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15.ここでキスして
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「エスメ様、クラリッサなら先程までこちらにいたのですが、少し外すと言ってバルコニーの方に行ってから戻って来ておりません」
クラリッサと仲が良いアマンダ嬢の言葉に私はふと自分とノエルの出会いを思い出していた。
「エスメ様、私が呼んで参りますわ」
突然、隅にいたミランダが私に擦り寄って来る。吊り目ルビー色の瞳が縋るように私を見つめていた。
おそらく、シエンナから私へ鞍替えしようと思っているのだろう。一人だけ浮いたフワフワのレースのピンク色のドレスを着ていて明らかに浮いている。クラリッサが私に褒められようと、令嬢たちと徒党を組んで彼女を徹底的にやり込んだ後なのだろう。妹は私のやり方を踏襲していた。
「今は冬で夜は寒いわ。その格好では寒いでしょう」
レースというのは編みと透かしで模様を作る透け感素材。流行を作る時に重要なのは季節感。そして、流行色をいくつか作りその中で似合うものをチョイスすること。シエンナは自分に似合う淡いピンクを流行らせたが、ミランダには似合っていない。
他の令嬢がミランダ嬢を嘲笑し始める。シエンナに取り入り私を笑い者にしようとした彼女だが、ここら辺で私側に付けておいた方が良さそうだ。一旦地獄に落として蜘蛛の糸を吊るすのも私のやり方の一つ。
私は自分の髪をまとめ上げていたルビーの髪留めをとる。
そしてミランダ嬢の胸まで下ろした髪を纏め上げその髪に止めた。彼女は私に首でも締められると思っているのか緊張して固まっている。
周囲の令嬢が、皆、私に注目している。
「この髪飾り、私よりも貴方に似合うから差し上げるわね。髪を上げた方が貴方の美しい顔立ちが引き立つと思うわ」
髪飾りに魅入っていたアマンダが口を開く。
「濃い赤色に六条線の星のような輝き! レイロ王国産のスタールビーですか? そんな希少で高価なものをなぜミランダ嬢に差し上げたのですか?!」
「似合っているからよ。美しくあるのは女の義務であり権利でしょ。ミランダ嬢、今度は貴方に似合うドレスを贈らせてくれる?」
「なんで、私なんかに⋯⋯」
ミランダ嬢は震える手で髪飾りのついた髪に触れ俯いている。強気の彼女にしては珍しい反応。予想以上にクラリッサに痛めつけられているようだ。
「お友達だからよ。お友達を着飾るのって楽しいわ」
私は目を細めてゆっくりと微笑んだ。
私の自称親衛隊たちは私の行動から私の意思を察しミランダ嬢を輪に入れ始める。
ミランダ嬢の今までの行動から、彼女はスパイ気質。私側につけておけば情報屋として機能するだろう。
私は令嬢たちに引き止められながらも、クラリッサを探しにバルコニーに出た。
(寒い!)
