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我が家の秘薬
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法廷内の混乱はもはや裁判長の咳払いでは収まらなかったので、翌日まで休廷になった。
証言台のドープレはこの騒ぎを薄笑いを浮かべて見渡してから、官吏に促されて退出。そして被告席の三人は、武装した衛士たちに拘束されたまま担がれ、大勢の官吏に取り囲まれた状態でどやどやと法廷を後にした。
それを合図に傍聴席の聴衆も一斉に出入り口に向かう。早く外に出てこの超弩級の醜聞について誰かと話したいのだろう。
その喧騒の中で私は未だに自席で呆然としていた。自分が他の聴衆よりも少しだけ当事者たちに近い立場だからだろう。感情も情報も自分の中で処理しきれず、当然この出来事を面白がる気持ちにはなれなかった。
検察席をみると、ウィリアムが肩で大きなため息をついていた。改めて彼の背負ってきた重責を思うと涙が出そうだった。私はなんとか目の前の手すりにつかまり立ち上がった。私の視線に気づいたウィリアムが傍聴席の手すりにすがって立ち尽くす私をみつけて、疲れのにじむ目元を緩めてくれた。
「がんばって」
とっさに出てきたのはありきたりな言葉。気の利いたこと何ひとつ言えない自分が悔しい。
ウィリアムはうなずいて、小さく手を振ってくれた。
※※※
翌日、法廷は再開された。
証言台には昨日に引き続き渡世人・ドープレ、尋問にはグラント氏が立った。
被告人席のメーガンとテイラー子爵は予め拘束されていて、夫人だけが手枷のみでおとなしく座っていた。
今日はスムーズに進行しますようにと願い、私は昨日と同じ傍聴席で両手を握りしめて、検察席のウィリアムの横顔を見つめた。
グラント氏が最初の質問をした。
「ドープレさん、あなたはシャルル王子に薬物を使用したと証言しました。この薬物はどこから持ち込んだものですか?」
「テイラー子爵から渡されたものです」
「テイラー子爵本人からですか?」
「ああ、たしかにそう名乗りはしなかったですね。」
弁護人の意図を察して苦笑いするドープレ。
「仮面とテイラー家の印章の指輪をつけたおっさんに渡されましたよ、我が家の秘薬だとね」
我が家の秘薬……昨日に続き自分の尋問から不利な証言を引き出してしまったグラント氏は苛立ちからか聴衆のどよめきを打ち消すように大声で次の質問を繰り出す。
「あなたは王子に七回にわたり、薬を使ったと昨日証言しましたが、間違いないですか?」
「はい、間違いありません」
「そして王子の身体への影響が心配だとも言った」
「はい」
「随分詳しいのですね、その薬物に」
「もちろんですよ!」
そのドープレの回答にグラント氏はわずかに目を細める。
「自分の父親に盛られたものですからね。親の仇なんですよ、その薬は」
思ってもみない回答にグラント氏は今度は目を見開く。二の句が続かない様子を尻目にドープレの言葉は止まらない。
「裕福な商人だった父親はその薬を使われて、客の女を襲い破滅したんだ。女はさる貴族の奥方でね。親父ははめられたんだ。実直な商売をする人だった、家族思いの人だった。客の女を襲うなんてことは絶対しない人なんだ。俺は親父の罪をはらそうと必死でその薬の出どころを探った。だからその薬についてはとても詳しいんですよ、弁護士さん」
罪を犯しながら、罪を暴かれることを望んだ渡世人・ドープレ。
その動機と背景の一端が明らかになった瞬間だった。
一方被告席では、家族三人の中でただひとりおとなしくしていた子爵夫人が目を見開いて震えていた。
夫人の手にはめられた手枷がカチャカチャと鳴っている。
証言台のドープレはこの騒ぎを薄笑いを浮かべて見渡してから、官吏に促されて退出。そして被告席の三人は、武装した衛士たちに拘束されたまま担がれ、大勢の官吏に取り囲まれた状態でどやどやと法廷を後にした。
それを合図に傍聴席の聴衆も一斉に出入り口に向かう。早く外に出てこの超弩級の醜聞について誰かと話したいのだろう。
その喧騒の中で私は未だに自席で呆然としていた。自分が他の聴衆よりも少しだけ当事者たちに近い立場だからだろう。感情も情報も自分の中で処理しきれず、当然この出来事を面白がる気持ちにはなれなかった。
検察席をみると、ウィリアムが肩で大きなため息をついていた。改めて彼の背負ってきた重責を思うと涙が出そうだった。私はなんとか目の前の手すりにつかまり立ち上がった。私の視線に気づいたウィリアムが傍聴席の手すりにすがって立ち尽くす私をみつけて、疲れのにじむ目元を緩めてくれた。
「がんばって」
とっさに出てきたのはありきたりな言葉。気の利いたこと何ひとつ言えない自分が悔しい。
ウィリアムはうなずいて、小さく手を振ってくれた。
※※※
翌日、法廷は再開された。
証言台には昨日に引き続き渡世人・ドープレ、尋問にはグラント氏が立った。
被告人席のメーガンとテイラー子爵は予め拘束されていて、夫人だけが手枷のみでおとなしく座っていた。
今日はスムーズに進行しますようにと願い、私は昨日と同じ傍聴席で両手を握りしめて、検察席のウィリアムの横顔を見つめた。
グラント氏が最初の質問をした。
「ドープレさん、あなたはシャルル王子に薬物を使用したと証言しました。この薬物はどこから持ち込んだものですか?」
「テイラー子爵から渡されたものです」
「テイラー子爵本人からですか?」
「ああ、たしかにそう名乗りはしなかったですね。」
弁護人の意図を察して苦笑いするドープレ。
「仮面とテイラー家の印章の指輪をつけたおっさんに渡されましたよ、我が家の秘薬だとね」
我が家の秘薬……昨日に続き自分の尋問から不利な証言を引き出してしまったグラント氏は苛立ちからか聴衆のどよめきを打ち消すように大声で次の質問を繰り出す。
「あなたは王子に七回にわたり、薬を使ったと昨日証言しましたが、間違いないですか?」
「はい、間違いありません」
「そして王子の身体への影響が心配だとも言った」
「はい」
「随分詳しいのですね、その薬物に」
「もちろんですよ!」
そのドープレの回答にグラント氏はわずかに目を細める。
「自分の父親に盛られたものですからね。親の仇なんですよ、その薬は」
思ってもみない回答にグラント氏は今度は目を見開く。二の句が続かない様子を尻目にドープレの言葉は止まらない。
「裕福な商人だった父親はその薬を使われて、客の女を襲い破滅したんだ。女はさる貴族の奥方でね。親父ははめられたんだ。実直な商売をする人だった、家族思いの人だった。客の女を襲うなんてことは絶対しない人なんだ。俺は親父の罪をはらそうと必死でその薬の出どころを探った。だからその薬についてはとても詳しいんですよ、弁護士さん」
罪を犯しながら、罪を暴かれることを望んだ渡世人・ドープレ。
その動機と背景の一端が明らかになった瞬間だった。
一方被告席では、家族三人の中でただひとりおとなしくしていた子爵夫人が目を見開いて震えていた。
夫人の手にはめられた手枷がカチャカチャと鳴っている。
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