破滅確定の悪役令嬢ですが、魅惑の女王になりました。

専業プウタ

文字の大きさ
5 / 35

5.神様は残酷な方だ。

しおりを挟む
 私、アリスは小さな村に生まれた平民だ。
 15歳になった時にアカデミーの試験を受けた。

 私に目覚めた治癒の魔力という珍しい力を活かす場所に行きたかったからだ。
 無事に奨学生としてアカデミーに通うことができたが、身分差別に苦しむことになった。

 私のような平民と貴族令嬢は仲良くしてくれない。
 そして、アカデミーに通うような平民の子はお金持ちの家の子しかいなかった。
 そういった子は貴族令嬢にも相手にして貰えていた。

 ルシア・ミエーダ侯爵令嬢は貴族令嬢の中でも頂点にいる方だ。
 彼女は美しい上に、次期国王であるミカエル・スグラ王太子殿下の婚約者なのだから当然だろう。
 私にとって彼女は遠い存在だった。
 
 彼女の兄であるオスカー・ミエーダ侯爵令息は、アカデミー首席卒業生で数学の講義を週に3回している。
 私は数学が苦手だったので、どうしても分からない問題があり彼に質問に行った。

 空き教室の窓際で外を眺めているオスカー様を発見すると、緊張しながら近づいた。
 私は彼の美しい薄紫色の瞳と、夕陽が染めた彼の横顔に一目惚れしてしまった。

 分からないことがあればいつでも聞きに来て良いと言われ、彼が講義に来る日は彼を探すようになった。

 彼はいつも親切で丁寧に私に勉強を教えてくれた。
 そんな彼の優しさに触れるうちにどんどん好きになった。
 身分も違うのに大それた想いを抱いたのが、彼の妹であるルシア様にはバレていたかもしれない。

 私がオスカー様に近づこうとすると、彼女の取り巻きに囲まれて嫌味を言われるようになった。
 
 ルシア様と寮で同室になると聞いた時は不安だった。
 しかし、今日会った彼女は私の知っている彼女とは全く違っていた。
 
 ルシア様は貴族らしい婉曲表現をよく使っていたのに、今日のルシア様は心配なくらいストレートな物言いをする。

 そして、私が孤独であることを見破り、孤独を恐れるなと叱咤激励してくれた。
 自分も孤独であるから、同士だと心に寄り添ってくれた。
 
 やはり私がオスカー様を想っているのがバレているのか、探りを入れて来られた。
 彼女は婚約者がいるにも関わらず、自分はローラン王国のアルベルト王子が好きだと明かしてくれる。

 私が嫌がらせされたのは、ルシア様からではなく彼女の取り巻きからだ。

 あれはルシア様の指示ではない可能性がある。

 そんな願望が生まれて、彼女に私の好きな人を明かしたくなっていた。
 
 思いを巡らせながら片付けをしていたら、ルシア様がクッキーを作りながら泣いていた。

 彼女は許されない恋をしているのだから、当然かもしれない。
 王太子の婚約者が、他国の王子に想いを寄せている等、身分の違い以上に問題になる。

 クッキーはハート型をしていた。
 ルシア様はアルベルト王子殿下に告白をすることを決意したようだ。

 もう21時を回っていて夜遅いのに、ルシア様はクッキーを届けに行きたいという。
「もう最終学年よ。時間がないの」

 私は彼女のその言葉に胸が締め付けられた。
 卒業したらアルベルト王子はローラン王国に帰り、ルシア様はミカエル王太子と結婚する。
(叶わぬ恋でも、気持ちを伝えたいなんて⋯⋯)

 私は彼女の気持ちをアルベルト王子が受け止めてくれることを神に祈った。

 神様は残酷な方だ。

 ルシア様が秘めた想いを伝えることさえ許してくれないらしい。
 アルベルト王子のお部屋から出てきたのは、彼女の婚約者だった。

「ミカエルなんでここに⋯⋯」
「ルシアこそ、こんな時間にどうして⋯⋯」

 ルシア様は驚愕の表情を浮かべ、ミカエル王太子は彼女の手元のクッキーを見ていた。
(ハート型だ⋯⋯ルシア様の気持ちがバレちゃう)
 