外は粉雪が待っている。
「にゃー」
私を見つけるなり、白猫が私の足元に寄ってきた。
「ノエル、どうしてここに? アンドレアの部屋で待っていれば良いのに」
私は思わず屈んでノエルを抱きしめようとする。
この白猫はアンドレアを妙に贔屓しているから、心配でついて来たのだろうか。
急に後ろから温もりを感じる。最近親しんで私を安心させてくれる男らしいウッディー系の香りに包まれた。
「ジェイク? どうしたの?」
「さっき、バルコニーで月夜の下で二人きりで踊る約束をしただろ」
何だか勝手にロマンチックなシチュエーションが追加されているが、空は重い雲が掛かっていて月も見えない。
「流石に外は寒いわ。この白猫をアンドレアに返したら、中でもう一曲踊る?」
振り返った私に、ジェイクは納得いかないような顔をしていた。
「今日、何度もアンドレアと君は二人で視線を交わしていた。アンドレアにまだ気持ちがあるのか?」
私は唐突な彼の質問に目を瞬いてしまう。
私はアンドレアに恋したことはないし、今、ジェイクに抱いている感情も恋ではないと思っている。でも、彼は私が普通の女と同じように恋をすると考えているようだ。
⋯⋯ジェイクの環境に同情したのもがあるが、彼は皇帝の冠を賜るに相応しい人間だと思う。だから、私は今彼の隣にいる。
そんな説明をしたら、彼はどんな反応をするだろうか。
(『君は誰にも心を渡さない』)
いつかアンドレアに言われた言葉が蘇る。ジェイクにそんな事を言われるのを想像するだけで胸が痛い。
「ないわ。もう、彼の事は何とも思っていない。ただ、この猫を返したいだけ」
「にゃー」
ノエルが私に顔を擦り付けている。この白猫を初めて可愛いと思った。
「じゃあ、ここで俺にキスして証明して欲しい」
私は突然のジェイクの要望に彼の瞳をじっと見つめる。
冗談で言っている訳ではなくて本気だ。彼は私がまだアンドレアと繋がっているかもしれないと考え不安なのだろう。
「ジェイク、ここは中から丸見えよ。私が貴方にキスしたら、悪女が今度は他の皇子を誑かしていると思われるわ」
ジェイクはガラス越しに舞踏会会場を見た。私と彼がバルコニーに出ている事で、周りがチラチラとこちらを見ている。
「じゃあ、俺からなのはいいのか?」
ジェイクの声が頭の上から聞こえる。でも、こんな場所でキスをするようなバカップルのような真似をエスメ・オクレールはしたくない。
「にゃーん」
屈んでノエルの身体を温めるように撫でてたら、白猫が私の手のひらに顔を擦り付けてくる。
(この猫、こんなに可愛かったかしら? アンドレアに返さないで私の猫にしちゃう?)
「ねえ、ジェイク、やっぱりこの猫⋯⋯」
顔を上げた途端、頬を両手で包まれ濃厚なキスをされる。私は軽いキスを一度アンドレアとした経験はあったが、こんなのは初めてで頭がぼーっとしてくる。私は反射的に目をそっと閉じて、彼の熱を受け入れた。
(外は寒いのに体が熱い。何これ⋯⋯)
その時、バルコニーに続く扉が勢いよく開かれた音がして思わず目を開ける。
青炎を瞳に宿したアンドレアが私たちを睨みつけていた。
クラリッサと仲が良いアマンダ嬢の言葉に私はふと自分とノエルの出会いを思い出していた。
「エスメ様、私が呼んで参りますわ」
突然、隅にいたミランダが私に擦り寄って来る。吊り目ルビー色の瞳が縋るように私を見つめていた。
おそらく、シエンナから私へ鞍替えしようと思っているのだろう。一人だけ浮いたフワフワのレースのピンク色のドレスを着ていて明らかに浮いている。クラリッサが私に褒められようと、令嬢たちと徒党を組んで彼女を徹底的にやり込んだ後なのだろう。妹は私のやり方を踏襲していた。
「今は冬で夜は寒いわ。その格好では寒いでしょう」
レースというのは編みと透かしで模様を作る透け感素材。流行を作る時に重要なのは季節感。そして、流行色をいくつか作りその中で似合うものをチョイスすること。シエンナは自分に似合う淡いピンクを流行らせたが、ミランダには似合っていない。
他の令嬢がミランダ嬢を嘲笑し始める。シエンナに取り入り私を笑い者にしようとした彼女だが、ここら辺で私側に付けておいた方が良さそうだ。一旦地獄に落として蜘蛛の糸を吊るすのも私のやり方の一つ。
私は自分の髪をまとめ上げていたルビーの髪留めをとる。
そしてミランダ嬢の胸まで下ろした髪を纏め上げその髪に止めた。彼女は私に首でも締められると思っているのか緊張して固まっている。
周囲の令嬢が、皆、私に注目している。
「この髪飾り、私よりも貴方に似合うから差し上げるわね。髪を上げた方が貴方の美しい顔立ちが引き立つと思うわ」
髪飾りに魅入っていたアマンダが口を開く。
「濃い赤色に六条線の星のような輝き! レイロ王国産のスタールビーですか? そんな希少で高価なものをなぜミランダ嬢に差し上げたのですか?!」
「似合っているからよ。美しくあるのは女の義務であり権利でしょ。ミランダ嬢、今度は貴方に似合うドレスを贈らせてくれる?」
「なんで、私なんかに⋯⋯」
ミランダ嬢は震える手で髪飾りのついた髪に触れ俯いている。強気の彼女にしては珍しい反応。予想以上にクラリッサに痛めつけられているようだ。
「お友達だからよ。お友達を着飾るのって楽しいわ」
私は目を細めてゆっくりと微笑んだ。
私の自称親衛隊たちは私の行動から私の意思を察しミランダ嬢を輪に入れ始める。
ミランダ嬢の今までの行動から、彼女はスパイ気質。私側につけておけば情報屋として機能するだろう。
私は令嬢たちに引き止められながらも、クラリッサを探しにバルコニーに出た。
(寒い!)
