記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。（多分）

第27話 おうちに帰ろう

店を出ると、道を歩きながらアルは考えていた。

月見草？月見草って漢字で書くのだろうか？
いや。この世界に漢字ってあるのだろうか？
この世界って？

「アル？」
ソニアの心配そうな声で、我に返る。
「そ、ソニアさん」
「どうした？急に立ち止まって、体調でも悪いのか？」
「大丈夫です。何か思い出しそうになって」
「……そうか」

ソニアの隣で背の高い犯罪奴隷さんは、ずっとぶつぶつ呟いている。廃人という感じだ。
お店で教えてもらった、この犯罪奴隷さんの名前はルナルというらしい。白狐の獣人さんらしい。
万引きの常習犯だということだ。
「すみません」
「アルはもし記憶を思い出したら、うちを出ていきたいか？」

ソニアの言葉に驚く。
急に何を言い出すのだろう？ソニアの澄んだ瞳を、アルは見返す。

「わかりませんが、できたらソニアさんの家にいたいとおもいます」
そういったらソニアに引き寄せられ、アルは抱きしめられた。
「ずっといてもいいんだぞ」
「ありがとう、ソニアさん」
ソニアさんの体温は暖かくて、日向の匂いがする。
ソニアの体はすぐさま離れていった。

女同士男同士、警戒しないでもっと抱き合ったら、いろいろわかることもあるのかもなと、アルは思う。
恋愛にしろ友情にしろ、動物と人みたいな、人と人の触れ合いによって、言葉にしないでもわかることもあると思う。

「そういえば、あの奴隷商に、ソニアさんの知り合いがいたんですよね？」
「ああ、あいつか」
眉にしわを寄せ、ソニアさんは珍しく嫌な顔をしたのだ。
「何かあったんですか？言いたくないのなら、無理には聞きませんが」
「あいつは、嫌いだ。あいつとは同じ群れにいたんだが」

オオカミの群れか。見てみたいと思う。

「とにかく弱い奴はすぐ蹴落とそうとするし、卑劣な手ばかりする嫌な奴だった。あいつを野放しにすると、不幸になる人間が大勢出るだろうな」
「そ、そうですか」
おっかない狼さんだ。
「さぁ、早く帰ろう。お土産になにか焼き肉でも買っていくか」
「そうですね」
にっこり微笑み、ソニアと帰りがけにお店を色々見るのは楽しかった。