされないで⋯⋯)

「これ、何? ブルーサファイア? 私にくれるの? お姉様!」
セリアが息を吹き返したように目を輝かす。

「これは、ブルーダイヤモンドよ。もちろんこの髪飾りは貴方のもの。セリア、貴方の瞳に似た色をしていてとても似合っているわ」

ブルーダイヤモンドの石言葉は「絆を深める」。
姉妹として毎日のように顔を合わせていたのに、私は彼女の事をどこまで理解していたのか疑わしい。

♢♢♢

彼女の血筋を知ったのは、2回目のやり直しの時。

久しぶりに実家に戻った際に、レシャール侯爵夫人とセリアが言い争っているのを見てしまった。

『パン1個の価値しかない娘なのに、リオノーラが不妊になる毒を盛っていたの? 烏滸がましい! お前など買わなければ良かったわ。生まれの卑しさはどうにもならないのね。貧民街の娼婦の娘が本物の聖女に嫉妬したの?』

怒りと嘲笑を交えセリアに詰め寄るレシャール侯爵夫人。

『だって、私とお姉様は姉妹だわ! 一緒じゃなきゃいけないの!』

カルティスと結婚して、不妊の王妃と陰口を叩かれていた時に聞いた2人の会話。
私はあの時、セリアの出生の秘密よりも、共に過ごしてきた彼女が不妊になる毒を私に盛ってた事にショックを受けた。

それから程なくして、セリアはカルティスの側室になった。

私はカルティスと彼女の不適切な関係をリオノーラとしての1度目の「生」で知っていたから、驚くことさえなかった。ただ、セリアが私を苦しめる為に側に来たように思えて恐怖した。

♢♢♢

「お姉様、私がお姉様に毎朝淹れていた紅茶には不妊になる毒が入っていたのよ」
「そうなのね。美味しいから飲んでしまっていたわ」

本当は変な苦味を舌に感じて、いつも無理に喉の奥に流し込んでいた。

でも、紅茶を淹れる練習をしたから飲んでみて欲しいというセリアが可愛くて、懇願されると飲んでしまった。

「私、15歳で月のモノが止まったの。疑問に思っていたら、レシャール侯爵夫人に、私に子供を産ませる訳にはいかないから当たり前だと言われたわ。毎日のようにお姉様とカルティス王子殿下が産む子が将来ベルナールの国王になる話をしていたのに、何で私だけ⋯⋯」

ポツリポツリと話し始めるセリアの目には涙が滲んでいた。
私はそれに気が付かないフリをする。

レシャール侯爵夫人はセリアが子を産み、彼女の身元が露見するかもしれないと危惧したのだろう。
時に生まれる子は祖父の特徴を引き継ぐ。

私はそっとセリアの肩に触れて聖女の力を流す。

「聖女の力? 温かいのね。私、ずっと不公平だと思ってた。お姉様は運良く聖女で大貴族の家に生まれただけで、皆に大切にされて敬われる。私が貧民街の娼婦の娘として生まれたのは私が悪いの? 私だけどうして生まれながらに蔑まれるの?」

私は涙が溢れそうになるのを、唇を噛んで我慢した。
セリアが泣くのを我慢しているのに、私が泣くのは間違い。

「聖女の力で、貴方の子宮は回復できたと思う。来月には月のモノが来るわ」
笑顔を作って彼女に掛ける精一杯の言葉。
「お姉様は?」
「私は光の魔力で治してもらったから、大丈夫よ」
安堵したような表情を浮かべるセリア。

「ねえ、セリア、貴方はこれからやりたい事とかある?」

「やりたい事? 私は、私を蔑んできたレシャール侯爵夫妻を見返したい。だから、権力もお金も欲しい!」

2回目のやり直し。
確かに、セリアはカルティスの側室になり、レシャール侯爵より上の地位になっていた。

「お金か⋯⋯」
「お姉様、私、既に金策は練っているのよ。娼館を経営しようと思うの。利益率も高いしね。大金持ちになって、私を捨てたレシャール侯爵の前で札束をばら撒いてやりたいわ」

レシャール侯爵夫妻はセリアが断罪されると知って勘当したのだろう。
都合の良いだけ彼女を利用し、切り捨てた。

「娼館、娼館か⋯⋯」
何度も転生しても娼館には縁がなく知識がない。

「私が経営したいのは女性向けの娼館よ。実は隠れた需要があるの。親子ほど歳の離れた金持ちに売られるように嫁がされる令嬢もいるわ。お金はあっても心身は疲弊し逃げ場を求めている。オシドリ夫婦で有名な某伯爵夫人も娼館の常連。それだけの需要があるのに、現在ベルナール王国にはたった1件しか女性向けの娼館がないの」

男娼の館に私のピンを落として来たセリア。

「夜遊びは市場調査だったの?」
私が尋ねるとセリアは嬉しそうにコクコク頷いた。聖女がいるべきではない場で、私の名を語っていた彼女を今責めたいとは思わない。しかし、彼女が何を考えていたのか知りたい。

