乙女ゲーのヒロインだと思っている奴は、だいたいが失敗する

つくね

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乙女ゲーのヒロインだと思っている奴は、だいたいが失敗する

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その日は毎週開かれる王都の行商市の日。夜明けとともに開かれる市は王都の名物にもなっている。
夜明け前から出店者達でにぎわうが、まれに気の早い客がやって来る。

その客はフードを深くかぶり、まだ暗いこともあいまってほぼ誰の目にも止まっていなかったが、確実に何かを探していた。




「おお、婆さん久しぶりだな!一月ぶりか?くたばったかと思ってたぜ!」

「バカ言うんじゃないよ、あたしゃまだまだ現役だよ!」

気安い様子で出店料を払い、老婆は与えられた場所へと移動する。その移動中も親しげに声を掛けられることから、常連のようだ。

「あー、ばぁちゃん!待ってたよ~、例の薬ある?」

「あぁもちろん持ってきたとも。」

「やった~、後で買いに行くね!」

などなど、なかなかの人気店のようだ。


与えられた場所まで移動すると、老婆は懐からおもむろに机を取りだし、黒い布をかぶせると椅子も取り出しそこに座った。……それで出店準備は終わったようである。どうやら空間魔法も使えるようだ。


そこへ、フードを目深に被った人物は立ちふさがった。

「失礼、この店は『リノの店』だろうか?」

「あぁそうさ、何が入用かな?」

フードの人物は病気であろうその症状を正確に老婆に伝えていく。と、

「ふん、その症状は病気じゃない、呪いだねぇ。」

「…!ではっ、薬では治らないのですか?」

「安心しな、薬はあるとも(なるほど、今回はこの為だね)」

「では、それはこれで足りるだろうか。」

そう言うと、ドンッと老婆の前に革袋を置いた。

「金払いのいい客は好きだよ、どれ、少しサービスしてやろう。」

そう言うと、懐から出したポーションに手をかざし、何かをつぶやくとほんのり金色に輝いた。

「さぁ、早く飲ませてやりな。」





フードを被った人物は急ぎ城に帰った。その部屋に居た皆に促され、震える手をなんとか抑え口に含ませる。するとその病人の瞳に意思が籠る。後は確実に飲み干し、皆が様子を見守る中、自力で起き上がった。

「あぁ!よかった!」

母と妹に抱きしめられ、父にもその上から抱きしめられる。

「ありがとう、それからご心配をおかけしました。アルもありがとう。」

「いえ、兄上がご無事で良かったです。」

それから一家は今までの憂いもなく、朝食につくとこにした。




「それで、アル兄様!リノ様はどのような方でしたの?」

「あぁ、とてもやさしそうな老婆だったよ、症状を伝えただけで呪いと見抜いていたし、とても腕のいい薬師のようだね。シアのおかげで助かったよ。」




今回、市場で噂の老婆のことは妹姫であるフェリシアからの情報だった。基本城から出ることのないフェリシアの情報源は主に侍女たちだ。と言っても、そこまでの道のりはちょっと遠い。最初は城下から通う洗濯場の者たちからだった。手荒れにとても良く効くと。そこから下男下女へ、調理場へ、侍女たちへと広まっていくのだ。なので姫は自分ではなく、侍女たちのおかげだと笑う。




そこへ、ノックと共に騎士と黒尽くめの者が報告に現れる。例の薬師に接触する者の中に不審者はいないか、影についてもらっていたのだ。すると案の定、早速バカが釣れたようだ。

「王太子の病を治したらお礼はする、だから自分にエリクサーを渡せ。と例のご令嬢が…。」


例のご令嬢とは、何故か自分はヒロインだからと普段から周りの顰蹙をかっている女のことだ。しかし彼女は他人にはもらしていないはずのことを知っていたりと、一部の人間達にはちょっとした恐怖感を与えていた。令嬢と歳が一緒の第二王子もその一人。だいたい、王太子が倒れたことだって、一般には知られていなかったのだから。


「薬師殿は、『そんなもんない、客じゃないならどいとくれ。』と相手にしておりませんでした。」


そこへ、また別の報告が入る。魔術師団の一人が倒れたという。

「よし、そいつを拘束して全て吐かせろ!兄上に呪いをかけた奴だ。」

なんでも薬師リノがサービスしてくれたのは、呪い返しだったのだ。徐々に体の自由が利かなくなる為、口が動かなくなる前に聞き出さなくてはならない。これで例の女の名が出れば、すぐ捕縛出来る。





魔術師を締め上げると、令嬢の父親の名が出たようだ。爵位は伯爵だが、第二王子と娘を婚姻させ、更なる権力を得ようとしていたらしい。

すぐさま騎士団によって、伯爵一家は捕縛される。王族に危害を加えたのだ、軽い罰ではすまされない。
両親は処刑、令嬢は二度と出てこれない修道院に送られることとなった。


「なんでこうなったのよ!あのババァは私のお助けキャラでしょう?助けなさいよー!!」


相変わらず訳の分からないことを喚いていたが、誰も相手にしなかったという。








「やれやれ、転生者ってのは何でこんなバカばっかりなのかしら。仮にここが乙女ゲームの世界観と一緒だとしても、決してゲームじゃない、現実だっつーの。ま、そんな奴は死んでも分からないだろうね。だいたいエリクサーの材料だって、常時採れるわけじゃないし、私の見た目を老婆にしてあるのもたまたまだし、てめえのお助けキャラだぁ?ふざけんなっつーの。」

ぶつぶつと呟きながら薬師リノは王都を散策する。その姿は老婆とは似ても似つかない美しい女性だ。

「エリクサーの材料が揃ったときが一番緊張するわ~。必要な時にしかあの花は咲かないし、どこで売れるかも直感とか、やだわ~。今回も正解だったみたいで良かったー。さっさとお買いものして帰ろーっと。」


リノは必要な買いものを済ませると誰もいない路地裏へと移動し、転移を発動した。








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