真夏のリベリオン〜極道一家壊滅計画〜

専業プウタ

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10.消えた彼女(ライ視点)

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佐々木雫曰く、真夏ちゃんは仕事を辞めて寮も出て、鎌倉に住んでいるらしい。
俺は冬城真夏が初めて理解できなくて困惑した。俺に夢中だという目をして大好きだった仕事を捨てた彼女の考えが理解できない。

「俺だけが真夏ちゃんを好きだったのかな⋯⋯」
思わず漏れた俺の声に佐々木雫がクスクス笑う。

「綺麗な目を初めは好きになったんですって」
「その話、もっと聞かせて」

俺は自分の自信を取り戻す為に、冬城真夏が自分をどれだけ好きだったかの話を聞いた。

定例会議を終え佐々木雫を見送ると、ラウンジ横のホテルのロビーに紙袋の中身をじっと見つめる父の秘書の女を見つけた。

「その紙袋は何?」

俺が声を掛けるとビクッとして紙袋を後ろ手に隠す彼女。俺は反射的に彼女の腕を掴み、紙袋を取り上げた。
中に入っていたのは、母の形見であるトランキルブルーのワンピースと白のアンゴラコートだ。

「真夏ちゃん、ここに来てたの?」
俺の言葉を肯定するように秘書は目を泳がす。

「他には何か受け取った?」
「家の鍵を。真夏さんは、もう会いたくないそうです」
お揃いのイルカのストラップが外された鍵を渡され、怒りが込み上げてくる。

冬城真夏が会社の利益にならないような家庭の子だから、父が俺から遠ざけようと動いていたのではないだろうか。

俺にとって冬城真夏は特別な子だ。日陰の存在だった母に対して、否定的でなかった女は初めて。
迷惑な自殺をした金持ちの妾と死んでも侮辱される母。真夏ちゃんは純粋に俺と一緒に母のお墓の前で泣いてくれるような子だろう。天然記念物のような透明で優しい彼女を手放したくはない。

「間口さんでしたっけ。真夏ちゃんに何を言ったんですか? 正直に言ってください」
「私はただ現状をご報告したまでです」

先程まで俺は佐々木雫とアフタヌーンティーをしていた。佐々木雫は俺の婚約者という事になっている。
母に祖父が涼波圭吾を諦めさせたのと同じ手口だ。当時の母は既に涼波圭吾の子である俺を妊娠していた。

「現状? 彼女を傷つけるような事を言っていたら承知しないからな」
怒りで声が震える。真夏ちゃんに佐々木雫の事を説明しておくべきだった。俺は彼女と結婚する気がないし、彼女も親に要求されるがまま俺と定期的に会っているだけだ。

間口を問い詰めようとした瞬間、俺に声を掛けてきたのは父だった。
「ライ、少し部屋で話そうか」
ホテルのスイートルームに案内され父と対峙する。

この部屋はよく父が生前の母と俺と面会する時に使っていた。父は母という恋人がいながら、親に言われた通りの相手と結婚。当時、俺を妊娠していた母は未婚の母となった。

「ご要望通りに会社は継ぎます。でも、結婚相手くらいは自分で決めさせてください」

自然と出てきた言葉に、自分は真夏ちゃんと結婚して一生一緒にいたいと思っていると再確認する。

「佐々木雫と結婚しなさい。会社の利益になる。私もそういう結婚をした」

「お断りします。佐々木さん自身も俺との結婚を望んでいません」

「そんな事は関係ない。佐々木さんを生理的に受け付けない訳ではないなら結婚しなさい。彼女はレズビアンで、元々お前が外に恋人を持つことには寛容だ。そういう相手との結婚が一番良い」

佐々木雫のプライバシーをあっさりとアウティングする涼波圭吾に腹が立つ。そんな事はある程度彼女と関われば、薄々気がついていた事だった。まるで、彼は自分が正しい道を歩み、同じような道を俺にも辿れと言っているようだ。
俺の母を自殺にまで追い込みながら許せない。

「跡取りが必要なのではないですか?」
「レズビアンでも女なんだから、子供は産めるだろう」

涼波圭吾のクズな思考に吐き気がする。母が何故このような男を好きだったのか理解に苦しむ。

「俺は冬城真夏と結婚したいです。彼女は涼波食品が大好きだったのに急に退職なんてして、何があったんですか?」

「冬城真夏だけはダメだ。もう関わるのはやめなさい。彼女はヤクザの娘だから解雇した」
父が淡々と語る事が真実とは思えなかった。ヤクザという社会を悩ます反社会的勢力と純粋で天使みたいな真夏ちゃんが結びつかない。

「冬城真夏が、冬城組の関係者だとでも思われているんですか? 苗字が一緒なだけですよね」

「正真正銘、アレは冬城組の組長、冬城源次郎の一人娘である冬城真夏だ。どうしてそんなに拘る。女ならいくらでも他にいるだろう。極道の女の手練手管に惑わされたか?」 

俺はふとクリーニングに出して返ってきた真夏ちゃんの着物を思い出していた。縦縞の模様、黒地に流水が入った上質な着物は極道の女のものだ。

「彼女の正体が何でも俺は彼女を愛しています」
「そんなものは一時的で取るに足らない感情だ。女は古びると見れたものじゃない。会社の為の結婚さえすれば、女を好きに買い替えられる立場を大人しく享受しなさい」

父の言い分には実感があった。確かに彼は一生に一度のような恋を母として捨てた。そして今は若い愛人に夢中。俺が就職したら早々社長職を俺に渡して、愛人と南の島で暮らすという。
正妻は跡取りを産めなかった引け目からか何も言わない。そんな女の弱みに漬け込んで、情も持たずに自分の欲望を満たすだけに生きるのが俺の父親だ。真夏ちゃんと出会うまでは俺も所詮、自己中心的な父の血を継いでるのだと諦めていた。

誰も心から愛おしいと思えず、来るもの拒まず去るもの追わずで女と関係を持った。数なんて数えてないけれど、ちゃんと付き合ったと言える女も三人くらいはいる。
真夏ちゃんが現れて、俺は運命の相手と出会えていなかっただけだったと安心した。愛おしくて、ずっと彼女の事を考えてしまうくらい深い谷底に落ちるような恋をした。

臆病でやり方も分からなくて自分からは口説けなかったけれど、彼女も俺を深く好きでいてくれたから結ばれることができた。俺みたいな人間にとって、真夏ちゃんは奇跡の人だった。
秘書の間口を問い詰め、俺は真夏ちゃんの居場所に辿り着く。
そこで真夏ちゃんは、京極清一郎の女になっていた。
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