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世界中に誰もいない。傍にいるのは見ず知らずの男。ただひたすら悠馬は自分の歩く音だけを寂しく聞いた。
ほとんど人工的に作られていたカエルという惑星。そのほとんどが蓮という男の手によって、爆破された。それなのに何故か奇跡的に、悠馬と水葉は生きていた。
あの大混乱の中、悠馬は水葉に腕を引かれ、水葉の地下の家に連れていかれて宇宙服を悠馬は着せられた。空気を生み出す機械は破壊されつくしているかもしれない。でも進んだ人類の技術で、オゾン層まで作り出すことはできている。問題は、人工の太陽光を生み出している地熱発電所が壊れたらしいことだ。水葉の体は冷え、体の震えがなかなか止まらなかった。悠馬の体も震えている。
「.........空気は無事みたいだ。だが、太陽光はない」
電気で電池を生み出し、電池で電気を生み出す。永遠のリサイクル。それができないとなると、このカエルという星は太陽から遠い。発電できないとなると、人口の太陽光にあたることもできない、それに寒さで人類は滅ぶ。
事態の深刻さに、水葉は自宅の書斎に立ちすくんでこれからのことを考慮する。
........しかし蓮がこの星の破壊をたくらんだとすると、何故まだこの星は滅んでいないのだろう?まだ爆弾が仕掛けられているのか?
「おい。何しているんだ?そこで一人でいるな。二人で固まっていてくれ、寒すぎる」
開けっ放しの書斎の部屋の入口に、悠馬が立っていた。
悠馬の体は震え、歯はかみ合わずにがちがち音を立てている。水葉自身の体も震えている。書斎の箪笥から毛布をとり出し、自発発電のスイッチをおした。
ソファーに座っている悠馬の隣に水葉は座り、悠馬の方と自らの肩に毛布をかけた。
「すいません。寒いのに気付かなくて、俺は体の感覚が少し鈍いんです」
「いや、謝ることはない。俺世話になっているしな」
水葉は隣にいる悠馬の顔を盗み見た。悠馬に申し訳ないが、悠馬の顔のパーツはすべて美しさからほど遠かった。まぁ、人間の美醜なぞ、時代やそれもそれぞれ人間の好みなどで千差万別なのだが、やはり水葉は悠馬の顔に一切の魅力を感じなかった。
........それなのに水葉は、悠馬に何故か惹かれていた。これもすべて水葉の父親である蓮の実験の成果か。蓮は水葉にいろいろ自らの感情などをつたえる実験を繰り返していた。悠馬に惹かれる水葉のこの気持ちも、ただの蓮の洗脳によるものだとしたら嫌だなと、水葉は震えた。
「おい、大丈夫か?寒いのか」
暖かな悠馬の腕が、水葉の背中に回される。どうやら悠馬は震えてる水葉を寒さで震えていると、勘違いしたらしい。
水葉も悠馬も生き延びたいものだと、水葉は腕を伸ばして悠馬の体を引き寄せた。
「これからどうする?」
悠馬の低い声が聞こえてくる。
「食料が足りません。なんとか食料を確保しなければなりません。しかし、外は危険です。人の視線や治安を守るものがいない今、次に起こるのは略奪か強奪でしょう。この家の場所もなるべく人に知られないようにしないといけません」
「........どれだけの人類が生き残っているんだろうな」
「分かりません。俺の推測ですが、人類の半数以上はあの爆発で亡くなってしまったかもしれません」
「結構大きな爆発だったしな。........すまない。少し眠ってもいいか?眠気をもう我慢できそうもない」
「分かりました。俺は書斎にいるので、ゆっくり眠ってください」
「ああ........おやすみ」
「おやすみなさい」
眠りについた悠馬を見守った後、水葉は部屋をでて自分の書斎に向かった。
書斎にあるパソコンからこの星を見守っている人工知能へと、水葉はアクセスを開始した。人工知能はこの星のありとあらゆる人類の情報管理の手伝いをしている。人工知能へアクセスを開始したが、やはり電気が通っていないのかほとんどの人口知能が停止している。
水葉のパソコンに、何者かがハッキングしていることに気が付いた。それ以前からしつこく水葉の動向をさぐるものがいる。
旧人類である悠馬と、新人類であろう水葉と特徴が違う。遺伝子の違うそれでも近い遺伝子同士は、殺し合う宿命だ。それと同時に多様な遺伝子がない社会は何故か滅ぶ。まったく殺し合いは意味がない。お互い生存しなければどちらにせよ滅ぶ。
まだ水葉の動向を探るものが、水葉に危害を加えようとしている確証は得ていない。
「........そうでないといいが」
水葉は溜息をついて、ノートパソコンを閉じた。席から立ち上がると、書斎にあるソファーの上に寝転んだ。
水葉の脳裏に、悠馬の姿が思い浮かんだ。進化したのか退化したのか水葉は旧人類とは違う特徴を得てしまった。
どうして水葉は男を好きになったのだろう?自分の中のなんらかの欠陥か何かが同性愛者に向かわせているのだろうか?と、水葉は仮説を立てて考えるが、以前水葉はすみずみまで自らの体を調べたことがある。どこといって男性ホルモンと女性ホルモンのバランスなどは通常の男性となんら変わらなかった。異常なしだ。
........不思議なものだ。
悠馬は同性愛者ではない可能性が高い。水葉は失恋決定だ。もし、なんらかの方法で、異性愛者を同性愛者に変わらせることができたらと、恐ろしい案が水葉の脳裏に浮かぶ。
水葉は首を振って、自らの考えを振り払った。
夢というのは無意識にその人間が思っていることらしい。悠馬の夢の中で、蓮があの聖なる森の中で微笑んでいる。初めてできた友達だと思っていたのに、悠馬のその思いは蓮からの暴力で壊された。
目を覚ますと、悠馬の目から涙が零れ落ちていた。
ソファーから悠馬は身を起こす。今さらながら、今この星が爆破されてしまって、何もかも亡くなってしまったことが胸に届いた。
戸が叩かれ、向こう側から水葉の「悠馬さん、起きてますか?」という声が聞こえてきた。
「ああ」
悠馬が声あげると、すぐに水葉は部屋の中に入ってきた。
「これから地上に出て食料を買いに行こうと思います。悠馬さんはどうしますか?」
「俺も行く」
悠馬はソファーから立ち上がった。
地下の家の外に出ると、地上には草ひとつ生えていない荒涼とした大地が広がっていた。
「食料品がある施設まで行ってみましょう」
水葉が早歩きで歩き出す。慌てて後を、悠馬も追いかけた。
そこで水葉は油断をしていた。食料が集まる施設には、ガラの悪い人間が集まる可能性があるということを、水葉は忘れていた。
がらがらの白いドームの中は閑散としていた。室内には爆風で吹き飛んだ瓦礫が散らばっていた、
水葉と悠馬の周囲を複数の男と、少数の女が取り囲んだ。
「お前らどこから来た?」
顔に傷がある目つきの鋭い男が、水葉と悠馬に向かって問いかける。
「........なぜ見知らぬ他人にそれを言わなければならないんだ」
「水葉!」
傍若無人な水葉の言葉に、悠馬は肝を冷やす。
「おもしれぇ?お前綺麗な面をしてるし可愛がってやる」
男は中指を水葉に向かって突き出して見せる。男の周囲も卑猥な言葉を浴びせ、笑い声をあげる。
水葉の容姿は美しい。だから目をつけられてしまったのだろう。男の集団はいらだって様子で、水葉を物陰に連れて行こうとする。
悠馬は何とかせねばと、焦る。
一か八かだと悠馬は覚悟を決めて、悲鳴をあげて叫んだ。
「爆弾が爆発するぞ!!」
「はぁ?」
男の呆気にとられている顔。
「ここにも爆弾が仕掛けられたって、聞いたんだ!!」
まったくそんなことは聞いていないが、必死で悲痛な表情で悠馬は叫ぶ。
そんな悠馬につられたのか、女が甲高い悲鳴を上げる。
「う、嘘を言うな!!」
男の顔も白くなる。嘘だと思いつつも、トラウマがそれを邪魔をする。
「早く逃げるぞ!!」
悠馬は水葉に目を向け、合図する。水葉は駆け出した悠馬を追って、全速力で駆け出した。
「こらまて!!」
悠馬と水葉の後ろからは、男の怒声が聞こえる。
もちろん水葉と悠馬は立ち止まらなかった。周囲に銃声が鳴り響いた。
人けのないところまで来ると、水葉は立ち止まった。後ろを振り返ると、悠馬の腹からは血が広がっていた。
「悠馬さん!?」
慌てて水葉は悠馬に駆け寄った。
「なんか拳銃で腹を撃たれたみたいだ」
「すぐに医療室に向かいましょう」
「いや、その前にあの森に向かいたいな」
「あの森?」
「連れて行ってくれるか?」
「分かりました」
あの学園には医療室があるはずだった。
「直ぐに行きましょう」
悠馬の腕を肩に置くと、水葉は歩き出した。
そう早くあの森に向かわなければと、水葉は焦燥にも似た気持ちが沸き起こる。それと同時に鋭い頭痛が沸き起こる。
殺された遺体。
取り出された脳みそ。
移植された脳死の体。
事件、実験。
水葉の脳裏に次々と残虐な光景が浮かんでは消える。
水葉は聖なる森にたどり着くと、すべてを理解した。森に建てられた建物。そこには最新式医療ができる施設になっている。
水葉にかけられた暗示。それは悠馬が重体重篤になった時にのみ、暗示を解かれてすべてを思い出すようにできている。
すぐさま悠馬を医療室のベッドに横たえると、スキャンを開始し異物の特定、水葉は念のため悠馬の体を拘束し、麻酔針のスイッチを押す。すると管が降りてきて、自動で悠馬の腕に突き刺さった。
奇怪のプログラムを操作し、悠馬の腹の中に貫通した拳銃の弾を抜き出す。悠馬に輸血しなければならないのだが血液はないので、最新の造血剤を機械は悠馬の体内に送り込む。ここまでの間に悠馬の血圧鼓動は異常はなく、無事に手術を終えた。
蓮にかけられた暗示が解かれた水葉は、すべてを思い出していた。
悠馬の目から涙が流れ落ちる。
水葉はすべてを思い出した。俺は、蓮の脳そのものを移植された存在だ。暗示によって蓮の記憶は封印され、水葉という人格が生み出された。
.........そこで考える。水葉のもとに現れた蓮は一体なんだったのだろう?一番考えられるのは、暗示をかけられたクローン体かただの人間だ。........それか蓮自身で、もしかしてその後に水葉の脳が移植されたのか、分からない。なんと常軌を逸した行為だ。人の他人の命を何とも思っていない蓮の行為。水葉はそんな自分自身が嫌だった。けれども水葉は悠馬の傍にいたいと思った。
哀れな脳みそは、脳死した肉体にいれられた。
そんな実験は日常茶飯事だった。
新たな実験には三人のクローン体が使われた。
一人のクローンは脳を摘出され、
もう二人目のクローン体は肉体の機能を変えられ、
もう三人目のクローン体は保存された。
そのクローン体の元になった存在が、蓮だ。蓮は人類とはまったく新しい特徴をそなえていた。地球とは違う環境によってか育まれた新人類。旧人類は蓮の存在の出現によって、旧人類の淘汰を恐れた。だが蓮は新しい環境に生きていく者たちによって、環境に適合したかもしれない貴重な種だった。
だが蓮は優秀すぎた。
蓮を殺そうとするものが現れたことに気付いた。
どうでもよかったが、蓮には好きな人ができてしまった。蓮の好きな人は同性だった。人類は繁殖することだけに特化していたが、蓮にとってはどうでもよいことだった。蓮はその人を愛している。
性別を捨て、
思考を捨て、
肉体を捨て、
性別としての機能を全部捨てた。…….だからこの自分の想いを蓮は残すことにした。
ほとんど人工的に作られていたカエルという惑星。そのほとんどが蓮という男の手によって、爆破された。それなのに何故か奇跡的に、悠馬と水葉は生きていた。
あの大混乱の中、悠馬は水葉に腕を引かれ、水葉の地下の家に連れていかれて宇宙服を悠馬は着せられた。空気を生み出す機械は破壊されつくしているかもしれない。でも進んだ人類の技術で、オゾン層まで作り出すことはできている。問題は、人工の太陽光を生み出している地熱発電所が壊れたらしいことだ。水葉の体は冷え、体の震えがなかなか止まらなかった。悠馬の体も震えている。
「.........空気は無事みたいだ。だが、太陽光はない」
電気で電池を生み出し、電池で電気を生み出す。永遠のリサイクル。それができないとなると、このカエルという星は太陽から遠い。発電できないとなると、人口の太陽光にあたることもできない、それに寒さで人類は滅ぶ。
事態の深刻さに、水葉は自宅の書斎に立ちすくんでこれからのことを考慮する。
........しかし蓮がこの星の破壊をたくらんだとすると、何故まだこの星は滅んでいないのだろう?まだ爆弾が仕掛けられているのか?
「おい。何しているんだ?そこで一人でいるな。二人で固まっていてくれ、寒すぎる」
開けっ放しの書斎の部屋の入口に、悠馬が立っていた。
悠馬の体は震え、歯はかみ合わずにがちがち音を立てている。水葉自身の体も震えている。書斎の箪笥から毛布をとり出し、自発発電のスイッチをおした。
ソファーに座っている悠馬の隣に水葉は座り、悠馬の方と自らの肩に毛布をかけた。
「すいません。寒いのに気付かなくて、俺は体の感覚が少し鈍いんです」
「いや、謝ることはない。俺世話になっているしな」
水葉は隣にいる悠馬の顔を盗み見た。悠馬に申し訳ないが、悠馬の顔のパーツはすべて美しさからほど遠かった。まぁ、人間の美醜なぞ、時代やそれもそれぞれ人間の好みなどで千差万別なのだが、やはり水葉は悠馬の顔に一切の魅力を感じなかった。
........それなのに水葉は、悠馬に何故か惹かれていた。これもすべて水葉の父親である蓮の実験の成果か。蓮は水葉にいろいろ自らの感情などをつたえる実験を繰り返していた。悠馬に惹かれる水葉のこの気持ちも、ただの蓮の洗脳によるものだとしたら嫌だなと、水葉は震えた。
「おい、大丈夫か?寒いのか」
暖かな悠馬の腕が、水葉の背中に回される。どうやら悠馬は震えてる水葉を寒さで震えていると、勘違いしたらしい。
水葉も悠馬も生き延びたいものだと、水葉は腕を伸ばして悠馬の体を引き寄せた。
「これからどうする?」
悠馬の低い声が聞こえてくる。
「食料が足りません。なんとか食料を確保しなければなりません。しかし、外は危険です。人の視線や治安を守るものがいない今、次に起こるのは略奪か強奪でしょう。この家の場所もなるべく人に知られないようにしないといけません」
「........どれだけの人類が生き残っているんだろうな」
「分かりません。俺の推測ですが、人類の半数以上はあの爆発で亡くなってしまったかもしれません」
「結構大きな爆発だったしな。........すまない。少し眠ってもいいか?眠気をもう我慢できそうもない」
「分かりました。俺は書斎にいるので、ゆっくり眠ってください」
「ああ........おやすみ」
「おやすみなさい」
眠りについた悠馬を見守った後、水葉は部屋をでて自分の書斎に向かった。
書斎にあるパソコンからこの星を見守っている人工知能へと、水葉はアクセスを開始した。人工知能はこの星のありとあらゆる人類の情報管理の手伝いをしている。人工知能へアクセスを開始したが、やはり電気が通っていないのかほとんどの人口知能が停止している。
