雪桜

松井すき焼き

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その二十四

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忍は一人家に帰る。忍の家の電話には弟からの留守電が、五十件くらい入っている。弟は心配性だからなと、忍はため息をついてピンクのカバのクッションぬいぐるみを抱きしめる。

なんだか口をよくぬぐう動作をやめることができない。

「疲れたなぁ」

ぽつりとつぶやいて、忍は目を閉じた。

ようやく休めそうなときに、忍の家のインターフォンが鳴る。

「はい?」

忍がドアを開けると、そこには見知らぬ男が二人並んで立っていた。

「佐々木忍さんですね。我々は後藤義嗣のお父様に依頼されて、やってきたものですが、一緒にご同行願えませんか?」

義嗣さんのお父さん!?

忍は同行してもいいが、もう疲れたし夜も遅い。

「あの、今からですか?」

「すぐ終わりますから」

男はそういうと、忍の腕をつかんで引っ張て行く。戸惑う忍をよそに、あっという間に忍は車の中にいた。

まさか誘拐じゃないよなと、忍は冷や汗をかいたのだった。



「ああん、ええわぁ♡」

若頭の島田宗次は浴衣の姿で寝転がり、背を舎弟の木下栄藏にもませていた。

「もっと強くしてもええで」

宗次はふぅと、息をつく。

木下は肘で宗次の腰をもみつつ、口を開く。

「しかしいいんですかい?義嗣をほうっておいて、舐められたと息巻いている奴らが大勢いますが」

「まぁ、ええやろう?どうせそのうち義嗣には消えてもらうしな」

「そのうち港の底ですか?」

「んー?もっと強くツボ押ししてぇな」

「はいはい」

「なるようになる。これが大事やで。どうせ義嗣はあの可愛い子ちゃんを放っておけずに自滅するやろうし」

「若はどうして義嗣が自滅するってわかるんですか?」

「だってそうやろう?義嗣の実の親父はあいつやで?この業界でも有名なえろう黒い奴や。そんな義嗣の父親がヤクザになって男の恋人までできそうな奴放っておくわけないやろう?それに義嗣はどちらにせよ邪魔な奴や。次期頭なんて冗談やない。そんなときは海の藻屑になってもらうしかないなぁ」

「もちろんです」

「まぁ、なんにせよ義嗣が、あのヤクザやめてほしい必死な忍ちゃんを放っておけやしないと思うしな」

にっこり宗次は佐々木忍のことを思い出して笑う。

佐々木忍が裸になって男とキスして押し倒されたビデオの映像は、何かに使えそうだと宗次の手の内にある。

「これから面白くなりそうや」

宗次は凶悪で邪悪な顔で笑った。





相変わらず強情な様子の義嗣に、久継はため息をつく。

「やくざなんかになって、お前は家族に迷惑をかけていると自覚があるのか?」

「悪かった」

「悪いと思っているのなら、さっさと家に帰ってこい」

「あそこは俺の場所じゃない。無理だ」

「とにかくお前の場所は空けてある。俺の片腕として働いてほしい」

「無理だ」

あっさり断る義嗣に、もう一度久継はため息を吐く。

「まぁ、いい。今日は父からお前にもう一つ伝言がある」

「なんだよ?」

嫌な予感に、義嗣は眉を顰める。

「これを」

久継は茶封筒を一つ義嗣に渡す。

「下手なことをすれば父はお前を殺すと言っていた。無駄な血を流すな。俺からは以上だ」

そう言い終えると久継は去っていった。

一人残った義嗣は、渡された茶封筒の中身を見る。

そこには見知らぬ着物を着た女のお見合い写真と、お見合い日時が書かれていた。

それを放り投げる。



義嗣は兄の久継が苦手だ。

昔故意ではないが、力加減ができず、義嗣は久継に怪我をさせてしまってから、妙な負い目がある。兄には悪いが、義嗣は家に戻るつもりは毛頭ない。

そのまま義嗣は酒を飲んで寝ることにした。



 それから少しして義嗣が見たものは、ファクシミリで送られてきた忍と肩を組む義嗣の父親の高里の姿だった。義嗣はその写真を握りつぶし、慌てて父親がいる本社のビルとつながる実家に向かった。



義嗣は家の外に出て、油断していたためか、目の前に現れた若頭の島田宗次の弟分の八坂輝也に拳銃で撃たれた。

近くを通る女の悲鳴が響き渡った。

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