25 / 34
その二十四
しおりを挟む
忍は一人家に帰る。忍の家の電話には弟からの留守電が、五十件くらい入っている。弟は心配性だからなと、忍はため息をついてピンクのカバのクッションぬいぐるみを抱きしめる。
なんだか口をよくぬぐう動作をやめることができない。
「疲れたなぁ」
ぽつりとつぶやいて、忍は目を閉じた。
ようやく休めそうなときに、忍の家のインターフォンが鳴る。
「はい?」
忍がドアを開けると、そこには見知らぬ男が二人並んで立っていた。
「佐々木忍さんですね。我々は後藤義嗣のお父様に依頼されて、やってきたものですが、一緒にご同行願えませんか?」
義嗣さんのお父さん!?
忍は同行してもいいが、もう疲れたし夜も遅い。
「あの、今からですか?」
「すぐ終わりますから」
男はそういうと、忍の腕をつかんで引っ張て行く。戸惑う忍をよそに、あっという間に忍は車の中にいた。
まさか誘拐じゃないよなと、忍は冷や汗をかいたのだった。
「ああん、ええわぁ♡」
若頭の島田宗次は浴衣の姿で寝転がり、背を舎弟の木下栄藏にもませていた。
「もっと強くしてもええで」
宗次はふぅと、息をつく。
木下は肘で宗次の腰をもみつつ、口を開く。
「しかしいいんですかい?義嗣をほうっておいて、舐められたと息巻いている奴らが大勢いますが」
「まぁ、ええやろう?どうせそのうち義嗣には消えてもらうしな」
「そのうち港の底ですか?」
「んー?もっと強くツボ押ししてぇな」
「はいはい」
「なるようになる。これが大事やで。どうせ義嗣はあの可愛い子ちゃんを放っておけずに自滅するやろうし」
「若はどうして義嗣が自滅するってわかるんですか?」
「だってそうやろう?義嗣の実の親父はあいつやで?この業界でも有名なえろう黒い奴や。そんな義嗣の父親がヤクザになって男の恋人までできそうな奴放っておくわけないやろう?それに義嗣はどちらにせよ邪魔な奴や。次期頭なんて冗談やない。そんなときは海の藻屑になってもらうしかないなぁ」
「もちろんです」
「まぁ、なんにせよ義嗣が、あのヤクザやめてほしい必死な忍ちゃんを放っておけやしないと思うしな」
にっこり宗次は佐々木忍のことを思い出して笑う。
佐々木忍が裸になって男とキスして押し倒されたビデオの映像は、何かに使えそうだと宗次の手の内にある。
「これから面白くなりそうや」
宗次は凶悪で邪悪な顔で笑った。
相変わらず強情な様子の義嗣に、久継はため息をつく。
「やくざなんかになって、お前は家族に迷惑をかけていると自覚があるのか?」
「悪かった」
「悪いと思っているのなら、さっさと家に帰ってこい」
「あそこは俺の場所じゃない。無理だ」
「とにかくお前の場所は空けてある。俺の片腕として働いてほしい」
「無理だ」
あっさり断る義嗣に、もう一度久継はため息を吐く。
「まぁ、いい。今日は父からお前にもう一つ伝言がある」
「なんだよ?」
嫌な予感に、義嗣は眉を顰める。
「これを」
久継は茶封筒を一つ義嗣に渡す。
「下手なことをすれば父はお前を殺すと言っていた。無駄な血を流すな。俺からは以上だ」
そう言い終えると久継は去っていった。
一人残った義嗣は、渡された茶封筒の中身を見る。
そこには見知らぬ着物を着た女のお見合い写真と、お見合い日時が書かれていた。
それを放り投げる。
義嗣は兄の久継が苦手だ。
昔故意ではないが、力加減ができず、義嗣は久継に怪我をさせてしまってから、妙な負い目がある。兄には悪いが、義嗣は家に戻るつもりは毛頭ない。
そのまま義嗣は酒を飲んで寝ることにした。
それから少しして義嗣が見たものは、ファクシミリで送られてきた忍と肩を組む義嗣の父親の高里の姿だった。義嗣はその写真を握りつぶし、慌てて父親がいる本社のビルとつながる実家に向かった。
義嗣は家の外に出て、油断していたためか、目の前に現れた若頭の島田宗次の弟分の八坂輝也に拳銃で撃たれた。
近くを通る女の悲鳴が響き渡った。
なんだか口をよくぬぐう動作をやめることができない。
「疲れたなぁ」
ぽつりとつぶやいて、忍は目を閉じた。
ようやく休めそうなときに、忍の家のインターフォンが鳴る。
「はい?」
忍がドアを開けると、そこには見知らぬ男が二人並んで立っていた。
「佐々木忍さんですね。我々は後藤義嗣のお父様に依頼されて、やってきたものですが、一緒にご同行願えませんか?」
義嗣さんのお父さん!?
