真夏のリベリオン〜極道一家壊滅計画〜

専業プウタ

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12.変わりゆく自分(ライ視点)

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それから、俺はどんなに探しても真夏ちゃんを見つけられなかった。
気がつけば三年の月日が経ち、俺は涼波食品の話題の若社長になっていた。

「涼波社長、婚約者の佐々木様がお見えです」

扉をノックして強張った顔で入室してきた秘書の間口は真夏ちゃんを傷つけた戦犯だ。
敢えて側において厳しく接する事で、俺はストレスを解消していた。

「ああ、案内してくれ。飲み物は用意しなくて良い。直ぐに追い返すからな。それから、この資料作り直せ。競合他社のデータの数値が間違ってるぞ。数字も読めないなら幼稚園からやり直せよ」

「そ、そんな初歩的なミスするはずが⋯⋯」

「社外に出してるデータじゃなくて、内部データ持って来いって言ってるんだよ」
俺が怒鳴りつけると、彼女は資料を握り締め逃げる様に社長室の外に出て行った。

入れ違うように佐々木雫が部屋に入ってくる。間口は社長室の直ぐ側で彼女を待機させてたのだろう。俺の顔を見るなり、彼女は顔を顰めた。

「相変わらずひどい顔してるよ。鏡で自分の顔を見てからメディアに出ないと、爽やか若手社長のイメージが台無し」
窓ガラスを見ると悪徳社長のような顔がそこにあった。余裕がないのは自分でも分かっていて、メディアに出る時だけ体裁を整えるのが精一杯。そんな俺に無駄な時間を割かせる佐々木雫がウザイ。

「うるせーよ。忙しいのに、何しに来たんだよ」

俺は婚約者に気を遣えないくらい余裕がなくなっていた。失ってから初めて気がついた。俺は冬城真夏がいないと生きていけない程に彼女に依存していた。
何をしても離れていかないくらい、どんな事をしても許してくれるくらい包容力と俺への気持ちがある子だと思っていた。そんな存在に出会える事はもう二度とないという気持ちが俺を異常な行動に掻き立てていた。

俺は涼波食品のトップという何千人もの社員の生活に責任を持たなければならない立場でありながら、指定暴力団である冬城組とも関係を持ち始めていた。全ては真夏ちゃんを取り戻す為だった。彼らと接するには弱いと思われてはいけない。俺は過剰なまでにイキッた男になっていた。

涼波食品を自分の価値を高める道具のように扱うことで、父に復讐している気になっていたのかもしれない。

母が自殺の引き金になったのは、涼波圭吾が俺を養子として迎えたいと言った言葉だった。会うたびに妻には愛情がないと言っていた彼に、母は期待していた。でも、父が望んでいたのは跡継ぎの俺だけ。彼の隣には既に新しい愛人がいた。

「金持ちの妾」と日陰の扱いを受けても、母は自分が涼波圭吾の本命だと信じていた。
彼は毎月十分なお金を母に渡して来ていて、経済的には裕福だった。
母や俺に対して高価なプレゼントを与える事は惜しまない彼に、母はいつも感謝と愛を伝えていた。

母は涼波圭吾の前では朗らかで笑顔を心掛けていたが、本当はいつも孤独で躁鬱病を患っていた。

涼波圭吾が俺だけを望んだ事で母は病状が急速に悪化した。ある日、帰宅したら部屋に母はいなかった。
死んだ母が発見されたのは、涼波圭吾が新しい愛人に買ったマンションの中庭。
住人しか入れない敷地に押し入り飛び降り自殺したのだ。

非常識にも涼波圭吾は母の葬式に愛人連れで参列してきた。
「マンションの資産価値も下がって、気味が悪い」と囁く彼女を、「新しいマンションを買ってやる」と宥めていた彼が忘れられない。

───怒鳴りつけられると、すぐ怖がって逃げるはずの佐々木雫がまだ眼前にいて俺を潤んだ目で見つめてくる。

(鬱陶しいな)

「まだ、いるのかよ。暇人お嬢様の相手してる暇はないんだよ」
手で虫を振り払うような仕草をした俺を見て、彼女は震える唇を噛んだ。

「私たち一年後には結婚するのよ。最低限、礼節を保った振る舞いをして! 言ったでしょ。私、男の人が怖いの」

佐々木雫は自分の体を抱きしめるように震えている。昔は女の子のこういう姿を見たら、かわいそうだと頭を撫でてやっていた。今は、ただ鬱陶しいとしか思えない。
彼女はついこないだ意を決したように、幼少期に男に襲われて男性恐怖症である事を伝えてきた。彼女の恋愛対象は女。俺との間に跡取りさえ産めば、お互いの恋愛は自由にしようとの契約をした。体外受精とかもあるし、今は本当に便利な時代だ。

