記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。(多分)

松井すき焼き

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第24話 途中の一幕、家族の話

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ジルがアルの口元ばかり見るのを、気づいていた。ジルも寂しいのかもしれないと、思う。

 久々のソニアとの二人きりだ。ソニアのふわふわの白い犬耳を見る。
「犯罪奴隷ってでも、なんか怖いですよね」
「そうだな。人を殺すのも辞さない奴が一人欲しい。後は人を募集したらいいんじゃないか?それに」
「それに?」
「すぐに人が来なければ、アルが倒れそうだからな」
や、優しい狼だなぁと、ソニアをみてつくづく思うアルなのでした。
「ありがとうございます」
「家族のことだ。当たり前だろう」

家族。家族。ソニアの言葉が胸にしみいる。蝉ではなく。本当に。何か泣きたくなるような、嬉しいような。
「あの」
「なんだ?」
「もし私がびっくりするぐらい不細工だったらどうしますか?」
「なんだ?俺だって不細工だろう?」
「私から見たらソニアさんは、もうびっくりするくらいワイルドなイケメンなんですって!もし私がソニアさんから見たら、本当に不細工だったらどうしますか?……嫌いになりますか?」
「基本俺は人の匂いでしか判断しないからな。人の姿かたちで全部判断するということはないな。もしアルが姿かたち変わっても、匂いで見つけ出してやるから、安心しろ」

匂いフェチということだろうか?
なんだか嬉しくなって、ソニアの厚い筋肉質な肩に寄り掛かる。
ソニアは少し照れ臭そうにして、アルの体を押し戻そうとするので、アルはソニアの腕を抱きしめて、貼りついた。
「オス同士くっついていると、縄張り争いの時に負けるぞ」
「狼あるあるなんですか?縄張りに負けるとか」
「ああ。オス同士のなかでは下剋上は当たり前だからな。親しくしすぎて噛まれてグループ内の順位がさがるなんぞ、日常茶飯事だ」
「大丈夫ですよ、私はソニアさんのこと噛みませんし、下剋上狙ってませんし、オオカミ大好きですから」
「何の話をしている?」
ソニアさんは顔を手で覆ってしまわれた。
尻尾をみると横に振られているので、どうやら怒っていないようだと、安心した。

「そういや、猫獣人の人が、人の姿から大きなネコの姿になったんですよね。獣人の人って、人の姿から動物の姿に変身できるものなんですか?」
「魔力の強いものはよく人の姿になるな。獣人は魔力がないやつは、中途半端に人の姿になる」
アルの脳裏に黒豹の顔をした男が思い浮かぶ。
「そうすると、ソニアさんは魔力が強いんですか?」
「さぁな。自分でもよくわからん」
「へぇ」
内心ソニアの大きな狼姿を見たいと思ったアルなのだった。

 しばらく歩いて開いた露店が連なる大通りに出ると、やはり道端にはぼろぼろの人が座り込んでいる。
「食べれない人とかに炊き出しとかあるんですかね?」
「カタリの教会では時々炊き出しがあるぞ。だがこの不景気だ。そんなに頻繁にはない」
「カタリさんの教会って、人間専門なんですよね?獣人の人にはないんでしょうか?」
「聞いたことはない」
「なんとか炊き出しを出すことはできないんでしょうか」
 脳裏にはぼろぼろで座り込んでいたライの姿が思い浮かぶ。
「一人ではできない」
「寄付を募って、炊き出しをやりましょう」
「そうだな」
「私頑張って働きますから!私もお金出します。皆が幸せに暮らせるのなら、もっと社会が発展して、私も幸せに暮らせるようになると思うんです。拾って貰った私が言うのもおこがましいですが、死にかけている人放っておけませんし」

ソニアさんは無言で頭をなでてくれた。
ソニアさんの頭なでなでは、ぐりぐりというかんじて少し痛いのだった。

「俺も手伝ってやる。一応家族だからな」
「ありがとう、ソニアさん」
やはりソニアさんはもふりたい。
ソニアを見ていてそう思った。
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