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6.カリン⋯⋯とお呼びください。
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「セルシオ・カルパシーノ国王陛下⋯⋯この子たちは自分たちの育った場所が燃えてしまい傷つき疲れています。どうか、すぐにでも温かい寝床を用意して欲しいのです」
私はセルシオに今すぐにでも抱きつきたい気持ちを抑えて懇願した。
今晩の火事によって、どれだけ子供たちが怖い思いをして傷ついたかを考えるだけで胸が締め付けられた。
「アリアドネ⋯⋯君だけ足が傷だらけだ⋯⋯」
心優しいセルシオは私の足を見て、心底心配していた。
孤児院にいた18名の子どもも、ミレイアと私も素足で逃げ出していた。
それゆえ、ここまでの道のりを素足で歩いてきた。
途中、神聖力でみんなの足の治療をした。
「神聖力って、実は自分自身のことは治癒できないのです。でも、大切な人を治癒できる力です。セルシオ国王陛下と私はこれから夫婦となります。陛下を傷つける全てのものから守りたいと思っております。目にみえる傷だけでなく心の傷も私に見せてください。私はあなたを幸せにする為に存在しています」
自分でも不信がられることを言っている自覚はあった。
でも、時を戻すことに成功し、首のつながった愛おしい人が目の前にいる。
私は彼への気持ちを隠すことができなかった。
「俺も君を守りたいと思っていることを忘れないで欲しい。傷の治療を受けてくれ」
セルシオが私をお姫様抱っこしようとした時、不安そうな子どもたちの視線を感じた。私はそっと首を振って子供たちと手を繋いだ。
「陛下、今は火事があって急に住む場所を失った子たちとずっと一緒にいたいのです。とても恐ろしい時間を過ごして心に傷が残るかもしれません。私はこの程度の傷なら大丈夫です。明日から建国祭ですね。みんな楽しみにしてますよ。陛下は主役なのですから、しっかり部屋で休んでください」
セルシオはとても過保護な人だ。
足の傷くらいどうって事ないのに、私の心配をしてくれる。
彼に抱きついて好きだと伝えたいけれど、彼にとってアリアドネは会って間もない相手で戸惑ってしまうだろう。
(今は、私ばかりが好きなのね⋯⋯)
回帰前も彼が私のことを好きだったと知ったのは、彼が絶命する直前だった。
いつ彼が私を好きになってくれたのか分からないが、少なくとも彼は出会って直ぐに女に惚れそうな男ではない。
「アリアドネ⋯⋯夫婦になるんだから、陛下ではなくセルシオと呼んで欲しい。君のことは、どのように呼べば良いだろうか?」
セルシオは思いやりに溢れた人だ。
私が心を開けるようにと、自分から距離を縮めようとしてくれている。
「カリン⋯⋯とお呼びください」
私は自分の中にとんでもない我儘な自分が存在していることに驚いた。
アリアドネの名前からは連想することのない愛称⋯⋯カリン。
しかし、私はセルシオの包み込むような優しい声で私の名を呼んで欲しかった。
回帰前に別れの寸前に初めて呼ばれた自分の名前⋯⋯その時に感じた甘い響きを私は忘れられなかった。
「カリン⋯⋯では、案内させてくれ。子どもたちも迷子にならないようについてくるんだぞ」
セルシオはやっぱり優しい。
私の言っていることに疑問が生じてもおかしくないのに、尋ねずにいてくれる。
他の者に案内を頼めば良いのに、自ら案内を申し出てくれる。
今すぐ彼に愛を伝えたい気持ちを閉じ込め、私は子供たちと彼の後ろをついて行った。
♢♢♢
温かい部屋に案内され、清潔な寝巻きに着替えさせ子どもたちを寝かしつけることに成功した。
セルシオの心遣いにより、広い部屋で皆一緒に寝付くことができている。
子どもたちは環境の変化の漠然とした不安に怯え、寄り添うあうように布団の中で固まっていた。
私は今日起こったことを考えると気持ちが昂って眠れなかった。
(セルシオ⋯⋯今度こそ、あなたを守り抜き幸せにする⋯⋯)
火事のことや姉の企みについても考えなければならないのに、私の心はセルシオに会えた喜びで満ちていた。