「男は妻を何人も娶って良いのに、女は結婚すると夫に尽くす事を要求される。私はそんな理不尽に苦しむ女性たちの癒しの場を作りたいの」

どこまでも「平等」に拘るセリア。娼館に否定的なイメージを持っていたが、存在するという事は意味がある場所なのかもしれない。

「癒しの場というけれど、そこを訪れる人は心を救われてるのかしら?」

「勿論よ。お姉様は気付いていないでしょうけれど、不満も言えず苦しい思いをしている女性は沢山いるのよ。私も聖女の妹として、そんな女たちを救いたいの」

実はセリアの言っていることは、あまり理解できていない。
それでも、彼女を理解したいと思う。
彼女が自分を「聖女の妹」と言ってくれたのが嬉しいからだ。

「セリア、私に手伝える事はある?」
「大丈夫、自分でやれるわ。この髪飾りを売れば、目を付けてるテナントも買えそうだしね」
セリアは先程私がプレゼントしたブルーダイヤモンドの髪飾りに触れながら微笑んだ。
(え、売るの? 寂しい! できれば売らないで⋯⋯)

「ベルナール王国が居辛いなら、アントワーヌ帝国で店を始めてたら?」

「居辛い? そんな事ないわよ。今、私は聖女の夫を寝取って冤罪を着せられた女として有名よ。私が事業を始めれば新聞社がこぞって記事を出すわ。同情票で来店してくれる人も絶対いる。こんな有利な状況で他国に行く訳ないじゃない」

セリアには地面を突き抜けてくる雑草のように強い生命力がある。
私は思わず彼女の強かさに笑いそうになった。

「マイロとの婚約はどうするの?」
「あの男との婚約はレシャール侯爵家を勘当された時点で破棄されてるわ。剣術が抜群で、口が硬く人柄が良いだけの子爵家の三男坊よ。元々興味なかったから惜しくも何ともないわ。あの婚約は私の出生の秘密を守れるからと、レシャール侯爵が世間体を考えて結んだだけの契約」

8歳からカルティスという婚約者がいたのに対し、セリアには長らく婚約者がいなかった。聖女であると思われていた彼女には山ほどの婚約話が来ていた。

「そうなのね⋯⋯」
私はマイロは魅力的な男だと思うが、セリアにとってはそうではない。
それなら、私が口を出すことではない。

「お姉様、実は男ができたんでしょ。あのプラチナブロンドの彼? 抱かれたら蕩けそうな程の色気があったわよね」

セリアの危なっかしい台詞に、私は思わず右耳のイヤリングの通信機能を切ろうかと思った。
(今、切ったら逆に不安にさせる? シリルが聞いているかも不明だし)

「あの方とはそういった関係ではないわ」

「本当にお堅いのね。狙った男はすぐにものにしないと、寝取られるわよ。女だって良い男の前では狼になるんだから。お姉様って世間知らずで、人をすぐ信じてしまうところがあるから心配だわ」

千年の時を生きた経験があるという自負を持っていた私。
妹から見れば浮世離れした箱入り娘のようだ。

「私は大丈夫だから、セリアは自分が幸せになる事だけを考えてね。貴方の貴重な人生を後悔なく過ごしてくれれば私は嬉しいわ」

私の言葉に、そっとセリアは目を瞑る。
(今、何を考えてるの?)

彼女は私に対等を要求してきた初めての子。

気が強くて、自分勝手で、プライドが高い。
(あれ? 私に少し似てるかも)

ゆっくりと目を開けた彼女が私に語りかけてくる。
「お姉様、命を救ってもらった借りは必ず返すわ。楽しみにしててね」
口の端をあげてニヤリと笑った彼女に、どんな借りの返し方をするのか尋ねたかったけれどやめた。
(また、想定外の事をするんでしょうね⋯⋯)


♢♢♢

「そんな訳で、聞こえてたかもしれないけれど解放日はコンラッド様の助けもあり恙無く終わったわ」

私は今日1日の終わりに、ベッドで寝転がりながらイヤリングでシリルと会話した。彼の声を聞くだけで、私の体内の光の粒子が増幅するのが分かる。溢れる「好き」に溺れながら毎日を過ごせる未来を想像して私は幸福に浸った。

「セリアは君が好きなタイプの子だね。不器用だけど、諦めない手のかかる子。怖いもの知らずで時に残酷。まるで子供みたいな彼女に、これからも君は悩まされそうだ」

シリルに図星を突かれてむず痒くなった。
彼は私と過ごした時だけではなく、私を長い間ずっと見てきたと言っていた。

「そうね。シリル、今日も色々不安にさせたよね。でも、私を信じて、絶対にやり遂げで貴方の元に帰るから」
私は誓いの言葉を彼に告げ、通信を切って眠りについた。

翌日、エイブラハム国王に血縁検査について話した。大神官も立ち合いの元、神聖な大聖堂で行いたいと提案したエイブラハム国王の胸の内を推測して幾許か不安が過った。

関係者を大聖堂に集合させる。
カルティス、第2王子レアード、第3王子オスカーと彼らの母親。
加えて、今時の人となっているエイブラハム国王そっくりな金髪に黄金の瞳を持ったサブリナ王女が一同に会した。

「このような場を設けてくれた聖女リオノーラに感謝する。結果が楽しみだ」

皆が立ち上がって緊張している中、エイブラハム国王だけは深緑色のベロアのソファーに腰掛け余裕で微笑んでいた。


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