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第三十一話 新しいお友達はまた兄妹。
しおりを挟む「ここではなんですからなかへどうぞ。暖かいお茶いれますね」
立ち話もなんですからと、アルは室内にヨハナ達を招いた。
「暖かい」
ヨハナは自分の肩を抱いて、少し感極まったように瞳を潤ませ、俯く。
「母さん、よかったね」
顔を上げて頬を真っ赤にして喜ぶウノリに、ヨハナは頷く。
「悪いんだけど、私たち朝ごはん食べてないの。少し何かいただけるかしら?」
「あまりおいしくはないかもしれませんが」
今日の朝ごはんは、貝と魚のスープにパンとサラダといった定番のものを予定している。
「悪いわね。私場末の酒場で給仕してたんだけど、赤ん坊ができたとたん首になっちまって困ってたんだ」
「あの、スノーリーさんは?」
「あの人は意地になっちまって、だめ。自分でどうにかするって聞かないの。言葉汚くてごめんね。これがあたいの地なの。人の前では淑女ぶってんだけど」
ヨハナさんはため息を吐く。
「そうですか」
「あ、アル!そいつだれ?」
目を輝かせてソルが尻尾振ってやってきた。結構人見知りするシルカはソルの背後に隠れている。
ソルを見たウノリは慌てて、ヨハナの後ろに隠れる。
「新しいお友達だよ。男の子はウノリ君。こちらの女性はウノリ君のお母さんのヨハナさん。仲良くしてあげてね」
とソルとシルカに向かって言う。
昔は人間に対して警戒していたソル君も、スペル君のおかげで随分友好的になったものだ。
今度はヨハナさんの後ろに隠れているウノリ君に、視線を向ける。
「ウノリ君、あの子はソニアさんの弟のソル君と、妹のシルカちゃんだよ。年齢は同じくらいかな?よろしくね」
「へぇー。獣人の子供なんて近くで見たのは初めて。なかなかかわいいもんだ。よろしくな、あたいはヨハナ。うちの子と仲良くしてやってよ」
「遊んでやってもいいぜ!」
となぜか胸張って答えるソル君。
「こら、上から目線しないの。可愛いんだから」
そうアルがにこにこしていると、ヨハナが呆れた顔で見ているのを気づく。恥ずかしい。
皆で朝ごはん食べることになった。
ヨハナがスープを飲みながら、涙を流している。
「ど、どうしました!?やはりまずかったですか!!」
心の底ではあんまりおいしくないと思っているアルは慌てた。
「違うの。おいしくて、暖かい」
「お、お母さん」
ウノリ少年は不安そうにヨハナを見ながら、けほけほ咳き込んでいる。
ヨハナはウノリの背中をなでた。
「この子肺を痛めているようで、薬飲み続けなきゃいけないの。家があんなにぼろで寒くちゃ、この子死んじまう。薬を買うお金もないし。お願い!私たちをこの家においてほしい。頑張って働くから!」
置いてあげたいのはやまやまだが、この家はそんなに広くない。どうしたもんかと、ソニアの方にアルは視線を向ける。
「あのス、いや、スノーリーはどうして今日はここに来てないんだ?」
ソニアの言葉に、ヨハナはため息をつく。
「あの人は一発逆転をする、お前たちをすぐに楽にしてやるからって、朝からどこかにいっちまったよ。あの人意地っ張りで頑固だから、人に頼るってことができないの。困ったもんさ」
ヨハナさんはそう話すと、胸元に抱いていた赤ちゃんをあやす。
厄介なことになってないかと、アルは心配する。
「一部屋だけ今空いている。そこは仕事でつかっている部屋だ。ずっとは貸せないが、働いて給料が出るまでそこにいるといい」
ソニアさんの提案に、ヨハナさんは飛び上がる。
「本当!?ありがとう!」
「だが一つ問題がある」
「問題?」
いぶかし気にヨハナは眉を寄せる。
「その部屋はあまり広くはない。」
「そんなの!全然いいわよ!ありがとう、ソニアさん。あんたいい狼だね」
ヨハナさんは嬉しそうだ。そう。ソニアさんはいい狼なのだ。アルの鼻は高々となる。自慢気なアルに、ジルの呆れた視線が突き刺さった。
なんとかなったが、(スノーリーさんはなんとか見つけ出さないといけないが)、後の問題は帰ってこないレオン君のお父さんの居場所だった。
心労で疲れた。
ぐったりするアルなのだった。
余談だが、その後ヨハナさんに長女だという赤ん坊の名前を教えてもらった。
赤ん坊はミミナといいう名前だそうだ。
朝ご飯を食べた後、ぼんやりアル手作りの積み木をしているレオンの小さな黒い頭をなでる。
「アル先生、僕ここにずっといたい。お父さん嫌い。もういい」
レオン君はそういうと、物悲しげな顔になって俯いた。
「お父さんいつもいつも仕事で僕と遊んでくれないんだもん。もういい」
そう言って泣いているレオンの小さな体を、アルは抱きしめた。
きっとお父さん迎えに来るよと、心の中で言うが、それを口に出して言うことはしなかった。
レオンの黒狐お父さんのジャファールさんの勤め先は聞いている。このスラムでも一二を争うでかい工場だ。
アルは一度その工場へと行こうと、ソニアと話し合っていると、ジルは不機嫌そうに鼻を鳴らしていった。
「探してどうするつもりですか?その父親はあの子供を捨てたかもしれないのに」
「けど一応話して事情をきかないと」
「そうだな。一度行ってみるか」
穏やかなソニアを見ていると、アルはなんだか申し訳なく思う。
「でもソニアさん冒険の仕事ありますよね?」
「大丈夫だ。一日ぐらい。それに人でも増えたから、少しはアルは楽になるだろう」
「すいません」
「なぜ、謝る」
「いえ、なんかその、巻き込んでしまっているような」
「毎回言っているが、俺の意思でやっているだけだ」
「いいわけないでしょうが!自分のことは自分でしりぬぐいできるようになってから、やったらどうですか?」
とジルが言う。
ジルさんの言うことは最もだと、アルは俯く。
「一人ではゆっくり行けるようになればいい。俺でさえこのスラムは時々襲われたりして死にそうになることはあるからな」
「は、はい!」
すごく強そうなソニアですら、このスラムは死にそうになるのかと、ぞっとする。
「甘い」
「そうか?」
「あの、レオン君のお父さんに会いに行くついでに、ルナルさんの精神安定剤と、ウノリ君の薬をついでに買いに行きたいんですが」
このタイミングで言いにくいが、どうしても気になるのでいう。
すると、ジルはため息をつきながら言う。
「あのウノリとかいう子供なら、私の回復魔法で直るかもしれません。分割払いの食料でやってもいいですよ」
そういうので思わずアルは、ジルに抱き着いた。そして、ジルにアルは頭を叩かれて、体をはなす。
痛いが嬉しい。
思わず抱き着くのはよくない。
「すいません」と言いながら。アルはにまにまジルの顔を見ると、ジルは鼻を鳴らして顔をそらした。
優しいエルフだなと、嬉しくなる。
その後すぐにジルにウノリに回復魔法をかけてもらったのだが、少しは良くなったのだが、すぐにウノリはまた咳き込んでしまう。
ジルによるともともとウノリは生まれつき肺系統が弱いのではないかという話だった。
ジルさんが言うには、医者ではないから詳しくはわからないが、血を吐くなどがないようなら、空気がいい所に行くか、薬を飲み続けていればすぐに治るということだった。
それでもジルの魔法のおかげで痛んでいた肺がよくなったのか、ウノリは大分咳の回数が減っていた。
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