(今晩は眠れそうにないわ)
突然、マリオがムクっと起き上がって部屋の外に出るのが見えた。
私は慌てて彼の後を追った。
気がつけば、城壁を囲む湖のほとりまで来ていた。
「マリオ! ここから先は湖なの! 危ないから部屋に戻ろう! 不安で眠れないなら一晩中あなたを抱きしめて眠るから」
夜は暗くてで湖と地面の境が見えずらい。
私はマリオが湖に落ちそうになるすんでのところで、彼を後ろから抱きしめた。
「ちょっと眠れなくて散歩してただけだよ。もう、子どもじゃないんだからそんな心配しないでよ」
マリオが私の腕の中で笑っている。
(十分、子どもなのに大人ぶって⋯⋯)
「ふふっ、私も指輪のなる秘密の種をこっそり埋めようと部屋を抜け出しただけなのよ。マリオも手伝って!」
私は盗聴魔法つきのアリアドネから貰った指輪を土に埋めようと、湖のへりの辺りの柔らかい土を掘り出した。
「指輪って埋めると、指輪のなる木がなるの?」
マリオの顔が楽しそうな笑顔に変わり私はホッとする。
「そうよ! これはここだけの秘密。でも、深く掘らないと泥棒に盗まれちゃうかもしれないから出来るだけ深い穴を掘るのよ」
この指輪には盗聴魔法が施してあるから、利用する時が来るまで音の届かない土深くまで埋めた方が良いだろう。
私とマリオは手で必死に細長く深い穴を掘り始めた。
「これで、指輪のなる木が生えるかな?」
「きっとなるわよ。もし、たくさんの指輪がなったらその指輪を売って大儲けしちゃおう」
私は指輪を埋めると、マリオとハイタッチした。
「よく、そんな出鱈目を子どもに吹き込めるな」
笑い声に振り向くと、そこには私が回帰前に生贄にしたルイス皇子がいた。
明日からはじまる建国祭に参加する為に、離宮に滞在しているのだろう。
帝国の皇子が遠方から小国の建国祭に参加するなんて極めて異例だ。
パレーシア帝国とは貿易協定を結んでいるので、毎年建国祭の招待状を送っていると聞いた。
しかし、実際に帝国の皇族が建国祭に参加したのは初めてだ。
(もしかして、この時からカルパシーノ王国の滅亡を企んでいたの?)
月明かりがルイス皇子の銀髪を照らし、青い瞳はしっかりと私たちを見据えている。
可愛い子供のマリオがいるせいか、彼は心なしか優しい視線で私たちを見つめていた。
前回、彼を初めて見掛けたのは建国祭の最終日に行われた私とセルシオの結婚式だった。
一目でわかる彼の高貴さと美しさに、隣にいるマリオが緊張で固まっている。
「ルイス・パレーシア皇子殿下に、アリアドネ・シャリレーンがお目にかかります」
私が挨拶すると、ルイス皇子は私の腕を引っ張り手を包んできた。
「こんな土まみれの手をしていたら、アリアドネのふりはできないぞ⋯⋯カリン」
気がつけば私は手に、パレーシア帝国の紋章と彼のイニシャルが刺繍された白いハンカチを握らされていた。
私はこの時点でアリアドネと、ルイス皇子がつながっていたことに震撼した。
「カ、カルパシーノ王国は火気厳禁なのです。ルイス皇子殿下⋯⋯この建国祭が終わったら2度とこの地を訪れないでください」
考える前に言葉を発してしまった自分を後悔した。
彼を見るなり、魔力によって消えない炎に包まれた王城と息絶えたセルシオを思い出してしまった。
「火気厳禁って⋯⋯確かに俺は火の魔力が使えるが、力はコントロールできるし爆弾扱いされる覚えはないぞ」
そう言って、彼は右手を天に掲げ炎を出した。
「うわー! 火だ! 怖いよ、カリン! 全部燃えちゃうよー!」
突然、その火をみて大きく震え私の足に抱きついてきたマリオを、ルイス皇子の手を振り払い膝をついて抱きしめ返す。
(そうだ⋯⋯マリオも私と同じような炎で全てを失う恐怖を持ってたんだ)
マリオだけではないだろう。
今晩の火事は私の家族である孤児院の子たちに消せない影を残した。
私はこの火事が姉の企みによるものではないことを切に願った。
「大丈夫⋯⋯大丈夫だよ。何があっても私が守るから。全てが燃えてしまっても絶対に守るから」
私はマリオの怯える水色の瞳を見つめながら自分の覚悟を伝えた。
