破滅確定の悪役令嬢ですが、魅惑の女王になりました。

専業プウタ

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2.もっと、やるべき事を見つけたのです。

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「ルシア? 今日はミカエル王太子殿下とお約束があったんじゃ」
「もっと、やるべき事を見つけたのです。私は今からここに篭ります」

 銀髪に薄紫色の瞳が美しいオスカーは次期宰相候補と言われるほど優秀な男だ。
 つまり、遺伝子的にルシアは賢いはずなのだ。
 それなのに、アカデミーの成績が振るわなかったのは勉強をしなかったからだ。

 私は今後もプライベートでは一切ミカエルと会うつもりはない。
 彼も私との予定がなくなった方が、都合が良いはずだ。

 彼はアリスと出会った時、ルシアに抱いていた感情は恋ではなく性欲の錯覚だと気が付く。
 ミカエルは、メイン攻略キャラの癖にルシアに対して非常に失礼だ。
 本命への本気に気がつく為の踏み台にされるなんて真っ平ごめんだ。

「2日くらい篭れば、ここの本を全部読めそうですね。アカデミーはいつからでしたっけ?」

「1週間後からだけれど⋯⋯いよいよ最終学年だな。ここの本はルシアには難しいよ。アカデミーの勉強の応用のようなものだ」

 オスカーの言葉から現在のルシアが17歳でアカデミーの最終学年だということがわかった。
 ということは、すでにアリスは攻略対象の誰かと仲を深めている可能性がある。
(アリスはルシアからの嫌がらせを受けた後だろうか⋯⋯)

「それは好都合です。より難易度の高いものを学ぶ事で、アカデミーの勉強を安易に感じるようになるでしょう」
「ルシア⋯⋯字が小さいし、絵もないけれど大丈夫かい?」

 オスカーが心配そうな顔をしながら言った言葉に思わず笑いそうになる。
 どうやら本当にルシアは本を読まないようだ。

「老眼がはじまる年齢でもないので大丈夫です。お兄様、疑問点があったら是非尋ねさせてください」
「それは良いけど、ルシア⋯⋯人が変わったみたいだ」
「女はいつだって、ある日突然蕾から花を咲かせ散っていく変化の早い生き物です」
「ルシアはいつだって満開の美しさだよ」

 確かにルシアは美しい。
 夢でも現実でも、これ程の美女になれる経験ができたことに感謝したい。
 毎日鏡を見るのが楽しみになりそうだ。

「美しさは私の武器ですが、私はもっと武器が欲しいのです。お兄様、勉強に集中したいのでお話はこれくらいで」
 私の言葉を聞いてオスカーは驚いた顔をした。

 彼はシスコンで、ルシアはブラコン設定。
 彼らはラブラブな兄妹関係ということになっている。

 しかし、オスカーはアリスとの仲をルシアに邪魔されることにより、ルシアを切り捨てる決意をするのだ。
 天秤にかけられて、振り落とされる側になるなど真っ平ごめんだ。

 私は本棚の本を端から読み出した。
 みるみる脳に知識が蓄積されていくのが分かる。

 やはり、ルシアは頭が悪いわけではない。
 ただ、勉強をしなかっただけのようだ。

「何か分からないことはないかい?」
 しばらくすると、まだオスカーがそこにいたのか声を掛けてきた。
「数学や化学はもっと応用問題はないですか? もっと頭を使う問題が欲しいです」

「えっ? それはアカデミーの図書館にあるかもしれないけど⋯⋯」
 オスカーが戸惑ったような表情になった。
 数学や化学は橘茉莉花の世界と同じなので、ガリ勉女子の私には簡単過ぎる問題しかここにはない。

「それから、私は明後日からアカデミーの寮に入ります」
「あそこは下位貴族や平民が入る場所だよ」
「ローラン王国のアルベルト王子もいらっしゃいますよね。私は通学時間を無駄と考えているので、寮で勉強に集中したいのです」
 ローラン王国から留学してきている、アルベルト王子は留学生として寮の特別室に滞在している。
 できるだけ彼と接触する機会を設けられる寮にいた方が良いだろう。