「俺は真夏ちゃんと以外、結婚する気はない」

今まで女には不自由しない人生だった。俺に夢中だったはずなのに突然消えた冬城真夏の存在だけが思い通りにならなかった。彼女より綺麗な女など山ほどいると思われそうだが、彼女を知っている人間なら彼女が代わりのきかない唯一無二の存在だと分かるだろう。

「⋯⋯カナダのトロントの移民の学校にね。お医者様と結婚して五年駐在してる友達がいるの」
「無駄話はやめてくれ、忙しいんだ」

俺の言葉に佐々木雫は顔を顰めた。
俺に金だけ払ってた父は俺を社長にすげると愛人と余生をリゾートタイム。
佐々木雫も俺を利用して、体裁を整えたいだけ。

自己中心的な奴らに、吐き気がする。

亡くなった母は金だけ払う自己中な父を尊敬しろと再三口酸っぱく俺に伝えてきた。
ルックスと財力によってくる女に辟易していた時に、ひたすらに俺を好きな超お人好しの馬鹿みたいな女に出会った。
夢中にならない訳がない。

「語学習得目的で通ったらしいんだけど、日本人の子がいたんだって。難民の子とかも通ってる所だから賞味期限切れのチョコレートとか売ってくるんだけどその子は笑顔で買うんだって。アホみたいなお人好し」

俺は身体中の毛が逆立つような気がした。悪意に満ちている世界。人を陥れてやろう、嫌な想いをしたら復讐してやろう。クズみたいな人間に囲まれた中、アホみたいなお人好しに出会った。その子は俺を好きで、無償の愛を持っていて荒んだ自分も受け入れてくれる気がした。

「真夏って名前らしいけれど、結婚してるし子供もいるらしいから冬城真夏ではない気がする。でも、こんなお人好し冬城さん以外にいるかなあ⋯⋯」

佐々木雫が困惑した顔を俺に向けてくる。

結婚している? 子供がいる?
きっと、そんなのは俺と別れた寂しさを埋めた結果だろう。

俺の対応は間違ってた。
あんな安っぽいモーテルで真夏ちゃんを抱いたから、彼女を不安にさせてしまったかもしれない。彼女は父や秘書から酷い言葉を浴びせられていた。

もっと何気ないデートを重ねて、愛を伝えていれば俺たちはうまく行った。
自分でもおかしいと思うくらい冬城真夏以外の女を女としては見えない。彼女だけが欲しかった。

「佐々木雫、ようやっと役に立ったな。もう下がってくれ」

俺の言葉に佐々木雫が困惑したような顔をしながら部屋を出る。はっきり言ってムカついた。彼女は親から結婚するように迫られていて、俺とカモフラージュ婚をしてやり過ごそうとしている。
自分を利用しようとする人間はすべからく憎い。
父も俺の存在を疎ましく思っていた癖に、最終的に跡継ぎとして利用できると思ったら擦り寄ってきた。

秘書が社長室に入ってくる。女秘書、間口。父の時から仕えてきた女で、俺は彼女を父より自分に跪くように仕向けていた。
彼女は虐げられる程に喜びを感じる困った性癖を持った女。
父は彼女のそういった傾向を利用し、自分の思うように動かしている。

「間口、今からカナダのトロントに向かう」
「お待ちください。午後は重要会議が入ってます」

俺は片手で彼女の首を絞めた。
間口は本当に変態だ。
首を絞められた途端に、気持ちよさそうに口角が上がり命令されるのを心待ちにしている。
彼女がもっと上手くやっていれば、俺と真夏ちゃんは離れずに済んだ。些細な誤解が招いた離別。真夏ちゃんは俺の知らなかった無償の愛を与えてくれるはずの人だった。

「うるさい。黙れ。この無能が」
間口からの情報や冬城組の下っ端から、真夏ちゃんがアメリカにいるという情報は掴んでいた。アメリカをくまなく探したのに彼女は見つからなかった。

今まで何にも執着した事はなかった。それなのに、俺のものだった女を奪われたという記憶は俺を苦しめた。
結婚しているとか子供がいるとかどうでも良い。真夏ちゃんを手に入れられなければ生きていけないような衝動に俺は駆られていた。

カナダに現れた真夏ちゃんが本物でも偽物でも動かなければ気が済まなかった。
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