外は粉雪が待っている。
「にゃー」
私を見つけるなり、白猫が私の足元に寄ってきた。
「ノエル、どうしてここに? アンドレアの部屋で待っていれば良いのに」
私は思わず屈んでノエルを抱きしめようとする。
この白猫はアンドレアを妙に贔屓しているから、心配でついて来たのだろうか。
急に後ろから温もりを感じる。最近親しんで私を安心させてくれる男らしいウッディー系の香りに包まれた。
「ジェイク? どうしたの?」
「さっき、バルコニーで月夜の下で二人きりで踊る約束をしただろ」
何だか勝手にロマンチックなシチュエーションが追加されているが、空は重い雲が掛かっていて月も見えない。
「流石に外は寒いわ。この白猫をアンドレアに返したら、中でもう一曲踊る?」
振り返った私に、ジェイクは納得いかないような顔をしていた。
「今日、何度もアンドレアと君は二人で視線を交わしていた。アンドレアにまだ気持ちがあるのか?」
私は唐突な彼の質問に目を瞬いてしまう。
私はアンドレアに恋したことはないし、今、ジェイクに抱いている感情も恋ではないと思っている。でも、彼は私が普通の女と同じように恋をすると考えているようだ。
⋯⋯ジェイクの環境に同情したのもがあるが、彼は皇帝の冠を賜るに相応しい人間だと思う。だから、私は今彼の隣にいる。
そんな説明をしたら、彼はどんな反応をするだろうか。
(『君は誰にも心を渡さない』)
いつかアンドレアに言われた言葉が蘇る。ジェイクにそんな事を言われるのを想像するだけで胸が痛い。
「ないわ。もう、彼の事は何とも思っていない。ただ、この猫を返したいだけ」
「にゃー」
ノエルが私に顔を擦り付けている。この白猫を初めて可愛いと思った。
「じゃあ、ここで俺にキスして証明して欲しい」
私は突然のジェイクの要望に彼の瞳をじっと見つめる。
冗談で言っている訳ではなくて本気だ。彼は私がまだアンドレアと繋がっているかもしれないと考え不安なのだろう。
「ジェイク、ここは中から丸見えよ。私が貴方にキスしたら、悪女が今度は他の皇子を誑かしていると思われるわ」
ジェイクはガラス越しに舞踏会会場を見た。私と彼がバルコニーに出ている事で、周りがチラチラとこちらを見ている。
「じゃあ、俺からなのはいいのか?」
ジェイクの声が頭の上から聞こえる。でも、こんな場所でキスをするようなバカップルのような真似をエスメ・オクレールはしたくない。
「にゃーん」
屈んでノエルの身体を温めるように撫でてたら、白猫が私の手のひらに顔を擦り付けてくる。
(この猫、こんなに可愛かったかしら? アンドレアに返さないで私の猫にしちゃう?)
「ねえ、ジェイク、やっぱりこの猫⋯⋯」
顔を上げた途端、頬を両手で包まれ濃厚なキスをされる。私は軽いキスを一度アンドレアとした経験はあったが、こんなのは初めてで頭がぼーっとしてくる。私は反射的に目をそっと閉じて、彼の熱を受け入れた。
(外は寒いのに体が熱い。何これ⋯⋯)
その時、バルコニーに続く扉が勢いよく開かれた音がして思わず目を開ける。
青炎を瞳に宿したアンドレアが私たちを睨みつけていた。
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