(今度こそ、大切な人たち、みんなを守ってみせる)
「ルイス皇子殿下、私はこれで失礼致します」
明らかに戸惑った表情をしているルイス皇子を確認したが、それよりもマリオの心のケアが大事だと思い私はその場を後にした。
私はセルシオに今すぐにでも抱きつきたい気持ちを抑えて懇願した。
今晩の火事によって、どれだけ子供たちが怖い思いをして傷ついたかを考えるだけで胸が締め付けられた。
「アリアドネ⋯⋯君だけ足が傷だらけだ⋯⋯」
心優しいセルシオは私の足を見て、心底心配していた。
孤児院にいた18名の子どもも、ミレイアと私も素足で逃げ出していた。
それゆえ、ここまでの道のりを素足で歩いてきた。
途中、神聖力でみんなの足の治療をした。
「神聖力って、実は自分自身のことは治癒できないのです。でも、大切な人を治癒できる力です。セルシオ国王陛下と私はこれから夫婦となります。陛下を傷つける全てのものから守りたいと思っております。目にみえる傷だけでなく心の傷も私に見せてください。私はあなたを幸せにする為に存在しています」
自分でも不信がられることを言っている自覚はあった。
でも、時を戻すことに成功し、首のつながった愛おしい人が目の前にいる。
私は彼への気持ちを隠すことができなかった。
「俺も君を守りたいと思っていることを忘れないで欲しい。傷の治療を受けてくれ」
セルシオが私をお姫様抱っこしようとした時、不安そうな子どもたちの視線を感じた。私はそっと首を振って子供たちと手を繋いだ。
「陛下、今は火事があって急に住む場所を失った子たちとずっと一緒にいたいのです。とても恐ろしい時間を過ごして心に傷が残るかもしれません。私はこの程度の傷なら大丈夫です。明日から建国祭ですね。みんな楽しみにしてますよ。陛下は主役なのですから、しっかり部屋で休んでください」
セルシオはとても過保護な人だ。
足の傷くらいどうって事ないのに、私の心配をしてくれる。
彼に抱きついて好きだと伝えたいけれど、彼にとってアリアドネは会って間もない相手で戸惑ってしまうだろう。
(今は、私ばかりが好きなのね⋯⋯)
回帰前も彼が私のことを好きだったと知ったのは、彼が絶命する直前だった。
いつ彼が私を好きになってくれたのか分からないが、少なくとも彼は出会って直ぐに女に惚れそうな男ではない。
「アリアドネ⋯⋯夫婦になるんだから、陛下ではなくセルシオと呼んで欲しい。君のことは、どのように呼べば良いだろうか?」
セルシオは思いやりに溢れた人だ。
私が心を開けるようにと、自分から距離を縮めようとしてくれている。
「カリン⋯⋯とお呼びください」
私は自分の中にとんでもない我儘な自分が存在していることに驚いた。
アリアドネの名前からは連想することのない愛称⋯⋯カリン。
しかし、私はセルシオの包み込むような優しい声で私の名を呼んで欲しかった。
回帰前に別れの寸前に初めて呼ばれた自分の名前⋯⋯その時に感じた甘い響きを私は忘れられなかった。
「カリン⋯⋯では、案内させてくれ。子どもたちも迷子にならないようについてくるんだぞ」
セルシオはやっぱり優しい。
私の言っていることに疑問が生じてもおかしくないのに、尋ねずにいてくれる。
他の者に案内を頼めば良いのに、自ら案内を申し出てくれる。
今すぐ彼に愛を伝えたい気持ちを閉じ込め、私は子供たちと彼の後ろをついて行った。
♢♢♢
温かい部屋に案内され、清潔な寝巻きに着替えさせ子どもたちを寝かしつけることに成功した。
セルシオの心遣いにより、広い部屋で皆一緒に寝付くことができている。
子どもたちは環境の変化の漠然とした不安に怯え、寄り添うあうように布団の中で固まっていた。
私は今日起こったことを考えると気持ちが昂って眠れなかった。
(セルシオ⋯⋯今度こそ、あなたを守り抜き幸せにする⋯⋯)
火事のことや姉の企みについても考えなければならないのに、私の心はセルシオに会えた喜びで満ちていた。
(今晩は眠れそうにないわ)
突然、マリオがムクっと起き上がって部屋の外に出るのが見えた。
私は慌てて彼の後を追った。
気がつけば、城壁を囲む湖のほとりまで来ていた。
「マリオ! ここから先は湖なの! 危ないから部屋に戻ろう! 不安で眠れないなら一晩中あなたを抱きしめて眠るから」
夜は暗くてで湖と地面の境が見えずらい。
私はマリオが湖に落ちそうになるすんでのところで、彼を後ろから抱きしめた。
「ちょっと眠れなくて散歩してただけだよ。もう、子どもじゃないんだからそんな心配しないでよ」
マリオが私の腕の中で笑っている。
(十分、子どもなのに大人ぶって⋯⋯)
「ふふっ、私も指輪のなる秘密の種をこっそり埋めようと部屋を抜け出しただけなのよ。マリオも手伝って!」
私は盗聴魔法つきのアリアドネから貰った指輪を土に埋めようと、湖のへりの辺りの柔らかい土を掘り出した。
「指輪って埋めると、指輪のなる木がなるの?」
マリオの顔が楽しそうな笑顔に変わり私はホッとする。
「そうよ! これはここだけの秘密。でも、深く掘らないと泥棒に盗まれちゃうかもしれないから出来るだけ深い穴を掘るのよ」
この指輪には盗聴魔法が施してあるから、利用する時が来るまで音の届かない土深くまで埋めた方が良いだろう。
私とマリオは手で必死に細長く深い穴を掘り始めた。
「これで、指輪のなる木が生えるかな?」
「きっとなるわよ。もし、たくさんの指輪がなったらその指輪を売って大儲けしちゃおう」
私は指輪を埋めると、マリオとハイタッチした。
「よく、そんな出鱈目を子どもに吹き込めるな」
笑い声に振り向くと、そこには私が回帰前に生贄にしたルイス皇子がいた。
明日からはじまる建国祭に参加する為に、離宮に滞在しているのだろう。
帝国の皇子が遠方から小国の建国祭に参加するなんて極めて異例だ。
パレーシア帝国とは貿易協定を結んでいるので、毎年建国祭の招待状を送っていると聞いた。
しかし、実際に帝国の皇族が建国祭に参加したのは初めてだ。
(もしかして、この時からカルパシーノ王国の滅亡を企んでいたの?)
月明かりがルイス皇子の銀髪を照らし、青い瞳はしっかりと私たちを見据えている。
可愛い子供のマリオがいるせいか、彼は心なしか優しい視線で私たちを見つめていた。
前回、彼を初めて見掛けたのは建国祭の最終日に行われた私とセルシオの結婚式だった。
一目でわかる彼の高貴さと美しさに、隣にいるマリオが緊張で固まっている。
「ルイス・パレーシア皇子殿下に、アリアドネ・シャリレーンがお目にかかります」
私が挨拶すると、ルイス皇子は私の腕を引っ張り手を包んできた。
「こんな土まみれの手をしていたら、アリアドネのふりはできないぞ⋯⋯カリン」
気がつけば私は手に、パレーシア帝国の紋章と彼のイニシャルが刺繍された白いハンカチを握らされていた。
私はこの時点でアリアドネと、ルイス皇子がつながっていたことに震撼した。
「カ、カルパシーノ王国は火気厳禁なのです。ルイス皇子殿下⋯⋯この建国祭が終わったら2度とこの地を訪れないでください」
考える前に言葉を発してしまった自分を後悔した。
彼を見るなり、魔力によって消えない炎に包まれた王城と息絶えたセルシオを思い出してしまった。
「火気厳禁って⋯⋯確かに俺は火の魔力が使えるが、力はコントロールできるし爆弾扱いされる覚えはないぞ」
そう言って、彼は右手を天に掲げ炎を出した。
「うわー! 火だ! 怖いよ、カリン! 全部燃えちゃうよー!」
突然、その火をみて大きく震え私の足に抱きついてきたマリオを、ルイス皇子の手を振り払い膝をついて抱きしめ返す。
(そうだ⋯⋯マリオも私と同じような炎で全てを失う恐怖を持ってたんだ)
マリオだけではないだろう。
今晩の火事は私の家族である孤児院の子たちに消せない影を残した。
私はこの火事が姉の企みによるものではないことを切に願った。
「大丈夫⋯⋯大丈夫だよ。何があっても私が守るから。全てが燃えてしまっても絶対に守るから」
私はマリオの怯える水色の瞳を見つめながら自分の覚悟を伝えた。
(今度こそ、大切な人たち、みんなを守ってみせる)
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