 アルベルト王子はルシアに誘惑され、守りたくなるような可愛らしさを持つアリスとの間で揺れる。
 最低でも、ルシアの役割を遂行するにはアリスと同等くらいに彼に思われる必要がある。
 
 恋愛の達人ルシアと違い私は男性経験がない。 
 そんな私がアルベルトの心を動かすにはターゲットを絞り、がっつり彼を自分の持つ知識を駆使し落とすしかない。
 
 通学時間を勉強時間に割り当てたいというのも本当だ。

 私はイギリスでは寮生活をしていた。
 通学時間がカットできるというのは、チリも積もれば山なのだ。

「ローラン王子殿下が唯一の特別室を使っているから、今、寮には2人部屋しかないよ」
「学年主席のアリスさんが今部屋をお1人で使ってますよね。私、彼女と同室を希望します」

 アリスは現在の学年主席だ。
 当然、部屋でも勉強しているだろし、お互い切磋琢磨できるだろう。

 私はイギリスでも2人部屋だったが、同室になる子は非常に重要だ。
 夜中に彼氏と長々電話する子と同室だった時は地獄だった。

 アリスの名前を出した時に、オスカーが一瞬考え込んだ顔をした。
 
「お兄様、是非お話を通しておいてください!」
 オスカーは成績優秀の卒業生として、アカデミーでも週に何度か講義もしている。
 そこで、勉強熱心なアリスに質問を受けるうちに2人は恋に落ちていく。

 オスカーが軽く頷く。
 彼は現在アリスのターゲットになっていない可能性がありそうだ。
 もし、彼がアリスと仲を深めていたらルシアと同室になることに意義を唱えるはずだ。

(アリスのターゲットが誰でも良いわ⋯⋯彼女が主役の物語なんだから誰かと幸せになるでしょう)

 とにかく、『誘惑の悪女』というタイトルの通り全編にわたりルシアの存在感が強い。
 ルシアがいないと物語は進まないし、彼女が揺さぶらないと男たちも動かないのだ。

 私は自分がルシアになることで、柊隼人の呪縛から逃れられると思っていた。
 
 私は日本に帰国するのが恐ろしかった。
 中学の同級生に会うのは嫌だったが、柊隼人の姿は見るのも怖かった。

 彼の呪縛に逃れられず、目を瞑ったまま突っ走ってトラックに轢かれて死んだのだ。

 私を引きこもりにしたのも、海外に逃げるように追いやったのも、何もかも彼を克服できてないせいだ。

(2人の時は甘い顔をしながら、裏で笑っていた姿が忘れられない⋯⋯柊隼人⋯⋯)
 
 断罪された時でさえ、凛々しい表情をしていて、自分の価値を疑わなかったルシアのようになりたい。

 自分に背を向けた男に未練も感じず、エンディングロールで国外追放されていた彼女はかっこよかった。
(どこに行っても、誰にも惑わされない自信⋯⋯私に足りないピースだわ)

「愛おしいルシアの心のままに⋯⋯可愛い妹の望み通りにするけれど、いつでも家に戻ってきて良いんだよ」
 オスカーは私を心底愛おしそうに見つめた。
(血さえ繋がってなかったら、好きになりそう)

 本当に彼は美しく優しいお兄ちゃんだ。
 そして、ルシアの我儘を許してしまう甘い男だ。
 それでも溺愛した妹より、最後はアリスを選ぶのだからヒロインの力は恐ろしいものだ。

 私は目の前にある本に目を落とした。

「本当に楽しい⋯⋯新しいことを学ぶってゾクゾクするわね」
「本当に別人になったみたいだ⋯⋯ルシア⋯⋯」

 オスカーが少し怪訝な表情で私を見てくる。

「お兄様、私、たくさん学んで必ずお兄様の役に立つわ」

 私が微笑みながら彼に話しかけると彼は頬を染めた。






  
 
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