ある勘違い女の末路

Helena

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ドープレ VS テイラー家の弁護人

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次々と衝撃の証言が飛び出し、裁判長の進行が聞き取れないほどのざわつきが傍聴席を包んでいる。

「静粛に!」

裁判長が大きな声で注意をひく。


「では、グラント弁護人!」


「はい、裁判長」


グラント氏がすくっと立ち上がり、聴衆の注目を集める。
聴衆が興奮している間に、尋問の担当が検事側から弁護側になったようだ。

テイラー家はどのような反撃をしてくるのだろうか。

証言台のドープレを見つめるグラント氏の表情からなにも読み取れない。


「ドープレさん、あなたはヴァロア王国でテイラー子爵から仕事の依頼を受けた、と先ほど証言しました。これに間違いはありませんね?」


「はい、間違いありません。ただし、仲介人を通じての依頼なので子爵と直接話をしたわけではありません。」


「では、仲介人が子爵の名を騙った可能性もあります」


「それはありません。依頼を受けて入国してからは子爵に直接仕事を指示されましたから。自分も驚きましたよ、まさかお貴族様が直々に登場とは。一応本人は仮面で顔を隠して、庶民の服で身をやつしているつもりだったのかもしれませんか……バレバレでしたね。」


まだ序盤だというのにグラント氏のポーカーフェイスに明らかにヒビが入る。一瞬、被告席に拘束されているテイラー子爵の方をきっと睨んで眉間に深いシワを寄せた。子爵は顔を青くして猿ぐつわをふごふご言わせている。


「でも本当に別人かもしれません。」


「ふふふ、家紋入りの指輪をはめていましたよ。今も子爵が右手中指つけているほら、あれ。」


ドープレ氏は笑いを堪えるような顔でテイラー子爵を指差す。
子爵の両手は体の前で拘束されているので指を隠すこともできない。法廷中の視線が子爵の右手に集まり、子爵は無駄にもがいている。


「ヴァロア王国で契約したときに、”保険”としてもらった念書にあの指輪の印章を使った封蝋が押されていました。こんな誠実な犯罪者もなかなかいないと思いますが、仕事を受ける側としちゃ大変ありがたいですよ。」


「ふん、そんなもの、存在していないだろう! 口だけならいくらでも言える」


思いがけないドープレ証言に翻弄され組み立てた計画どおりに進行できない苛立ちなのか、都合のいい話ばかり語るテイラー子爵に騙されたことに対する怒りなのか、グラント氏の言葉は荒れてきている。


「グラント君、それが先日当法廷に持ち込まれ、昨夜遅く鑑定結果が出ておる」


「裁判長、そんな話、弁護側は聞いていません! 厳重に抗議します!!!」


通常、検察側から法廷に提出された証拠は事前に弁護側にも知らされる。


「今回は検察側ではなく、ヴァロア王国からもたらされた証拠なのだ。王太子殿下直々にお持ちいただいた。検察側も君と同様にたった今知る事実ということだ。」


これでグラント氏は抗議の弁を封じられた。たしかに事実のようで検事とウィリアムも慌てたように小声で討議しているようだった。


「証拠の写しと取り調べの資料を検察、弁護側に渡して、内容を読み上げてくれたまえ」


裁判長が官吏に指示する。


「はい、裁判長」


ヴァロア王国からもたらされた証拠とは、例の念書だった。ドープル氏とテイラー子爵を引き合わせた”仲介人”が逮捕され、彼が隠しもっていた大量の念書が発見されたのだ。念書とは、悪事の依頼者が金の支払いgs滞ったり、保身のため当局へ密告したりなど裏切らないようあえて残した証拠である。

その念書の中に、テイラー子爵の印章つきのものもあったわけだが、ヴァロア王国は、この発見を公にせず、秘密裏に裏取り調査を進めて、この裁判にタイミングを合わせて大規模な一斉捜査と逮捕が行われているそうだ。依頼人となった貴族や富裕な商人など、その数は五十人は下らないとのこと。ここ数十年におよび権力闘争、相続問題、愛憎問題の陰でおこった不慮の事故や死……闇から闇に葬りさられた犯罪がこれから大量に白日のもとにさらされるのだ。歴史に残る大醜聞になることは間違いないだろう。

”仲介人”は長年ヴァロア王国の王立警察にマークされていたが、念書の在り処がわかるまで泳がされていたらしい。

概要を読み上げる官吏の声も興奮からなのか、恐怖からなのか震えていた。
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