記憶喪失で美醜反転の世界にやってきて救おうと奮闘する話。(多分)

松井すき焼き

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第34話 罪を憎んで人を憎まず

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とにかくジャファールさんのことをどうにかしようと、アルは思いながら牢屋部屋をあとにした。
そこでにやにや笑いながらアルを見ている兵士の男に気が付く。

「へい!君綺麗だね」
 兵士?みたいな剣を腰に差した若い男は、アルに気が付くとそばまでやってくる。
「あ、ありがとうございます」
一応そういっておく。顔が引きつる。

「ねぇ、ねぇ、普通さ、獣人の面会なんて受け付けないんだよ。俺君のために、OKだしたんだからさ、俺に感謝してほしいな」
男の手がアルの背中に添えられる。
悪寒がしたが、ジャファールさんのためだと、耐える。
「あ、ありがとうございます」
「俺の名前はソラルっていうんだ。俺さ、騎士でここで警備兵として働いているんだ。アルさんだよね?よろしくね。いつでも面会に来ていいからさ」
「あ、ありがとうございます」
あ、ありがとうございますと、ばかり言っているような気がする。
ソラルが屈んでアルの耳元で囁く。
「今度デートしない?どうかな」
 空色の瞳がアルを凝視している。
アルの目は死んでいた。

すると後ろからソニアがアルの体を引き寄せてくれた。
「悪いが、俺たちは急いでいる。デートは無理だ」
ソニアのアイスブルーの目が、男を射抜く。

静かに恐ろしい肉食獣の狼の瞳に、ソラルは無意識に震えあがる。ソラルは自分が恐怖したことに屈辱を感じ、ソニアを睨みつける。
「な!?獣人風情が、俺たち人間に対等な口きいてんじゃねぇよ!」
酷いいソラルの言い草に、アルは頭にくる。
「そんな」

「何をしている!」
男の鋭い声が、声を上げようとしていたアルの声を遮る。
金髪の妙にガタイの好い、ギリシャの彫刻のような体をした背の高い甲冑を着た騎士?の男がやってきた。
それを見たソラルは姿勢を正し、焦った様子で「ヴェ、ヴェルディ様!」と声を上げた。
もしかして偉い人なのかと、アルは警戒する。というか、早く仮面をつけたい。
「勝手に面会人をいれたそうだな。何を考えている?」
ヴェルディと呼ばれた男は、冷たい視線がソラルを射抜く。
「も、申し訳ありません!この獣人の男がしつこくて」
にっこり笑うソラル。
最低だなと、アルは冷たい視線をソラルに向ける。

「君たちも用事がすんだら、さっさと出ていけ。面会人は基本断っている。もう来るな」
 ヴェルディの冷たい視線がアルとソニアに向けられる。
「面会を全面禁止って、ひどいんじゃないでしょうか?証拠隠滅とかの可能性をぬけば、事情を知らないでまっている家族の人とか子供とかいるんです!罪を憎んで人を憎まず。誰かとらえられた人の事情を知らせる人が必要だと思います」
「うるさい。さっさといけ。そんなことをいって脱獄したものは多いんだ。何も知らないものが口を出すな!」
「何も知らないのはあなたもでしょう?冤罪かもしれないし、待っているご家族さんがどんなに苦しいか、あなたは考えないんでしょうか?」
というか、目の前の男は何なのか何も知らず、負けじとあるは声を跳ね上げる。
「馬鹿な」
ヴェルディとアルはにらみ合う。

「アル、やめろ。行くぞ。話しても無駄だ。」
ソニアに腕を掴まれ、アルはそこから後にしたのだった。
その後アルの仮面は返してもらえず、アルは持っていた布のタオルで顔を隠す羽目に陥った。
すぐにそのあと仮面が売っている店を見つけて、やっと顔を隠せた。
疲れてというか落ち込んでぼんやりしているアルを見かねて、ソニアが「休んでいろ。何か飲み物買ってくる」とアルを座らせて店に行った。
帰ったら尻尾をもふらせてもらおうとするアル。

石垣の花壇わきに座ってぼんやりしているアルの前に、黒髪の男がやってきて「やあ」とにっこり微笑んだ。
その男は以前アルを誘拐した男だった。
「あなたは?」
「久しぶり、忘れちゃった?君の守り神のキリルだよ」
「付きまといの?」
「君の見守り隊だよ。今日は君にいいものを持ってきたんだ」
キリルはアルに一枚の紙を手渡してくる。

「なんですか?これ」
「君に読めるかどうかはわからないけれど、あのジャファールという男の会社の経理の書類だよ。君たちそれを欲しがっていただろう?」
「な、なんでそれを?」
「俺は何でも君のことを知っているんですよ」
キリルの漆黒の瞳がアルを見る。アルはぞっと、する。
「じゃぁね、アル君」
そういうとまるで幻のようにキリルとかいう男は消えた。

なんか、気持ち悪いなとアルは嫌な気分になる。

 ここからは少し先の話になるのだが、
アルたちが買い物をして家に帰って、字が読めるジルにその書類を呼んでもらうと、大金を横領していたのはジャファールではなく、経理担当のハンジュという名前の男だった。
だがジャファールも少しずつ横領していることも記されていた。

アルはジャファールの同僚の白猫獣人のティルという人に会いに行った。
ティルさんは黄色い瞳と青い瞳の左右違う色をした綺麗な人だった。
「こんにちは」
にっこりアルは微笑む。
仮面を外さないアルに、ティルは警戒した面持ちで、「こんにちは」とあいさつを返してくれた。
「私はジャファールさんのお子さんを預かっている子供少人数預りどころのものです」
「ああ!あなたが、レオン君がどうしているか心配してたんです!」
「レオン君は元気です」
「今度彼に会いに行ってもいいでしょうか?」
「ぜひ」
にっこりアルは微笑む。仮面下の表情はわからないが、嬉しそうな声音で表情が予測できる。
ティルは嬉しそうに細長い白い尻尾をくねらせていた。

「一つ聞きたいんですが、ジャファールさんの給料は低かったんですか?高かったんでしょうか?」
「は?」
「ジャファールさんは、工場ではどういう待遇だったんでしょうか?」
「……そりゃひどいもんですよ、我々獣人に対して。同じ人間と思っていないような。ジャファールさんはなまじ優秀なだけに、嫉妬とかひどいもんでしたよ。
給料なんて少なくて、子供なんて養っていけないんじゃないでしょうか?だから夜は別の工場でジャファールさんは働いていましたよ。ジャファールさんは大変優秀な人なのに。ジャファールさんのおかげで工場がもっていたようなので、もうこの工場はもうだめでしょうね」
「……そうですか」
アルが知りたかったことはもう知れた。

ティルさんにアルの家の場所を教えて、アルはティルと別れた。
一人になったアルは、手元に置いた経理の証拠書類をびりびりに破いて、捨てた。

「いいのか?」
とソニアに聞かれ、アルは微笑んだ。
「罪を憎んで人を憎まずというでしょう?」
「なんだ、それは?」
不思議そうなソニア。
「実は私も難しくて、この言葉の意味をあまり分かっていないんです」
「何か不思議な言葉だな。わかるような、わからないような」
「本当にそうですね」
そう言ってアルとソニアはそこから歩き出した。

十分ジャファールさんは苦しんだのだ。もう幸せになってもいいだろうと思う。それからしばらくしてジャファールさんは犯罪奴隷として売りに出された。

それからしばらくたってしまったが、お金を貯めたアルが、ジャファールを買ったのだった。それももう少し先の話になる。
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