水葉のパソコンに、何者かがハッキングしていることに気が付いた。それ以前からしつこく水葉の動向をさぐるものがいる。
旧人類である悠馬と、新人類であろう水葉と特徴が違う。遺伝子の違うそれでも近い遺伝子同士は、殺し合う宿命だ。それと同時に多様な遺伝子がない社会は何故か滅ぶ。まったく殺し合いは意味がない。お互い生存しなければどちらにせよ滅ぶ。
まだ水葉の動向を探るものが、水葉に危害を加えようとしている確証は得ていない。
「........そうでないといいが」
水葉は溜息をついて、ノートパソコンを閉じた。席から立ち上がると、書斎にあるソファーの上に寝転んだ。
水葉の脳裏に、悠馬の姿が思い浮かんだ。進化したのか退化したのか水葉は旧人類とは違う特徴を得てしまった。
どうして水葉は男を好きになったのだろう?自分の中のなんらかの欠陥か何かが同性愛者に向かわせているのだろうか?と、水葉は仮説を立てて考えるが、以前水葉はすみずみまで自らの体を調べたことがある。どこといって男性ホルモンと女性ホルモンのバランスなどは通常の男性となんら変わらなかった。異常なしだ。
........不思議なものだ。
悠馬は同性愛者ではない可能性が高い。水葉は失恋決定だ。もし、なんらかの方法で、異性愛者を同性愛者に変わらせることができたらと、恐ろしい案が水葉の脳裏に浮かぶ。
水葉は首を振って、自らの考えを振り払った。
夢というのは無意識にその人間が思っていることらしい。悠馬の夢の中で、蓮があの聖なる森の中で微笑んでいる。初めてできた友達だと思っていたのに、悠馬のその思いは蓮からの暴力で壊された。
目を覚ますと、悠馬の目から涙が零れ落ちていた。
ソファーから悠馬は身を起こす。今さらながら、今この星が爆破されてしまって、何もかも亡くなってしまったことが胸に届いた。
戸が叩かれ、向こう側から水葉の「悠馬さん、起きてますか?」という声が聞こえてきた。
「ああ」
悠馬が声あげると、すぐに水葉は部屋の中に入ってきた。
「これから地上に出て食料を買いに行こうと思います。悠馬さんはどうしますか?」
「俺も行く」
悠馬はソファーから立ち上がった。
地下の家の外に出ると、地上には草ひとつ生えていない荒涼とした大地が広がっていた。
「食料品がある施設まで行ってみましょう」
水葉が早歩きで歩き出す。慌てて後を、悠馬も追いかけた。
そこで水葉は油断をしていた。食料が集まる施設には、ガラの悪い人間が集まる可能性があるということを、水葉は忘れていた。
がらがらの白いドームの中は閑散としていた。室内には爆風で吹き飛んだ瓦礫が散らばっていた、
水葉と悠馬の周囲を複数の男と、少数の女が取り囲んだ。
「お前らどこから来た?」
顔に傷がある目つきの鋭い男が、水葉と悠馬に向かって問いかける。
「........なぜ見知らぬ他人にそれを言わなければならないんだ」
「水葉!」
傍若無人な水葉の言葉に、悠馬は肝を冷やす。
「おもしれぇ?お前綺麗な面をしてるし可愛がってやる」
男は中指を水葉に向かって突き出して見せる。男の周囲も卑猥な言葉を浴びせ、笑い声をあげる。
水葉の容姿は美しい。だから目をつけられてしまったのだろう。男の集団はいらだって様子で、水葉を物陰に連れて行こうとする。
悠馬は何とかせねばと、焦る。
一か八かだと悠馬は覚悟を決めて、悲鳴をあげて叫んだ。
「爆弾が爆発するぞ!!」
「はぁ?」
男の呆気にとられている顔。
「ここにも爆弾が仕掛けられたって、聞いたんだ!!」
まったくそんなことは聞いていないが、必死で悲痛な表情で悠馬は叫ぶ。
