記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。(多分)

松井すき焼き

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幕間 とある町の少年の話。その一

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獣人と人間には隔たりというか、差別がある。

街のスラム街に住むスペルたちの間で、仮面をかぶった人間が化け物の獣人の家にいると話題になっていた。
「獣人はバケモノだから近づいちゃいけないよ!」と、母ちゃんはいつでもスペルに言っている。
近づいちゃいけないよと言われると近づきたくなるのが子供である。スペルは仲間を集めてバケモノ退治と称して、獣人退治と仮面の悪者を見に行ってやろうということになった。
この一帯でも幅を利かせていると思っているスペル達は笑いながら家の前を箒ではく仮面人間を見ると、石を一斉に仮面人間に投げつける。
仮面人間は「こらー!」と怒っている。スペル達は笑って逃げた。

ある日スペルの母親は呆然といった顔で家に帰ってきた。
「どうした?母ちゃん」
そう父ちゃんが心配すると、母ちゃんはゆっくり話し始めた。
「この辺りの溝掃除に参加してほしいってあの獣人の家にいってきたんだけど」
「なんでそんなことをした?獣人なんかと話したら何されるかわからんぞ」と父ちゃんは不機嫌そうだ。
「けどさ、あそこ仮面付けた人間がいるでしょ?一応人間がいるなら溝掃除手伝ってもらわなきゃ。ただでさえ、人手が足りないのに」
「仮面?犯罪者か何かだから顔を隠してんだろう?危ないぞ」
「そうだから、私たち主婦仲間で行ってみたんだ。スペル達を守るためにもあの、仮面人間がどういう人間か気になるだろう?」
「お前たちだけだと危ないだろう?俺もついていった方がいい」
「ありがとうダーリン♡」
母ちゃんと父ちゃんは子供の前だというのに口づけを交わす。
スペルは眉にしわを寄せて、顔をそらす。
「それでさ、あの仮面人間、私たちに何したと思う?なんと、私らになんかドライフルーツ自家製ですっていってさ。もちろんあたしら警戒して食べなかったんだけど、主婦仲間のカナンが食べたらさ、おいしいっていったもんで、あたしらも食べたらそのドライフルーツ、シラカの粉が振りかけてあってさ、すんごくおいしかったんだ。それで主婦仲間ともう一度仮面人間に会いに行ってその変わったドライフルーツの作り方を教えてほしいって言ったら、いいですっていって作り方教えてくれたんだ。なんかあたしらにお茶となんか異様においしいスナック出してくれてさ。
あれはトウ粉を練って薄く伸ばしたものだね」
いつも母ちゃんの話は長い。父ちゃんは意識を遠くに飛ばしているのが見える。
「ちょっとあんた聞いてる?」
とかいって母ちゃんに父ちゃんはしばかれていた。
「聞いてる。聞いてる。それで?」
「その仮面男が作っていたお菓子がこれだよ」
母ちゃんはテーブルの上に、なにか干されて干からびたフルーツに白い粉がかかったものと、なにか薄いスナックがテーブルに置かれた。
恐る恐る家族は生唾を飲み込み、そのお菓子に手を伸ばした。
それはものすごく美味しかった。
こんなんで懐柔されないぞ!と、スペルは仮面男の素顔を暴いてやろうと、燃えていた。

「俺もうあの獣人の家に行かない」
スペルの友達のキンタルがそういう。
「なんでだよ!!」
スペルが問い詰めると、キンタルは「母さんがあいつの料理がおいしいし、いい人だからよくするようにって言ったんだよな」
「お前のかあさん騙されてんだよ!」
「うー。でも母さん怒らせたら怖いからやめた。それに今木の弾きにはまってるし、もういいや」とキンタルは去っていく。
木の弾きとは丸い木の塊をぶつけ合い弾いて勝敗を決めるゲームだ。今スラムの子供たちの間ではやっていた。
「俺は諦めないからな!獣人と仮面人間を退治してやる!!」
そうスペル達は盛り上がって、獣人の家に向かう。

この時間帯はいつも仮面人間は家の前を箒ではいている。その姿を見たスペル達はほくそ笑み、石を投げつけようとしたその時、スペルの背後からぞっとするような冷たい声が聞こえてくる。
「お前ら何をしている」
スペルが振り向くと、そこには白い狼の獣人の男が立っていた。
「うわぁああああああああああ!!!」
スペルを置いて友達みんなが走って逃げていく。
殺される!!殺される!!
怯えたスペルはその場で腰を抜かしてしょんべんを漏らす。
獣人だけでも怖いのに、あの仮面人間まで何かを話しながらスペルの元へと走り寄ってくる。
「うわぁあああああああああああ」
極限におびえたスペルは手当たり次第に砂やそこらに落ちていた岩やらをつかみ、獣人や仮面男に投げつける。
「やめろ馬鹿!!」
獣人の声。
「大丈夫?」
そして柔らかな初めてスペルがきく声。
目を開けるとそこには仮面が地面に落ちて、頬から血を流す美しい人間がいた。
スペルはあんぐり口を開けて、その人間を見上げた。
その人間は心配そうにスペルを見ている。
「仮面付けているから怖いかもしれないけど、一応人間だよ」
そういって素顔をさらした仮面人間は微笑んだ。

それから腰を抜かして立てないスペルのために、スペルの母ちゃんを獣人は連れてきてくれる。
事情を獣人から聞いたらしい。スペルは母ちゃんに叩かれた。

それ以降スペルはその獣人の家に通うようになり、その家の獣人の子供のソルとシルカと仲良くなった。
仮面人間もとい、アルは「仮面下のことは内緒にしてほしい。よろしく」といったので、スペルはもちろん友達には話していない。
話していない理由はあいつらはスペルを置いて逃げた薄情人間だからと、こんなおいしい料理をだす綺麗な人間を独占したような、新しい秘密基地を発見した。そんなような気持だったからだった。
     
          おわり。



    シラカ粉はココナッツに似ている味のもので、アルはシラカ粉をココナッツ粉だと思っている。
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