記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。(多分)

松井すき焼き

文字の大きさ
14 / 172

第12話 初仕事と買い物に行くのこと

しおりを挟む

朝ご飯の準備をしているアルのもとに、ソニアがやってきて言う。
「これ受け取ってくれ」
ソニアがアルに手渡したものは、なんかわからない紙切れ二枚だった。
「なんですこれ?」
「金だ」
「え?」
「少ないが受け取ってくれ」
「ウ、受け取れませんよ!」
「何故だ?」
「だって、食費だってなにも払ってないし」
「お前は子守も家事もよくやってくれている。少ないくらいだ。それで今日アルの身の回りの物でも好きなものでも買え」
「で、でも」
ソニアは教会に寄付とか何かと最近出費が多いのに。
「洋服も俺の着回しでサイズがあってないだろう?好きな洋服でも何でも買え。まぁ、買うには金額は少ないが。それにアル、お前に仕事が舞い込んだぞ」
「え。仕事?」
「そうだ。今度礼で俺の冒険仲間たち集めて、料理をふるまうことになった。食費はカンパでぶんどってきたから、料理の食材も買ってくれ」
これが食材費だと、ソニアは袋を一つアルに手渡す。
「は、はい」
「安い食材かって、余った金は手間賃代わりに受け取っておけ。いやか?」
「イ、 嫌じゃないです!」
「そ、そうか」
詰め寄って叫ぶアルに、ソニアは戸惑ったようだった。
こうして今日はアルとソニアは買い物に行くことになった。

ソルやシルカも一緒に行こうかとアルは言ったのだが、三人では守りきれないとのソニアの言葉で、ソルとシルカはお留守番となった。
ソルとシルカは泣きながら駄々をこねていたが、ソニアの「お前たちは家にいて、今日は家を守ってくれ」という言葉と、アルの「お土産何がいい?」という言葉でおとなしくなった。
留守番になるソルとシルカに不安になったが、ソニアは「ソルとシルカは利口だ。お前たち俺たち出かけるから、留守を頼むぞ。誰が来ても今日は無視して部屋を出るな。全員敵だと思うんだ」そういうと、シルカとソルはこっくりと真剣な目で頷く。
「すぐ戻るからね。お土産買ってくるから」
そうアルが言うと、子供たちが嬉しそうに目を輝かせて歓声を上げた。
ソニアとアルは「いってきます」と言って外に出る。

初めてアルは街を出歩くので、わくわくしていた。仮面をしているアルを、ちらりと周囲の人は見ていく。
「やはり仮面姿って目立つんですかね?」
「いや、そんなことはない。よく仮面をつけている奴はいる。顔を隠したいやつとか、病気の時に疫病の神に連れていかれないようにと、厄除けでよく仮面をつける。見てみろ。仮面をつけている奴、少しいるだろう?」
見ると華やかなピンクや白や黄色といった鮮やか色の仮面をしている人間がいる。綺麗な仮面だなと、アルは感動する。
「綺麗ですね」
「仮面の配色にもいろいろな意味がある」
アルがしている仮面は白を基調にして、目元に朱色になっている。自分の仮面を触っていると、ソニアはそれに気づく。
「その仮面には家内安全健康運という意味がある」
アルの視線に気づいたソニアは気まずそうに、アルから目をそらす。照れているらしいソニアに、アルは微笑んだ。
「この仮面気に入ってます。ありがとう、ソニアさん」
「いや、いいんだ」
「そういえば、ジルさんって、ソニアさんのこと、ソニアラニアって呼んでますよね?」
「ああ、エルフの言葉で、名前の下に愛称の意味でラニアってつけるんだ。まぁ、……俺の場合はそれが本名なんだがな」
「ええ!?そうなんですか?」
ソニアではなく、ソニアラニアが本名。
本気で驚く。
「ああ。だがまぁ、ソニアって呼んでほしい。あまり本名気に入っていないんだ」
「分かりました」
スラムの街は見渡すと道端に薄汚れた人や、ぼろぼろの獣人の子が一人で座っていたりする。それを見ていると、アルは悲しくなる。
アルは偶然拾われただけで、道端にいつ座っていてもおかしくない。

「ソニアさん、ちょっとごめんなさい!」
ソニアの元からアルははなれて走り出し、路上に素足で座り込んでいる茶髪と獣の耳が付いた幼い少女のもとに近づく。
少女はぐったりした様子で、石を積み重ねてできた建物の壁に寄り掛かっている。
「あの、大丈夫?」
アルが声をかけると、少女は一度目を開けて、またすぐに目を閉じてしまう。
「これどうぞ」
アルはおやつ用に持ち歩いているドライフルーツの紙袋を、少女に手渡す。少女はきょとんとした様子で、アルのことを見ていた。
「それフルーツを干した食べ物だよ。おいしいよ」
まじまじと少女は紙袋の中を見ている。
「何か困ったことがあったらカタリ神父がいる教会に行くといいですよ」
そういうとアルは手を振り、ソニアの方へと戻った。

ソニアはアルを見る。
「すみません。お待たせしました!」
「いや」
ソニアは手を伸ばすと、アルの頭をなでた。
「救える命は限度がある。全部は助けられない。わかっているか?」
「はい」
「そうか」
「自分の目につく範囲で、自分のできることはしたいんです」
「そうか。それなら俺も手伝おう」
そう言ってくれたソニアがうれしくて、アルは大きな声で「はい!!」と叫んだ。
そうしてアルとソニアは歩き出した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…

アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。 そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!

美醜逆転世界の学園に戻ったおっさんは気付かない

仙道
ファンタジー
柴田宏(しばたひろし)は学生時代から不細工といじめられ、ニートになった。 トラックにはねられ転移した先は美醜が逆転した現実世界。 しかも体は学生に戻っていたため、仕方なく学校に行くことに。 先輩、同級生、後輩でハーレムを作ってしまう。

【完結】男の美醜が逆転した世界で私は貴方に恋をした

梅干しおにぎり
恋愛
私の感覚は間違っていなかった。貴方の格好良さは私にしか分からない。 過去の作品の加筆修正版です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私

恋愛
私の名前は如月美夕。 27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。 私は都内で独り暮らし。 風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。 転移した世界は美醜逆転?? こんな地味な丸顔が絶世の美女。 私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。 このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。 ※ゆるゆるな設定です ※ご都合主義 ※感想欄はほとんど公開してます。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

処理中です...