真夏のリベリオン〜極道一家壊滅計画〜

専業プウタ

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8.再会

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葉山のリゾートホテルのロビーに到着すると、私を見つけるなりズンズン京極清一郎が近づいてくる。
その勢いに思わず逃げ腰になるが、彼は私を横抱きにするとそのまま無言でスイートルームに連行した。

部屋に入るなり、矢継ぎ早に質問される。

「どこに行ってたんだ? 勝手に外出して何かあったらどうするんだ?」
「少し散歩に行っていただけです」
ふとリビングテーブルを見ると、買ってきただろうピザが二枚置いてある。
(どこまで行って買ってきたの?)
なぜか胸が詰まる思いがした。今、私とお腹の子を心配してくれるのは、口が悪いが彼だけだ。

「お腹空いちゃったんで、ピザを食べても良いですか?」
「もう、二時間以上経ってるからまずいと思うぞ」
「きっと美味しいです」

私はサッと手を洗ってくると、手を合わせてピザを食べ始める。ミミの部分が冷えて硬くなってしまっているし、具も時間が経ったせいか油が浮いてしまっていた。
でも、一口食べると、パクパク手が進むくらい美味しく感じた。

手首を急に握って来た京極清一郎と目が合う。彼は少し戸惑ったように目を逸らした。

「そんなに急いで食べると太るぞ。妊娠中に太ると子供が出て来られなくなるらしい」
自分の子でもないのに、妊娠について調べて親身になってくれる彼の優しさが沁みる。
このピザが美味しく感じるのは、そこに彼の思い遣りが入っているからだ。

「それが大丈夫なんですよ。私、カイザーですから」
「何をよくわからない事を言ってるんだ。まあ、笑顔になれるならいくらでも食べろ」

生き物に餌をやるように彼がピザを掴んで私の口元に当ててくる。本当に彼はよく理解できない。口では意地悪な事ばかり言うが明らかに私を気遣っているのが分かる。

いつも通り、お風呂に入りベッドに横になった。
普段は家に戻る彼も今日はこの部屋に泊まるらしい。昼間勝手に出かけたから、私を見張るつもりなのだろう。ベッドルームは三つもあるから問題はない。

就寝前にベッドサイドのスマホを見ると、佐々木雫からメッセージが入っていた。
『冬城さんお久しぶりです。新緑の綺麗な季節になりましたが、最近は如何お過ごしですか? お仕事、急に辞めてしまわれて会えなくなって寂しいです。良ければ今度お茶でもしませんか? お返事お待ちしています。佐々木雫』
私はメッセージを返そうにも、どう返して良いか分からない。私がライ君との子を産んだら、彼の婚約者である彼女にとっては迷惑だろう。これは墓まで持っていく秘密だ。

私はまた不安な気持ちが押し寄せてきて、そのままシーツにくるまって目を瞑って眠ろうと試みた。

『マナティー』
ぼんやりと低い声が聞こえる。
男の人の声だ。
目を開けようと瞼を持ち上げようとした時に、唇に温かくて柔らかい感触を感じる。私は危機管理意識が働き、そのまま寝たふりを決め込んだ。

誰かが部屋を出ていく気配がする。どれくらいか時間が経ったところで、私は喉が渇き冷蔵庫の水をとりに立ち上がった。
リビングに行くと、近くの寝室から話し声がする。

私は導かれるように声がする部屋に近付き、聞き耳をたてた。

『はい、アメリカで手術をしたら一旦帰国します』
聞こえてくる京極清一郎の声に血の気が引く。
私はなぜ彼が味方だと思っていたのだろう。

───京極清一郎が私の要望を叶える為だけに海外移住まで考えて自分の子でもない子を一緒に育ててくれる?

そんな上手い話がある訳がない。相手は口車と薬でキャバ嬢を風俗嬢に落として儲けるのが得意なヤクザだ。
(⋯⋯逃げなきゃ)

私は部屋に戻り、サッと私服にこっそり着替える。そしてスマホを握りしめ廊下に出た。
エレベーターを待つ途中、スマホで『マナティー』について調べる。

『マナティー』はぶさ可愛い海の生物のようだった。一瞬、私のことを呼んだのかと思ったが、私を『マナティー』と呼ぶ人間は今までいない。『真夏ちゃん』、『シンカちゃん』、『お前』、『冬城さん』今まで男から呼ばれた自分の名前を思い出す。目を瞑る私はキスをされた気がするが、状況的に一番の容疑者は京極清一郎。でも、彼が私にキスをする理由が見当たらない。それよりも、なめことかを口にわざと付けて悪戯されたのを私がキスと勘違いしているの可能性の方が高い。

到着したエレベーターに駆け込む。とりあえず、キスの件は置いといて今はこのお腹の子を守り抜くことが先決だ。

ロビー階は真夜中のせいか人気がなかった。

エントランスの自動ドアが開いたかと思うと、まさかの人が現れる。
「ライ君」
「真夏ちゃん、やっと見つけた」

切なそうな顔で私に近付いてくる彼に思わず後退りしてしまう。
すると、背中が誰かにぶつかった。

「すみません」
振り向くと、私を見下ろす京極清一郎の怒りに燃える瞳と出会う。
私が逃げたから怒っているのだろうか。

「お前、俺の女を馴れ馴れしく呼ぶな」
突然、彼に後ろから抱きつかれて私は心臓が止まった。私はいつ京極清一郎の女になったのか。
そして、ライ君はそんな彼を睨みつける。

一触即発の空気に血の気が引いた。一見、二十代前半でガタイの良いライ君の方が強そうだが、アラサー京極清一郎はヤクザだ。喧嘩は当然強いし、平気で隠し持った武器を使うだろう。強い方が勝つのではない、勝った人間が強いのだ。

いざとなったら、私がライ君を守るしかない。私は背中から私をホールドする男をどう倒すかを考え始めていた。
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