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第11話 狼の子育て
しおりを挟む「アル!うまく背中かけない!早く来て!」
ソルがいう。
「はいはい」
アルは料理の手を止めて、にこにこしながら寝そべるソルの背中をかく。
「アル!頭かゆい、なでて」
「はい」
アルはにこにこもふもふのソルのかわゆい頭をなでる。
アルが料理を作っていると、アルの隣に立ってソルはアルに寄り掛かる。その様子を見ていたソニアは眉間にしわを寄せて、頭を抱える。
「ソル。お前、アルに甘えすぎだ」
「え?シルカだって同じことやってる」
ソルはシルカの方を見る。シルカはアルの服をあむあむ噛みついている。
「シルカはまだ甘えてもいい年だ。お前はもう九才だろう」
ソニアの言葉に、ソルは俯く。
「アル、お前もいちいちソルに反応するな。甘やかすな」
「え、でも」
「いいな?」
有無を言わさないソニアに、ソルは牙をむく。
「兄ちゃんの馬鹿!いつも兄ちゃんいないくせに!大嫌いだ!!」
走ってソルは外に出て行ってしまう。
「追いかけてくる」
ソニアもソルを追いかけ、外に出ていく。
残されたアルは、シルカの頭をなでた。
ソルは鼻水をたらしながら泣いていた。
「ここにいたのか」
ソルは家の近くの草むらに屈んでいた。
「兄ちゃん、嫌い」
「ソル。お前には強い男になってほしい」
ソニアはソルの頭に手を置く。
「強い男ってんだよ!俺はそんなの知らない!!」
「とにかくここは危険だ帰るぞ」
ソニアは強引にソルを担ぎ上げて、家に帰ることにした。
家に帰ってきたソルは泣き疲れて寝てしまった。最後までソニアの方を見なかった。部屋を出たソニアに、アルは「お茶でもいかがですか?」と笑顔で言った。その笑みになんだかほっとして、ソニアは苦笑いを浮かべる。
「ソルのことはいえんな」
「ソニアさん?」
「いや、なんでもない」
自嘲気味に笑うソニアの顔に、アルは疲れを見て取ったのだった。
アルはずっと気になっていたことを、ソニアに聞くことにした。
「ソル君とシルカちゃんとソニアさんのご両親は今どうしているんですか?」
「両親は俺たちを捨てて、どこかに行ってしまった。俺は必死に生きようと狼の群れにいたんだが、俺らをごみのようにあつかうので、嫌になってこのスラムにやってきたんだ。ソルやシルカには寂しい想いをさせている。
俺の周りの狼もろくな奴がいなかった。ソルやシルカをまっとうに育ててやりたいと、思っているんだが、正直分からないんだ。俺はろくに親に愛されたことがないからな。自信がない。だから焦っている」
「私も記憶がないので何とも言いようがないんですけど、私も子育てはわかりません。不安ですよね」
「……そうだな」
ソニアは豆茶にうつる自らの顔を見つめる。
「ソル君が時々子供がえりしているように思います。両親がいない反動なんですかね」
「そうか」
「寂しい想いをさせたくないと思います。ソル君にもシルカちゃんにも。私は甘やかしたいと思います。だから私は甘やかすので、やりすぎたと思ったら、ソニアさんが止めてください」
「わかった」
「それでも甘やかしますが」
「そうか」
苦々しく優しくソニアは微笑む。
「色んな人の子育て話聞きたいですね」
「そうだな」
それから朝を迎えると、仕事に行くソニアの後ろ姿を隠れて見送るソルの姿が見えて、アルは微笑んだ。
「おはよう、ソル君」
こくりとソルは頷く。そんなソルの頭をアルはなでようとして、ソルにその手を跳ね除けられた。
「俺は子供じゃねぇ!気安く触んな!ソニア兄ちゃんみたいな、俺は気高いオオカミだ」
そういうソルに、アルは微笑んだ。
「毛がかゆくなったら、ソニアさんに隠れて掻いてあげるからね」
そうアルが小声でいうと、ソルはこっくり頷いたのだった。
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