「アルベルト王子殿下のお夜食にと、手作りクッキーを届けに来たの」
 私の焦りとは逆にルシア様は堂々としていた。
 
「ミカエルどうしたの?」

 藍色の髪に澄んだ海色の瞳をしたアルベルト王子が部屋の奥から顔を出す。
 キラキラしたミカエル王太子殿下と対照的に、少し影がある大人っぽい雰囲気の方だ。

 同じ寮にいてもお見かけした事はほとんどなく、ルシア様もあまり接点がないはずだ。
 それでも彼女が彼のことを好きになったということは、やはり恋とは一瞬で落ちるものなのだろう。
(私もオスカー様に恋に落ちた瞬間を覚えているわ)

「アルベルト王子殿下、クッキーを作りました。小腹を埋めるのにお役に立てればと⋯⋯」

 いつも堂々としているはずのルシア様は、もじもじしていた。
(恋をするとルシア様もこんな感じなのね⋯⋯)

 私とルシア様は促されるままに部屋の中に入った。
 特別室は調度品も豪華で天井も高くて、その豪華絢爛さに驚いてしまった。
 部屋数も1つではなく、寝室や書斎が奥にありそうだった。
 
 さらに私を驚かせたのは、部屋の中にミカエル王太子の護衛騎士がいたことだ。
 彼はライアンという平民の護衛騎士だが、腕がよくミカエル王太子からも信頼されていていつも一緒にいる。
(気が利くと評判なのに、客人が来た時に扉も開けずに部屋の中で突っ立ってたの?)

「まあ、座ってルシア嬢と、アリスさん⋯⋯」

 アルベルト王子殿下の口振りから、私が誰かは自信がなさそうだった。
(ほとんど面識がないけれど、アリスで当たりです⋯⋯)

 私とルシア様は促されるまま、赤いベロア調のふわふわのソファーに座った。

「失礼致します。クッキーに入っているものは、バター、砂糖、小麦粉、卵とバニラエッセンスです。怪しいものは入ってません」

「はい、私も見てました。材料はルシア様のおっしゃった通りです」

 誰もルシア様が怪しいものを入れるなんて思っていないと思うのだが、ルシア様に言われた通り証人をする。

 視線を感じて、ちらりと見ると黒髪に漆黒の瞳をしたライアンがじっとルシア様を見つめていた。
(男はルシア様みたいな美女を見たら見惚れるのは仕方ないと思うけど、見つめすぎるのは無礼じゃないのかしら?)
 
「面白いこと言うね。別に、君が僕に惚れ薬を盛っているなんて思ってないよ」
 アルベルト王子は上機嫌で、横目でミカエル王太子を覗き見る。
 友人関係であるミカエル王太子の婚約者が自分に愛の告白のようなことをしに来たのだ。
(優越感に浸ってるの? なんか、嫌な感じ⋯⋯)
 
「そんなものは盛ってません。私は、正攻法でアルベルト王子殿下を落としにいきます」
 ルシア様が真っ直ぐな目でアルベルト王子を見つめた。

 瞬間、アルベルト王子もミカエル王太子も私も驚愕の表情を隠せなかった。
 そのような中、じっとルシア様を見続けるライアンが気になった。

 
 


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

気配消し令嬢の失敗

かな
恋愛
ユリアは公爵家の次女として生まれ、獣人国に攫われた長女エーリアの代わりに第1王子の婚約者候補の筆頭にされてしまう。王妃なんて面倒臭いと思ったユリアは、自分自身に認識阻害と気配消しの魔法を掛け、居るかいないかわからないと言われるほどの地味な令嬢を装った。 15才になり学園に入学すると、編入してきた男爵令嬢が第1王子と有力貴族令息を複数侍らかせることとなり、ユリア以外の婚約者候補と男爵令嬢の揉める事が日常茶飯事に。ユリアは遠くからボーッとそれを眺めながら〘 いつになったら婚約者候補から外してくれるのかな? 〙と思っていた。そんなユリアが失敗する話。 ※王子は曾祖母コンです。 ※ユリアは悪役令嬢ではありません。 ※タグを少し修正しました。 初めての投稿なのでゆる〜く読んでください。ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください( *・ω・)*_ _))ペコリン

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...