浮気な婚約者を捨て愛を知る。

専業プウタ

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13.誘い

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建国祭当日の朝、私はオクレール侯爵邸に戻った。父とクラリッサが私が帰ってくるなり出迎えてくれる。

「エスメ、特効薬まで作るとは凄いじゃないか」
「お父様、気は抜けませんわ。それでも、帝国出身ではない医師と薬師が私たちの為に寝る間も惜しんで研究し結果を出しました」
「エスメ、お前の言いたい事は分かっている。皇帝陛下にも非常に感心していたよ」
父が私の肩を優しく叩く。ジェイクには皇后の座など興味がなくなったと言ったが、やりたい事をやるにはやはり地位が必要だ。

「クラリッサ、今晩の舞踏会については手紙で話した通りよ」
「お姉様、用意はバッチリです。婚約破棄に関してはお力になれず申し訳ございません」

深く頭を下げるクラリッサ。きっと彼女はありとあらゆる手を使い、アンドレアに婚約を破棄するよう働きかけたはずだ。

「ここからは、私の仕事。今晩が楽しみだわ」

余裕ぶって笑顔を作ったが、ここまで私との婚約に拘るアンドレアの気持ちが全く理解できない。実際あって、どういった思惑があるのか確認する必要がありそうだ。もう、私はジェイクを立太子させると決めている。

♢♢♢

クラリッサと舞踏会会場の入り口に到着すると、純白の第一騎士団の軍服を着たジェイクの隣に勲章の連なる赤い礼服を着たアンドレアがいた。

お茶会に招待したメンバーと同じようにクラリッサにはプレゼントしたドレスを着ている。黄色に銀糸で薔薇の刺繍が施されたマーメイドラインのドレスは彼女に似合っていた。

「ジェイク・バルベ皇子殿下にエスメ・オクレールがお目にかかります」
「ふふっ、そんな堅苦しい挨拶を君が俺にするなんて初めてだな」

差し出してきた彼の手に私はそっと手を乗せる。隣にいるアンドレアの視線が痛い。私が礼儀として挨拶しようとすると、アンドレアが強引に私をジェイクから引き剥がした。

「僕には劣化版エスメで我慢しろと?」

アンドレアの言葉に脳が沸騰しそうになるのを必死に沈める。私は彼からの手紙は基本無視したが、今回の舞踏会のエスコートについては婚約者として断りの返事を書いた。

「アンドレア皇子殿下、未だ子供っぽい事を言って駄々を捏ねているのですか? お姉様が嫌と言ったら引くのです。お姉様は決定を覆しません。劣化版のお姉様等存在しません。お姉様は唯一無二です!」

クラリッサが帝国の皇子相手に堂々と言い返す。三年の月日を経て戻って来ても、再び私を慕ってくれている彼女が愛おしい。

「ふふっ、こんな可愛い妹を浮気者なアンドレア皇子殿下に差し出すのは勿体無い気がしますわ。いつも連れていた聖なる女と一緒にご入場なさったら?」

周りを見渡してもシエンナの姿はない。
クラリッサが私に耳打ちしてくる。

「あの聖女は目障りなので、セイレ山の聖地巡礼に赴くように画策済みです」
「ふふっ、クラリッサ。あなたって本当に有能ね。こういうサプライズは大好きよ」

クラリッサからの手紙にはシエンナの聖地巡礼の事は書いていなかった。おそらく、ギリギリまでシエンナが駄々を捏ねたのだと推定される。私がアンドレアと別れようとしている今、当然、公の場で彼の隣に居られるかもしれない機会を逃したくはなかったはずだ。

冬になり乾燥し山火事が相次いでいるという現状、聖地巡礼の提案を断るのは難しい。

私は控えている従者に私とジェイクの入場を告げるよう伝える。
従者は一瞬アンドレアの顔色を伺うも、私の指示に従った。

「ジェイク・バルベ皇子殿下と、エスメ・オクレール侯爵令嬢のご入場です」

重いエンジ色の扉が開かれると、ジェイクと私が並んで登場した事にどよめきが起こる。注目を浴びているのに、隣の男は私をじっと見ている。
「エスメ、その白いドレス凄い似合っている」

私はお茶会の時に着た金糸の薔薇の刺繍が美しい白いマーメイドラインのドレスを着ていた。ジェイクには第一騎士団の軍服を着て来てもらっている。

純白の騎士服は刺繍も金糸で色合いがあっているというのもあるが、人々に彼は他の皇子はしなかった経験をしていると見せつけたい意味合いもある。

「ジェイクも素敵よ。私たちの結婚式見たいね」
「け、結婚式!」

私が囁いた言葉にジェイクが目を瞬いた。この間、私にプロポーズした割にウブな男だ。

「アンドレア皇子殿下の入場です」

鋭い目つきで一人入場するアンドレアに一瞬皆が静まり返る。怒りを隠していない態度をしているが、世論が彼に味方をするとは思えない。実際、ここ最近一年の彼はエスメ(ノエル)を蔑ろにし、シエンナにばかり構っていた。

オーケーストラの荘厳な演奏を聞きながら、ジェイクと踊る。アンドレアは誰とも踊らず私たちをじっと見ていた。あまりの強い視線に思わずそちらを見ると目が合う。

彼から睨まれるのは初めてで、少なからず動揺していた。浮気をしていたような男がなぜ怒っているのか理解できない。私に捨てられる可能性を考えていなかったとしたら、私を甘く見過ぎている。

「エスメ、俺を見て」

不意に声を掛けられドキッとする。ジェイクの目をじっと見つめると、頬を赤らめて目を逸らされた。

「目を逸らさないで、私の目に映っている自分を見て。私の瞳に映れるのはこの帝国をおさめられる器の男だけよ」

ジェイクが私の瞳を見入ってくる。顔がどんどん近付いて来てキスしてしまいそうだ。私は思わず顔を逸らした。心臓が珍しくバクバクしている。今、間違いなく皆が注目する場でそんな事をしようとするなんて信じられない。

「やった! 今、絶対、俺にドキドキしたよな」
「違っ!」

ジェイクの場違いな行動にドキッとしただけだと言い返したかったが、嬉しそうな彼の顔を見ると言い返せない。

オーケストラの音楽が終わるとジェイクが二曲目を誘ってくる。手を差し出して来た彼の腕を引き寄せ耳打ちした。

「ここは、私たちの仲ではなく、私たちの立ち位置をアピールする場面よ」
「アピールというか、ただ、もっと一緒に踊りたかっただけなんだけど⋯⋯」
寂しそうにするジェイクは今の状況が分かっていない。彼は十年皇室を離れていて、権力争いからも遠ざけられていたから仕方がないのかもしれない。

「だったら、後でバルコニーで二人きりで踊りましょ。舞踏会は踊る場じゃないのよ」

首を傾げるジェイクのエスコートは望めそうにないので、私は彼の手に指を絡めて手のひらを合わせるようにギュッと握る。

「俺、今、誘われてる?」

頓珍漢な事を言って顔を赤らめる彼に吹き出すのを私は必死に堪えた。

「誘ってるわよ。今から、皇帝陛下に挨拶に行きましょ」
睨みつけるアンドレアの視線を背に感じながら、いつものように壇上の玉座に座るライナス皇帝陛下の元に向かった。
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