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その十九
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「い」
宗次に押し倒されて、忍は強く畳に頭を打つ。
密着した宗次の体から、強烈な甘いムスクの香りが鼻をつく。
あらわにされた忍の首筋に、歯型が刻まれていることに宗次は気づく。かまれた傷は治りにくいのを宗次は知っていた。
「噛み跡なんて、いやらしいやっちゃ、忍君?」
噛み跡を見られたことがなんだか恥ずかしくて、忍の顔は赤くなる。
「そんな顔でおっちゃんを挑発しいやぁ、忍君。顔真っ赤かやで、かいらしなぁ。けどそんなかいらし顔すると、悪い奴に喰われてまうでー」
そういうと宗次はおもむろに、忍の首筋に己のとがった牙を、首筋に思い切り噛みつく。
「っ」
あまりの痛みに忍の視界は鮮血に染まる。
「い、いたい、やめてください」
宗次の下からでようと忍はもがくが、筋肉が付いた宗次の腕は鋼のように動かない。容赦なく宗次の歯は忍の首筋の奥深くに沈んでいく。
激痛に忍の目から涙がつたい落ちる。
宗次の唇が忍の首筋をはなれ、忍の胸につたっていく。強く吸い付くと、また痛い。
「ん!つ!!」
吐息交じりの忍はうめき声をもらす。忍にしてみればうめき声なのだが、なぜか忍の周辺の男たちは何故か熱気を帯びて、ぎらぎらした獣のような目で見ている。
目を細めて微笑んでいる宗次の顔もなんだか怖い。
気持ち悪い。そう感じて忍は眉を寄せる。その顔を見た宗次は含み笑いをし、また忍に口を近づけた瞬間、男の怒鳴り声とすさまじい物音が聞こえてくる。
「おらあああああああああ」
男の低い雄たけびとともに、なぜか忍の隣方向に黒いスーツ服を着た男が、空から降ってきた。
宗次は忍から離れて、入口方向をにこにこ笑顔で見ている。忍も起き上がりそちらの方向を見ると、そこにはなぜか傷だらけでぼろぼろの服を着た義嗣が立っていた。
「義嗣さん!?」
唖然とする忍に、義嗣はいつものぶっきらぼうな顔で、忍に向かって「よお」と声を上げた。
「どうしてここに?」
忍は呆然としていると、義嗣は呆気なく告げた。
「お前を迎えに来た。帰るぞ」
忍はなんだか泣きそうになって、顔を俯かせた。
宗次は持っていた扇を開いては閉じている。
「よお、義嗣、ご挨拶やなぁ、人の家に来るときはノックせなあかんで。礼儀知らずは尻百回叩きやで」
にこにこ朗らかな笑みで宗次は、義嗣に告げる。
「そいつは俺のもんだ。俺のものを勝手に手を出すな」
義嗣の宣言に忍の顔を真っ赤になって、またうつむく。なんだかうつむいてばかりだと、忍は自分のことが嫌になる。
「ほほう。忍君はあんさんのものなん?それはそれは知らんかったなぁ。まぁ、ええやろう。人のものはとったらあかんものなぁ」
「ああ」
悪びれない義嗣に、宗次の周囲の男が荒ぶり、詰め寄ろうと荒い声をあげるが、宗次は扇を床に叩いてやめさせる。
「お前ら、やめー」
「ですが」
宗次の側近の山曽根達人が声を荒げるが、「わしの言うことが聞こえんのか?お前らは」と表情が抜けた無表情で、宗次は山曽根を見つめる。山曽根は「いえ」といって、顔を俯ける。
宗次は義嗣の方にまた顔を向ける。
「おじきによろしゅうな、義嗣。わしのおじきに勝手においたした部下はお仕置きしておいたさかい。しかしなぁ、義嗣はん?礼儀やおきては必要や。調子に乗りすぎると血を見ることになるでぇ、気を付けてぇな」
宗次は笑顔だが目は全く笑っていない。
「ああ」
たいする義嗣は平然としている。平然としすぎているところに、忍は恐怖を感じる。
「帰るぞ」
義嗣は手を忍に向かって差し伸べる。
宗次は笑顔で忍に向かって、手を振っている。怖くて忍は目をそらし、義嗣と歩き出した。
「なんでのこのこ一番やっかいな男についていったんだ?」
義嗣から強烈な怒気を感じて、忍は視線を逸らす。なんだか義嗣が怖い。宗次を見た後だからか、猛烈に怖くなってくる。
自然と忍の体が震える。震えている忍の肩に、義嗣は着ていた上着を忍の上にかけた。
「まぁ、いい。帰るぞ」
「僕は、僕は義嗣さんにヤクザをやめてほしかったんです!!」
立ち止まり忍は義嗣に向かって言い募る。
「だからあの人に頼んだんです」
「ふざけるな」
低い低い義嗣の獣のような怒気の帯びた声。義嗣の顔が忍の間近に迫る。
「俺は俺が選んだ道だ。勝手にするんじゃねぇ」
「嫌です」
「そんなに犯されてぇなら、犯すぞ」
「義嗣さんなら、いいです!!」
男同士の性交をよく知らず、忍は負けじと叫んでいた。
「......」
呆気にとられていた義嗣は右手で目と額を覆い、ため息をつく。
「俺は堅気には手を出さねぇんだ。ヤクザ稼業はもうそろそろ手を引こうと思ってたんだ。もう勝手なことするなよ」
「はい!」
「その恰好じゃぁやばいから、俺の家に行くか。待ってろ今タクシー呼ぶから」
「はい。でもなんで義嗣さんはここに」
忍の質問に、義嗣はもう一度溜息をつく。
何故義嗣が忍のもとに駆け付けることができたのか?その話は少し時間をさかのぼる。
宗次に押し倒されて、忍は強く畳に頭を打つ。
密着した宗次の体から、強烈な甘いムスクの香りが鼻をつく。
あらわにされた忍の首筋に、歯型が刻まれていることに宗次は気づく。かまれた傷は治りにくいのを宗次は知っていた。
「噛み跡なんて、いやらしいやっちゃ、忍君?」
噛み跡を見られたことがなんだか恥ずかしくて、忍の顔は赤くなる。
「そんな顔でおっちゃんを挑発しいやぁ、忍君。顔真っ赤かやで、かいらしなぁ。けどそんなかいらし顔すると、悪い奴に喰われてまうでー」
そういうと宗次はおもむろに、忍の首筋に己のとがった牙を、首筋に思い切り噛みつく。
「っ」
あまりの痛みに忍の視界は鮮血に染まる。
「い、いたい、やめてください」
宗次の下からでようと忍はもがくが、筋肉が付いた宗次の腕は鋼のように動かない。容赦なく宗次の歯は忍の首筋の奥深くに沈んでいく。
激痛に忍の目から涙がつたい落ちる。
宗次の唇が忍の首筋をはなれ、忍の胸につたっていく。強く吸い付くと、また痛い。
「ん!つ!!」
吐息交じりの忍はうめき声をもらす。忍にしてみればうめき声なのだが、なぜか忍の周辺の男たちは何故か熱気を帯びて、ぎらぎらした獣のような目で見ている。
目を細めて微笑んでいる宗次の顔もなんだか怖い。
気持ち悪い。そう感じて忍は眉を寄せる。その顔を見た宗次は含み笑いをし、また忍に口を近づけた瞬間、男の怒鳴り声とすさまじい物音が聞こえてくる。
「おらあああああああああ」
男の低い雄たけびとともに、なぜか忍の隣方向に黒いスーツ服を着た男が、空から降ってきた。
宗次は忍から離れて、入口方向をにこにこ笑顔で見ている。忍も起き上がりそちらの方向を見ると、そこにはなぜか傷だらけでぼろぼろの服を着た義嗣が立っていた。
「義嗣さん!?」
唖然とする忍に、義嗣はいつものぶっきらぼうな顔で、忍に向かって「よお」と声を上げた。
「どうしてここに?」
忍は呆然としていると、義嗣は呆気なく告げた。
「お前を迎えに来た。帰るぞ」
忍はなんだか泣きそうになって、顔を俯かせた。
宗次は持っていた扇を開いては閉じている。
「よお、義嗣、ご挨拶やなぁ、人の家に来るときはノックせなあかんで。礼儀知らずは尻百回叩きやで」
にこにこ朗らかな笑みで宗次は、義嗣に告げる。
「そいつは俺のもんだ。俺のものを勝手に手を出すな」
義嗣の宣言に忍の顔を真っ赤になって、またうつむく。なんだかうつむいてばかりだと、忍は自分のことが嫌になる。
「ほほう。忍君はあんさんのものなん?それはそれは知らんかったなぁ。まぁ、ええやろう。人のものはとったらあかんものなぁ」
「ああ」
悪びれない義嗣に、宗次の周囲の男が荒ぶり、詰め寄ろうと荒い声をあげるが、宗次は扇を床に叩いてやめさせる。
「お前ら、やめー」
「ですが」
宗次の側近の山曽根達人が声を荒げるが、「わしの言うことが聞こえんのか?お前らは」と表情が抜けた無表情で、宗次は山曽根を見つめる。山曽根は「いえ」といって、顔を俯ける。
宗次は義嗣の方にまた顔を向ける。
「おじきによろしゅうな、義嗣。わしのおじきに勝手においたした部下はお仕置きしておいたさかい。しかしなぁ、義嗣はん?礼儀やおきては必要や。調子に乗りすぎると血を見ることになるでぇ、気を付けてぇな」
宗次は笑顔だが目は全く笑っていない。
「ああ」
たいする義嗣は平然としている。平然としすぎているところに、忍は恐怖を感じる。
「帰るぞ」
義嗣は手を忍に向かって差し伸べる。
宗次は笑顔で忍に向かって、手を振っている。怖くて忍は目をそらし、義嗣と歩き出した。
「なんでのこのこ一番やっかいな男についていったんだ?」
義嗣から強烈な怒気を感じて、忍は視線を逸らす。なんだか義嗣が怖い。宗次を見た後だからか、猛烈に怖くなってくる。
自然と忍の体が震える。震えている忍の肩に、義嗣は着ていた上着を忍の上にかけた。
「まぁ、いい。帰るぞ」
「僕は、僕は義嗣さんにヤクザをやめてほしかったんです!!」
立ち止まり忍は義嗣に向かって言い募る。
「だからあの人に頼んだんです」
「ふざけるな」
低い低い義嗣の獣のような怒気の帯びた声。義嗣の顔が忍の間近に迫る。
「俺は俺が選んだ道だ。勝手にするんじゃねぇ」
「嫌です」
「そんなに犯されてぇなら、犯すぞ」
「義嗣さんなら、いいです!!」
男同士の性交をよく知らず、忍は負けじと叫んでいた。
「......」
呆気にとられていた義嗣は右手で目と額を覆い、ため息をつく。
「俺は堅気には手を出さねぇんだ。ヤクザ稼業はもうそろそろ手を引こうと思ってたんだ。もう勝手なことするなよ」
「はい!」
「その恰好じゃぁやばいから、俺の家に行くか。待ってろ今タクシー呼ぶから」
「はい。でもなんで義嗣さんはここに」
忍の質問に、義嗣はもう一度溜息をつく。
何故義嗣が忍のもとに駆け付けることができたのか?その話は少し時間をさかのぼる。
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