そんな悠馬につられたのか、女が甲高い悲鳴を上げる。
「う、嘘を言うな!!」
男の顔も白くなる。嘘だと思いつつも、トラウマがそれを邪魔をする。
「早く逃げるぞ!!」
悠馬は水葉に目を向け、合図する。水葉は駆け出した悠馬を追って、全速力で駆け出した。
「こらまて!!」
悠馬と水葉の後ろからは、男の怒声が聞こえる。
もちろん水葉と悠馬は立ち止まらなかった。周囲に銃声が鳴り響いた。
人けのないところまで来ると、水葉は立ち止まった。後ろを振り返ると、悠馬の腹からは血が広がっていた。
「悠馬さん!?」
慌てて水葉は悠馬に駆け寄った。
「なんか拳銃で腹を撃たれたみたいだ」
「すぐに医療室に向かいましょう」
「いや、その前にあの森に向かいたいな」
「あの森?」
「連れて行ってくれるか?」
「分かりました」
あの学園には医療室があるはずだった。
「直ぐに行きましょう」
悠馬の腕を肩に置くと、水葉は歩き出した。
そう早くあの森に向かわなければと、水葉は焦燥にも似た気持ちが沸き起こる。それと同時に鋭い頭痛が沸き起こる。
殺された遺体。
取り出された脳みそ。
移植された脳死の体。
事件、実験。
水葉の脳裏に次々と残虐な光景が浮かんでは消える。
水葉は聖なる森にたどり着くと、すべてを理解した。森に建てられた建物。そこには最新式医療ができる施設になっている。
水葉にかけられた暗示。それは悠馬が重体重篤になった時にのみ、暗示を解かれてすべてを思い出すようにできている。
すぐさま悠馬を医療室のベッドに横たえると、スキャンを開始し異物の特定、水葉は念のため悠馬の体を拘束し、麻酔針のスイッチを押す。すると管が降りてきて、自動で悠馬の腕に突き刺さった。
奇怪のプログラムを操作し、悠馬の腹の中に貫通した拳銃の弾を抜き出す。悠馬に輸血しなければならないのだが血液はないので、最新の造血剤を機械は悠馬の体内に送り込む。ここまでの間に悠馬の血圧鼓動は異常はなく、無事に手術を終えた。
蓮にかけられた暗示が解かれた水葉は、すべてを思い出していた。
悠馬の目から涙が流れ落ちる。
水葉はすべてを思い出した。俺は、蓮の脳そのものを移植された存在だ。暗示によって蓮の記憶は封印され、水葉という人格が生み出された。
.........そこで考える。水葉のもとに現れた蓮は一体なんだったのだろう?一番考えられるのは、暗示をかけられたクローン体かただの人間だ。........それか蓮自身で、もしかしてその後に水葉の脳が移植されたのか、分からない。なんと常軌を逸した行為だ。人の他人の命を何とも思っていない蓮の行為。水葉はそんな自分自身が嫌だった。けれども水葉は悠馬の傍にいたいと思った。
哀れな脳みそは、脳死した肉体にいれられた。
そんな実験は日常茶飯事だった。
新たな実験には三人のクローン体が使われた。
一人のクローンは脳を摘出され、
もう二人目のクローン体は肉体の機能を変えられ、
もう三人目のクローン体は保存された。
そのクローン体の元になった存在が、蓮だ。蓮は人類とはまったく新しい特徴をそなえていた。地球とは違う環境によってか育まれた新人類。旧人類は蓮の存在の出現によって、旧人類の淘汰を恐れた。だが蓮は新しい環境に生きていく者たちによって、環境に適合したかもしれない貴重な種だった。
だが蓮は優秀すぎた。
蓮を殺そうとするものが現れたことに気付いた。
どうでもよかったが、蓮には好きな人ができてしまった。蓮の好きな人は同性だった。人類は繁殖することだけに特化していたが、蓮にとってはどうでもよいことだった。蓮はその人を愛している。
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