忍は同行してもいいが、もう疲れたし夜も遅い。
「あの、今からですか?」
「すぐ終わりますから」
男はそういうと、忍の腕をつかんで引っ張て行く。戸惑う忍をよそに、あっという間に忍は車の中にいた。
まさか誘拐じゃないよなと、忍は冷や汗をかいたのだった。
「ああん、ええわぁ♡」
若頭の島田宗次は浴衣の姿で寝転がり、背を舎弟の木下栄藏にもませていた。
「もっと強くしてもええで」
宗次はふぅと、息をつく。
木下は肘で宗次の腰をもみつつ、口を開く。
「しかしいいんですかい?義嗣をほうっておいて、舐められたと息巻いている奴らが大勢いますが」
「まぁ、ええやろう?どうせそのうち義嗣には消えてもらうしな」
「そのうち港の底ですか?」
「んー?もっと強くツボ押ししてぇな」
「はいはい」
「なるようになる。これが大事やで。どうせ義嗣はあの可愛い子ちゃんを放っておけずに自滅するやろうし」
「若はどうして義嗣が自滅するってわかるんですか?」
「だってそうやろう?義嗣の実の親父はあいつやで?この業界でも有名なえろう黒い奴や。そんな義嗣の父親がヤクザになって男の恋人までできそうな奴放っておくわけないやろう?それに義嗣はどちらにせよ邪魔な奴や。次期頭なんて冗談やない。そんなときは海の藻屑になってもらうしかないなぁ」
「もちろんです」
「まぁ、なんにせよ義嗣が、あのヤクザやめてほしい必死な忍ちゃんを放っておけやしないと思うしな」
にっこり宗次は佐々木忍のことを思い出して笑う。
佐々木忍が裸になって男とキスして押し倒されたビデオの映像は、何かに使えそうだと宗次の手の内にある。
「これから面白くなりそうや」
宗次は凶悪で邪悪な顔で笑った。
相変わらず強情な様子の義嗣に、久継はため息をつく。
「やくざなんかになって、お前は家族に迷惑をかけていると自覚があるのか?」
「悪かった」
「悪いと思っているのなら、さっさと家に帰ってこい」
「あそこは俺の場所じゃない。無理だ」
「とにかくお前の場所は空けてある。俺の片腕として働いてほしい」
「無理だ」
あっさり断る義嗣に、もう一度久継はため息を吐く。
「まぁ、いい。今日は父からお前にもう一つ伝言がある」
「なんだよ?」
嫌な予感に、義嗣は眉を顰める。
「これを」
久継は茶封筒を一つ義嗣に渡す。
「下手なことをすれば父はお前を殺すと言っていた。無駄な血を流すな。俺からは以上だ」
そう言い終えると久継は去っていった。
一人残った義嗣は、渡された茶封筒の中身を見る。
そこには見知らぬ着物を着た女のお見合い写真と、お見合い日時が書かれていた。
それを放り投げる。
義嗣は兄の久継が苦手だ。
昔故意ではないが、力加減ができず、義嗣は久継に怪我をさせてしまってから、妙な負い目がある。兄には悪いが、義嗣は家に戻るつもりは毛頭ない。
そのまま義嗣は酒を飲んで寝ることにした。
それから少しして義嗣が見たものは、ファクシミリで送られてきた忍と肩を組む義嗣の父親の高里の姿だった。義嗣はその写真を握りつぶし、慌てて父親がいる本社のビルとつながる実家に向かった。
義嗣は家の外に出て、油断していたためか、目の前に現れた若頭の島田宗次の弟分の八坂輝也に拳銃で撃たれた。
近くを通る女の悲鳴が響き渡った。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる